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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第7章 セオドール

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62 疑惑

誤字報告 いつもありがとうございます。助かっています。


 

「なぁ、ランス卿様。今回の一連の出来事を簡単に教えてくれないか?何かひっかかるんだ」

 

「一連?どういうことだ?」

 

 今日の出来事をランス卿に報告した後、マートは首をかしげながら、そう言い始めた。

 

「屋根裏に潜んでいた男と女、2人共間諜だとしたらレベルが違いすぎると思わないか?男のほうは、お粗末過ぎて、最初、ランス卿が俺を試すためにわざと屋根裏に潜ませているのかと思ったぐらいだ」

 

「たしかにそんな事を言っておったな」

 

「そして、今日、セオドール様にはたしかに監視はついていたが、2人とも普通の召使か何かで、間諜としては素人だ。もしかしたら、わざと判るようにしてるのかと思うぐらいにな」

 

「それは、どういうことだ?」

 

「わからない、ロニー様の配下の不手際かもしれない。だが、引っかかると思えないか?元々兄弟がこうやって諍いを起こしたというのはなにかきっかけがあるのか?」

 

「元々、セオドール様とロニー様は年が近いこともあって、仲は良かったのだ。だが、ロニー様が10才になられた頃から、母親の血について言葉にされるようになり始めた」

 

「ああ、セオドール様の母親は庶民出身だという話か」

 

「その通りだ。この花都ジョンソンでも指折りの豪商の娘で、それはそれは美人じゃったぞ。いや、もちろん今でもお美しいがな。だが、貴族ではなかった。ロニー様の母親は公爵家から嫁がれておってな。公爵家ということは、つまり王家の血筋ということじゃ。それをロニー様に吹き込んだ連中がおったのじゃろうな」

 

「なるほどな」

 

「ただ、その話は、あくまでも兄弟間の話であって、伯爵家の後継ぎがどうこうという話ではなかったのだ。儂が聞いたのは去年のロニー様二十歳の誕生日で、誰かがロニー様こそ伯爵家を継ぐべきだと言いはじめたらしいのだよ」

「ロニー様は慌てて否定をしたのだが、取り巻き連中が、酒も入った勢いで騒ぎ始めてしまっただけだと、仰っているらしい。だが、その話が収まらない内に、今度は伯爵が原因不明の病気で倒れられた。花祭りでは、セオドール様の妹であるジュディ様が怪しげな連中に尾行された。セオドール派の若手連中は、ジュディ様が危険な目に遭われたと聞いて、ノーランド男爵家に殴り込みをかけるのだと息巻いておったぐらいじゃった。それはなんとか儂が止めたがの」

「ハリソンから受け取った手紙によると、ノーランド男爵は内政官筆頭と言う立場で、領内の作物や税金の扱いを管理しており、セオドール派の商人たちに圧力をかけようとしているらしいのじゃ。元々、セオドール様の母親は商人出身じゃから商人の中ではセオドール派が多い」

 

「らしいとかいう事が多くないか?伯爵の病気は確かにこのタイミングでとは思うけどな。それと、花祭りでお嬢を襲おうとしたのも、確かチンピラ程度の連中だったな」

 

「何故そんなことを知っておるのだ?」

 

「いや、丁度居合わせて、お嬢とハリソンを店まで送ったのは俺だったからさ。たしか、ハリソンの護衛のレドリーと俺とで片付けれそうだなと思ったのは憶えてる」

 

「そうだったのか。で、結局そなたは何を言いたいのだ?」

 

「わからん。でも、何かさ、こう....すっきりしないというか」

 

「わかった。儂も考えてみよう。今日の城での受け答えは十分出来ておったぞ。あの調子であれば、必要な時に連れて行けそうじゃ。明日はどうする?」

 

「収穫祭初日の狩りが行われる森に行ってみようと思う。きっと、森番がいるんだろ?」

 

「ああ、狩りが行われる森は、伯爵家が管理していて、普通の人間は立ち入りが禁止されている。森を管理する村があってな。普段はそこの住人のみが森に入ることができるのじゃ」

 

「やっぱり、そういう森か。そういうところの森番っていうのはあまり評判は良くない事が多いんだよな。地元の他の村々の連中とは敵対することが多いからさ。あんまりひねくれてなければ良いんだが」

 

「そこまではわからんの。では、また報告は明日の夜頼む」

 

----- 

 

 朝になり、マートが出かけようとしていると、館内がなにやら騒がしくなり始めた。強化した聴覚でその交わされる会話を拾ってみると、地下牢に入っていた男が殺され、女が逃げたらしい。

 

「あーあ。もう、何やってんだよ」

 

 彼は思わずそう呟いて、自分の部屋を出、2人を監禁していたはずの地下牢の方に向かう。

 

「ちょっと中を覗いていいか?」

 

 マートは地下牢の入口に立っていた顔見知りの従士に声をかけて、中に入る。

 

 地下牢はどこも同じだがかなり不衛生で、よどんだ空気が溜まっていたが、彼の鼻は、ランス卿の長男のアゼルの臭い、そして他にこの館では嗅いだことのないもう1人の男の体臭を嗅ぎ出すことが出来た。

 

「逃げられちまったみたいだな」

 

 マートは中で苦虫を噛み潰したような顔をして立っているランス卿にそう言った。

 

「アゼルめが。折角の手がかりを……」

 

 アゼルというと、彼の息子の名前で、たしか騎士団に勤めていたはずだ。

 

「アゼル様が何をしたんだい?」

 

「早朝、牢番を脅かして鍵を奪い、女を連れだしたらしい。その時、隣の牢屋に入っていた男を殺したようだ。そなたがお粗末と言っていた屋根裏に忍び込んでいたもう1人のほうだ。あやつは何を考えておるのだ」

 

「蘇生呪文は?教会に頼めばその男は生きかえらせれるんじゃねぇのか?」

 

「だめだ、もう1時間以上経っている。無理だ」

 

「とりあえず追跡するか。狩場のチェックは後回しだ。街の中は匂いが紛れて見失いやすい、急ごう。女を追うでいいな?」

 

 マートはそう言って、小走りに門を出た。ランス卿の補佐官と、配下の騎士たちが慌ててその後を追い始めた。

 

読んで頂いてありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[一言] アゼルの匂いと知った後にアゼルが何者なのかを考えるのは違和感がある様な?
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