52 教授の好奇心
「泉の精霊には、私、ヤドリギの枝を頂きました。それなのに、その精霊を改変してしまおうとするなんて、そのような恩を仇でかえすような事には、私も賛成できません。私は、魔法の力を邪悪な龍を滅ぼす聖剣を使う騎士を助けるために研鑽を行ってまいりましたし、泉の精霊には私、仲間と呼んでいただいたこともあります。教授、あなたは確かに魔法の能力は素晴らしいですが、このようなことを考えられるとは……」
ジュディの見幕に何か感じるところがあったのか、教授は頭を掻き、汗をぬぐった。
「わかった、わかった。儂が悪かった。つい好奇心を優先してしまったようじゃ」
「本当に反省していらっしゃいますか?」
「う…うむ。反省しておる」
「では、何か仰る事はありますか?」
「何か…とは?」
ジュディは溜息をついた。
「猫さん、今回は申し訳ありませんでした。後ほど、改めて宿に伺わせていただきますわ。クララ、お送りして」
「!、折角来てくれたのに、もう?もう少し良いじゃろう?ここの文様ももう少し調べたいのじゃ」
祭壇を収納しようとしたマートに教授がすがりつくような動作をした。
「では、教授、それを見せて頂くのに、幾らお支払いすることにしますか?」
「幾ら?そんな……金は……。ジュディ君は知っておるじゃろう。儂が給金のほとんどを貰ったらすぐ研究に使いきって、手許に残った金など……」
「では、考えてください。猫さんが納得できそうな提案を」
「提案?……提案……。精霊を……仲間と……そして、その溜まった負の力を何かに……昇華……」
教授は、考え込んだ。そして、なにかにハッと気づいた様子で、顔を上げた。
「そうじゃ、何か精霊でなくても、媒体として……使える……何かがあれば……」
「それは、生物でなければダメなのですか?」
「いや、そうとも限らぬが、形として想像がしやすいものが良いのじゃ……犬や猫がダメというのであれば、例えば人形とか……」
「では、闇の精霊や影の精霊と教授が会いたいというのであれば、闇の精霊や影の精霊のイメージの人形を用意して、それを依代にすれば、どうなのですか?」
「つまり、人形を依代として、精霊として新たに創造するということか。いや、人形をホムンクルスとして進化させるというのが近いのか。むむむ…。たしかにそれほどの力は溜まっておったはずじゃが。よし、わかった、それで試みることにしよう。では、この祭壇をもう少し調べさせてくれるか?」
ジュディと教授のやり取りを見ていたマートとアニスは、顔を見合わせた。
「いかがでしょう。猫さん。教授はこう言ってます」
「祭壇を研究できるのなら、無料で試してくれるってことで良いのか?」
「はい、その様ですね。教授は好きな事だと寝食を忘れてのめり込んでしまうので…。おそらく準備に3日程かかるでしょうから、その期間、出来ればご飯ぐらい差し入れしてあげて頂けるとありがたいです」
「成功率はどれぐらいなんだ?」
「100%に決まっておる。全力を尽くすのじゃぞ」
「まったくわかりません。しかしゼロではないとおもいます」
意気軒昂な教授の言葉に、ジュディは冷静な言葉をかぶせる。マートはため息をついた。
「わかった。成功しても失敗しても金は要らないんだし、試してみても良いだろう。その人形というのはどうすれば良い?」
「こちらで用意させていただきます。闇の精霊や影の精霊に関する教授のイメージもだいたい想像がつきます。それ位はイメージに合わせてあげたほうが、少しでも成功率が上がる気がしますので」
「わかった。では頼むことにしよう。明日の昼頃また顔を出すことにするよ。教授、それまでは祭壇を預けるが、昼には仕舞うぞ。その後、両腕が動くようになったら、しばらく祭壇は教授に預けることにするから、それまでは儀式に集中してくれるか?」
「しばらく研究し放題!わかった。もちろん。全力を尽くすぞ!」
教授のやる気は、かなり上がったようだ。意図も理解できたし、少しは安心できるかもしれない。そう考えて、マートたちは一旦宿に戻り、ジュディに任せることにした。
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“ウェイヴィ、一時的に接続を切るようなことは出来るか?儀式の途中だけ、念のため……というやつだな”
“ありがとう、ねこ。嬉しかった。繋がりは切ることはできないけれど、殻のようなものを作って、身を守ることはできるわ。その間はねこの様子を見る事は出来ないけれど、そうやって、儀式の間を過ごすことにするね”
“ああ、よろしく頼む。彼の言葉だと、あと1人、精霊が仲間に加わる事になるかもしれない。それは良いか?”
“うん。精霊使いは、いくつかの精霊と契約をむすび、力を得るものよ。かまわないわ。”
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