48 遺跡地下脱出4
マジックバック→ マジックバッグ
(リッチの持ち物)本が1冊 → 分厚いノート
「猫、何をやってるんだ。アニスとアレクシアは無事か?」
状況が見えていないらしいエリオットの罵声が飛ぶ。マートは、目の前の男を確認した。実体があり、息はしていないようだが、念のためにトドメを刺してから、アニスとアレクシアを起こす。彼女たちはゆっくりと目を開けたが、まだぼんやりとしているようだ。
「姐さん、アレクシア、しっかりしろ」
「とりあえずさっさと祭壇を壊せ。ゾンビとスケルトンだけじゃなく、ゴーストやレイスまで居やがる。もう、持たないぞ、撤退だ」
エリオットは再び叫んだ。
マートは、剣を収めると、祭壇を下から手で持ち上げようとした。かなり重いが肉体強化スキルもあわせて使い、そのまま、ひっくり返す。
大きな音がして、祭壇が崩れた。その壊れた残骸の中から、黒い靄のようなものが立ち上がる。その靄は、大半が祭壇を壊したマートの身体に、そして、すぐ傍に立っていたアニス、アレクシアの身体にも、少しずつだがすぅっと吸い込まれていく。逃れる暇もなかった。
「何か、黒い靄が……」
途端にマートは身体がカッと熱くなり、その熱は、両腕に集中して、焼ける様な激痛に変った。彼は自分の両腕を抱える様にして唸り声を上げた。その横で、アニスは右手、アレクシアは左手を押えている。
マートの両腕は肩から指先まで瞬く間に黒くなった。アニスは右手だけだが手首から指先まで真っ黒だ。アレクシアのほうは左手は掌だけがうすく黒くなっている。
「ちっ、こいつはドジ踏んじまった。たぶん呪いだよ。祭壇には、すげぇ思いが凝り固まってたみたいだね。猫、アレクシア、気をしっかり持ちな。高位の神官は呪いを解ける。それまでの辛抱だよ」
アニスが歯を食いしばりながら、そう言った。
「あ、ああ。くっ……両腕が動かねぇ」
「は……はい。うう 手のひらが熱い…です」
一方で、ショウ達が相手をしていたアンデッドは急に戦う意志を失ったようで、彼らを攻撃するのを止め、通路の奥に撤退し始めた。
3人は、急に戦いを止めたアンデッドを不審に思いつつも、深追いをせず、アニスたちのところに戻った。
「向こうではゾンビたちが退却していった。祭壇を壊したせいか?」
そこまで言って、ショウたちは、マートたち3人の異変に気が付いた。
「おい、大丈夫か?猫、なんだ、その両腕は。アニス、アレクシア、どうしたんだ?」
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「祭壇に触れた部分が、呪われたってそういう訳か」
ショウは、深刻そうな顔をして、そう言った。
「ああ、そうみたいだね。黒くなったところが、その部分さ。私は右手の手首から先だ。ようやく痛みは引いてきたけど、右手の手首から先の感覚がないよ。集中すればゆっくりなら動くけどね」
アニスは、右手をゆっくりと回すようにしながらそう言った。
「私は、左手の手のひらですね。すこし痺れたような感じです。動きますが、いつもどおりではなく、かなり鈍い感じです」
アレクシアはそう言いながら、マートのほうを見た。
「俺は、やばいな。右腕も左腕も、肩から先が全然うごかねぇ」
彼は、真っ黒に染まった両腕をだらんと垂らし、そう言った。
「アニス、呪いを解く方法は?」
「祭壇は壊しちまったしね。しかし、この祭壇が手がかりだ。これを持って、教会の偉いさんのところに持っていって調べてもらうしかないが…。私も神官とは言っても下っ端だからねぇ。今回、探索中に見つけた物について、どういう取り決めになってた?」
「モンスターのドロップ品は、俺達が自由に持っていって良い事になってる。ただし、遺跡のものはダメだ」
「こいつは、どうなんだろうね」
「一応確認だな。ただ、呪いの関連品ってことであれば、魔術師ギルドも強くは言えねぇだろう」
ショウは頭を抱えた。
「たぶん、今回の件で救出作業にもかなり金をつかってるだろうからな。キャロルも見舞金をちょっと考えてやりたいし、呪いの解除に関して補填してくれるわけじゃねぇだろう。参ったな」
「とりあえず祭壇は、持っていくか」
マートはそう言い、だらんと垂れたままの手を壊れた祭壇の上に置いた。
「何をするんだい?」
「マジックバッグさ。誰が触るのも危険だろう。とりあえずそこにしまう。容量的には祭壇入れたら精一杯の小さいものだけど、触れたものを収納することが出来る。悪いがそこの新しい死体の持ち物を探っておいてくれ。気をつけろよ、そいつがアンデッドを操ってたらしいからな」
クインシーが手を出そうとして、固まった。アレクシアが私がしますと言って持ち物を探った。
「持ち物は立派な指輪が一つ、あとは布袋ぐらいのようですね。中には分厚いノートと、あとは、着替えとか金貨とか……」
「それも、手がかりになるか。一旦貰っていっていいか?」
「ああ、良いが……猫、どうするんだ?」
「ショウさん。悪いがこの腕じゃ、何も働けねぇ。しばらく、冒険は止めだ。幸い、前の仕事で伯爵様の娘とつながりができた。これを持ってって、呪いを解く教会のお偉いさんにつながりを取ってもらえないかお願いをするつもりだ」
「お願いするって、お前、その腕じゃ冒険どころか、飲み食いも何も出来ねぇだろ」
「まぁ、そうだけどな。それはこれから考える」
「わたしが、一緒に行きます」
マートの言葉が終わるか終わらないかというところで、アレクシアが言った。
「祭壇を壊す役割は、本来私たちでした。腕が使えないのも、マートさんが身代わりになってもらったようなものです。アニスさんは、クランのサブリーダーで、しばらく後始末で動くことはできないでしょう。もちろん、私も呪いを解いてもらいたいのです。私に一緒に行かせてください」
「おいおい、アレクシア。ちょっとよく考えろ。呪いが解けたら、姐さんにもあんたにもちゃんと連絡してやるから」
マートは、驚いてそう言った。両腕が動かせないというのは、ほとんどの事が自力ではできず、食事や着替え、排泄といったことすら手伝ってもらうことになる。アレクシアとは、ほとんど言葉を交わしたこともないのだ。
「ショウ、これほどの事があったから、クランも大変だと思うけど、私も行っていいかい?猫がいう伯爵の娘っていうのは、私も知ってる相手だ。どうせ右手が使えなけりゃ、仕事にならないしね。私も助けに来てくれて、呪いを受けたのを、このまま放り出すというわけにも行かないだろ」
アニスもそう言いだした。
「アニス、アレクシア。行くのはかまわないが……」
ショウはその様子を見て、そう言いながら周りを見回した。
「とりあえず、その話は後だ。まず、脱出するぜ、ジョブたちも待ってる。祭壇に関しては交渉するさ」
通路の向こうからは、探索隊の声が聞こえ始めた。
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