44 転移トラップ3
「猫、お前はどうやって俺達を助けに来てくれたんだ?」
5人は意識を取り戻し、マートに服を借りると、大きな部屋に集まった。ただ、皆、歩くのもやっとで、すぐに椅子に座り込んだ。
そこで、クランリーダーのショウがマートにそう尋ねた。
「みんなが急に姿を消してから、すでに1週間以上経っていて、残されたサブリーダーのジョブさんは魔術師ギルドと話をしながら、いろいろ予測をしたんだ。おそらく転移トラップだろうという目星を立てたんだが、魔法装置の解析にはすごく時間がかかるらしく、結局、ほとんど寝ずに遺跡の地下の探索を行ってる。ショウさんたちを探すためさ」
「申し訳ないけど、この事を俺が知ったのは一昨日のことだった。で、俺はジョブさんに提案したのさ。俺がわざと転移トラップに引っかかってみるって」
「おい、何でそんな危険な事」
エリオットが思わずそう言った。
「まぁ、そう言うなよ。たしかにちょっとは無茶かもしれないけど、分の悪い賭けでもなかったさ。実際こうやって話をしてる」
「たしかに、猫のおかげで俺達は助かったわけだが……」
「地下水の中っていうのは予想外だったけどな。俺が転移した先の地下牢ではキャロルが死んでたよ。俺が転移したところは、みんなと違って、天井が崩れてなかったから、どうしようもなかったんだろうな」
「そうか、キャロル、探したんだが……」
「姐さんは知ってるんだが、俺はついこの間、精霊魔法が使えるようになって、水の中で呼吸ができた。そのおかげで、なんとか地下牢を脱出することができた。ああ、そうそう、これを返しておくよ」
マートは拾っていたアニスのバックパックを返した。
「ああ、見つけてくれてたのかい。嬉しいよ」
「そいつを見つけたおかげで、みんなが地下牢の階じゃなく、上の階に移動してたことがわかったんだ。あとは、音や光を頼りになんとか見つけれたって訳さ」
「ありがとうよ。猫。ほんと助かった。ところで、ここはどこか聞いていいかい?」
「ああ、姐さんとクインシーは、この間の巨大な鉄槌の頭目について憶えてるか?実は、あの後、あいつらのアジトに何か残ってないか調べに行ったのさ。そして、ここへの扉のノブを見つけたんだ」
マートは、5人に、盗賊のアジトでみつけた魔法のドアノブについて話をした。そして、盗賊の頭に捕まっていたエバとアンジェという2人をここから救ったという話も。
「へぇ、そんなところに行ってたんだ。しかしよく判ったねぇ。いや、まぁいい。そんなのは猫の才覚だ。なるほどね。街であんまり姿を見かけないと思ったら、こんなところを見つけて、入り浸ってたのかい」
「ああ、姐さん、そういう事さ。申し訳なかったが、この事件を知るのを遅れたのも、ここに居たからだ。しかし、丁度魔石を手に入れて風呂が使える様になっててよかったよ」
「ああ、猫、助かった」
じっと話を聞いていたショウが、そう言った。
「という訳で、あの時、みんなを助けるには、ここで身体を温めるしかないと思ってつれてきたんだが、悪いけど、ショウさん。そして皆、ここの事は黙っておいて欲しいんだ。わかるだろ?こんな魔道具、貴族の連中とかになんだかんだ言って取り上げられるに決まってる。そうじゃなくても、狙われるだろう」
「これは、転移呪文の魔道具だな」
エリオットがそう言った。
「転移呪文というのは第六階層の呪文だ。素質がないと習得できないと言われている。だが、使える人間が居ない訳ではない。残念ながら僕はまだだけどね。今の説明でいうと、ここにしか来れない魔道具なのだろう?確かに今回は助かったし、珍しい魔道具だとは思うが、自由なところにいけるわけじゃないからな、それほど凄いとは思えない」
「男連中はそうじゃないかもしれないが、私達女は、外でキャンプしなくて済むってだけで、凄く助かるけどねぇ」
「とりあえず、猫、本人が言うんだから、黙っておくことにしよう。みんなも良いな。命の恩人の頼みだ。いつも、クランメンバーの奥の手は知ってても、言わないのと同じだろう」
「ああ、ショウ、わかった。しかし良いのを手に入れたな。あの風呂も贅沢じゃないか」
クインシーがそう言った。
「うん、猫、ほんとにありがとう。私はたまに遊びに来たいかも。近くにあるの海でしょ?私、海って初めて見るんだ。美味しいものとかも採れるんでしょ?」
アレクシアがそう言って微笑んだ。
「そうだな、とりあえず落ち着いたら、改めて招待しよう。実は自慢したかったのさ。ただし、今は休養に努めてくれ」
マートもそう言って笑った。
読んで頂いてありがとうございます。




