41 遺跡地下の捜索
「リーダーたちが姿を消しておおよそ一週間になる。俺も魔術師ギルドの連中と何度も打ち合わせを行い、様々な可能性を検討した」
ジョブは続けた。
「まずは単純に落とし穴に落ちたんじゃないかという説だが、この部屋には、拠点とするための物資の入った袋や個人の背負い袋も一部残されていて、人だけが手に持っていたものと一緒に消えたという感じなのだ。もちろん袋などは固定されているわけじゃない。6人が同時に落ちるということはかなり大がかりな落とし穴ということになるが、袋などが残されているという事からその可能性は低いと思われる。もちろん全く探していない訳じゃないが、落とし穴らしきものも見つかっていない」
「次に、魔物が現れて魅了やなにかの魔法などで6人が操られたという説。これについては可能性は0ではないが、全員を同時に魅了できるような魔物など聞いたことがないし、もしそうだとしてもそれならなぜ連れ去ったのか理由がわからない。これも可能性は低いんじゃないかと考えた」
「最後に、これが一番可能性は高いと思われているのが、なんらかの魔法装置によって、転移させられたという説だ。よくある転移トラップというやつだな。普通は部屋に入ったり、宝箱を開けたりといった際に発動するものが多いのだが、可能性として、どこかの床を踏んだり壁を触ったりという事が有り得るだろう」
「成程な」
マートは頷いた。
「その可能性に思い至った魔術師ギルドは、魔法感知の呪文を使ってその魔法装置を探すことにした。だが、困ったことに魔法装置が部屋の中に10個以上あり、調査はたいして進んでいない。下手に触ると転移させられてしまうことになるからな」
そう言って、ジョブはため息をつく
「転移トラップというのは、同じ迷宮内に転移させられる可能性が高く、その先で囚われたりというのがほとんどだ。だが、ごくまれに転移先は意図されたものではなく、すでに設備の一部が老朽化や地震などで破壊されたりして、地下空洞に落下したというケースもあるらしい」
「そのため、残ったクランメンバーは現在、リーダーたちが、同じ遺跡地下に転移させられていることを信じて遺跡地下の探索を行っている」
「今のところ、地下3階までは進んだ。だが、その階層にはゾンビやスケルトンが大量に発生していてな。探索作業は難航しているのが現状だ」
そこまで話すと、大きく息を吸い込んだ。
「もう、一週間なんだ。俺はどうしたら良い?探索は魔術師ギルドにも手伝ってもらって昼夜交代で24時間続けているが、メンバーもそろそろ限界だ。だが、まだ、さらに下がありそうなんだよ。元々俺はこういう頭を使うのが苦手なんだ」
「6人って、ショウさん、姐さんと、エリオットさん、クインシーと他誰だっけ?」
クランリーダーのショウとサブリーダーで魔法使いのエリオット、斥候のクインシーと目の前のジョブの4人はこの黒い鷲というクランの立ち上げメンバーで、長い間同じパーティを組んでいたメンバーだと聞いたことがある。年も4人とも同じぐらいだったはずだ。
アニスはもとより、ショウ、エリオット、クインシーの3人も、彼が所属していた旅芸人の一座が解散して、冒険者となり、クランに入ってからは、いろんな事を教えてくれ、世話になった恩人たちだった。
「キャロルとアレクシアだ」
キャロルは彼より2年ほど先輩で、たしか魔法使いだ。あまり一緒に冒険したりすることはなかったが、落ち着いた雰囲気のいい男だった。
アレクシアは斥候だったと思う。マートとほぼ同時期に入った女性で、黒い短い髪で白い歯が印象的だった。
マートはすこし考え込んだが、軽く首を振り、明るい表情を作った。
「なんだ、そんな事か。じゃぁ、俺がわざとトラップにかかろう」
「あ?いや、俺は言ったよな。転移先は致死性のものがあるって」
「ああ、言った。大丈夫、俺は落ちない」
「落ちない訳ないだろう?」
「大丈夫だ。落ちないのさ。超身が軽いのはあんたも知ってるだろ?」
「それはそうだが」
マートは、彼の耳元に口を寄せて、小さな声で囁いた。
「最近、飛行の魔道具を手に入れたんだ。絶対内緒だぜ」
「ほ、本当か?」
「な、安心だろ?」
マートはジョブにウィンクをして見せた。
「だから大丈夫なんだ。もし死ななかったら、落下先にはリーダーのショウさんや姐さんたちが居るんだろ。食料さえ余分に持っていけば生還できる。俺は水の精霊魔法がつかえるようになった。水の心配もしなくて良い。だから、安心して、ゆっくり待ってな」
「そ……そうか。なるほど。それなら……」
一週間ほとんど眠らずに指揮を執っていたジョブは精神的にかなり行き詰まっていたようで、マートの話に、すがりつくように納得した。
「転移トラップじゃなければ、また違う事を考えないといけないし、まずは作動させてみようぜ」
マートはそう言った後、ジョブには聞こえないであろう小さな声で続けて呟いた。
「姐さんたちには世話になったしな。一週間っていうのは、ほぼ限界に近いだろう。救う可能性があるとすれば、これしかねぇ。それに決して分の悪い賭けってわけでもないさ」
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マートは、そうやってジョブを説得し、クランメンバーが消えてしまった部屋に入った。
10個あるという魔道具を順番に見、可能性が高いものから、ジョブには部屋の外に出てもらって確認することにした。
「一つ目」
そう言って、マートは魔道具だという壁の飾りに触れた。何も起こらない。
「ちがうようだな。次行くぜ」
マートも声が緊張して震えている。
「二つ目」
何も起こらない。
「転移トラップじゃないのか?とりあえず次に行くぜ。三つ目」
何やらマートが知らない言葉がその場に流れ、ふわっと宙に浮くような感覚があった。
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