409 事の終わり
「ついに倒したぞっ」
マートは倒れた霜の巨人の死を確認した後、大きな叫び声をあげた。
「霜の巨人は死んだぞっ!」
その叫び声は続いて部屋に突撃してきたオズワルト率いる500の騎士たち、ワイアット率いる蛮族討伐隊500の戦士たちにも広がっていく。皆それぞれに雄たけびを上げた。
「このまま、この建物にいる蛮族どもは倒しちまって、さっさと撤退するぜ。地下の祭壇は俺とお嬢で何とかするから、シェリーとオズワルト、ワイアットはこの建物に残る蛮族連中を頼む。コリーンたち諜報部隊は2人に場所の説明を」
「おおー-っ!!!」
配下の騎士たちの返事がすごい勢いだ。アレクシアと長距離通話をしていたジュディは何度も頷いている。
「猫、倒したって連絡を受けてオーラフ島はもちろん、ローレライもどこもすごく盛り上がってるみたいよ。アズワルトやリディアたちはすでにあの遺跡をほぼ占領したって。エリオットとパーカー家の魔法使いが協力して島の各所にも蛮族たちからの解放のための騎士や戦士たちを派遣し始めてるみたい」
「おお、いいな。じゃぁ、こっちもさっさと片付けるぞ」
「片付けるってどうやって?」
「まぁ、入口を崩して出入りできねぇようにするぐらいしかできねぇだろうな。どうせ溶岩にたどり着ける場所はここだけじゃねぇし、そこまで厳重にするほどの意味はないだろ」
「そうね。じゃぁ、魔法でやっちゃいましょう」
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マート、シェリー、ジュディ、そしてオズワルトとワイアット達が率いてきた部隊は、巨人の里の中心、裂け目の底にあった巨人の寺院というべき建物に残っていた巨人たちを壊滅させ、火の巨人となるための地下に通じる階段も使えないようにした後、霜の巨人の遺体と共にローレライに凱旋した。霜の巨人を倒したことはすでに人々に知らされており、これで聖剣の予言でいう邪悪なる龍が倒されたことを人々に告げると紅き港都と呼ばれるこのローレライの都はお祭り騒ぎとなっていた。
「かえってきたぞっ!!」
ローレライ城のバルコニーから祝いに駆け付け領民たちでいっぱいになった前庭にむかって、マートたちは手を振った。
「侯爵様万歳っ」
「聖剣の救護者万歳っ」
「聖剣の騎士万歳っ」
「聖剣の魔法使い万歳っ」
「オズワルト騎士隊長 万歳っ」
「ワイアット蛮族討伐隊 隊長万歳っ」
いろいろな呼び声の中には、他にもまだ現地から帰れていないアズワルト、アマンダなどを称える声などもある。しばらくの間、皆それに応えたのだった。
「お疲れだったね。ついにやっつけたね」
留守を守っていたアニスが騒ぎつかれて座っているマートに声をかけた。その横にはアレクシアもいる。
「姐さん、ありがとよ。アレクシアもお疲れさん。なんかよくわからねぇままに突っ走ってきたが、これで……」
「ああ、蛮族の脅威から救われた。猫はよくやったよ」
アニスがにっこりと笑った。
「マート様、お疲れ様でございました」
ライラ姫とエバ、アンジェもやってくると深々とお辞儀をした。
「ああ、なんとかな。これで少しはみんな安心して暮らせるだろ」
「はい」
彼女たちは嬉しそうに頷いた。
「ライラ、マシュー殿は?」
「まだ現地に残られて怪我人の回復に尽力されています」
「そうか。教会には礼を言わねぇとな。我が領にも新しい教会を建てねぇとな」
「マシュー殿も喜ばれるでしょう」
ライラ姫はにっこりと笑った。
「オーラフ島に行っていた他の連中はいつごろになりそうだ?」
「はい、これから調整ですが、アズワルト様とアマンダ様は現地の指揮をとられていますので制圧に2週間程度かかると思われます」
「ライラ、忙しくて悪いが、少ししたら一緒に王都に移動して報告するぞ。他の国にはワイズ聖王国から伝えてもらった方がいいのか? リサ姫あたりには早く教えてやりてぇところだが……」
マートの呟きにアレクシアが首を振った。
「宰相閣下はワイズ聖王国の成果として各国に伝えたいと考えられるでしょう。そこはお任せされた方がよいかと。褒賞としてなにか国に求められますか? もちろんオーラフ島などは我が侯爵領として認められると思いますが……」
彼女はそこで言葉を切り、マートにちかづくと耳元でささやく。
「おそらくですが、ワイズ聖王国の他の侯爵、宰相たるワーナー侯爵、そして総騎士団長のエミリア侯爵に比べても収穫量は倍以上、王国直轄領に比べても遜色がない程になっているようで、ほんの一部の貴族たちからはすでに妬みの声が上がっているようなのです」
マートは苦笑を浮かべた。
「相変わらずつまらねぇ話だな。まぁ、オーラフ島やほかの島の領有を認めてもらうだけで十分だろうよ。別に他に領地とかもらっても仕方ねぇしな。シェリー、聖剣と聖盾は国に返すで良いか?」
「邪悪なる龍は倒した。私が持っている理由はないだろう」
シェリーは素直に頷く。
「代わりの剣と盾は今度ドワーフたちに頼んでおく」
「いや、それは要らないぞ。前に使っていたもので十分だ。年明けにはそなたの妻となる身であるゆえな」
シェリーの言葉にマートは虚を突かれたが、すぐに微笑みを浮かべた。周りに居るジュディ、ライラ姫、アレクシア、エバ、アンジェの顔を順番に見る。
「そうか、わかった。そうだな。年明けの結婚式は盛大にやろう」
皆は嬉しそうに頷く。
「私もよっ、ねこ、忘れないで」
ウェイヴィが無理やり姿を現した。
「ああ、忘れねぇさ」
彼女もにっこりとほほ笑むと、ほかの妻たちと同じく嬉しそうに頷いたのだった。
霜の巨人を倒したこのタイミングでこの猫と呼ばれた男は一旦終わりにしたいと思います。
結婚式とか魔法のドアノブ残り2つとか若干心残りがないわけではないのですが、頂いた感想にも返信させていただきましたが、もちろん希望の声が多ければ続編も可能性はありますし、違う話も書いてみたいという考えもあります。とりあえず一度お休みを頂いてそのあたりは落ち着いて考えさせていただければと……。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。
2年超に及ぶ長い間読んでいただき、本当にありがとうございました。
なお、続きの話については活動報告に続き?というのを載せております。ご希望などありましたら、そちらにもお願いします。(とはいっても、ご要望には添えるかどうかはわかりません。その点はご了承ください)




