408 決着
マートは霜の巨人に向かって立つとニヤリと口角を上げた。少し待てばシェリーとジュディがやってくる。ジュディがすぐというのなら本当にすぐだろう。実際に大勢の人間の足音も聞こえ始めていた。
そうすれば以前水都ファクラで戦った時と同じだ。ジュディが魔法無効化の効果範囲を被せて霜の巨人の魔法無効化の効果を一旦無効にした後、その直後に魔法を停止してそのタイミングでシェリーが聖剣で斬りかかる。それでとどめだ。
霜の巨人が転移呪文を使えるまでにはまだ10分近くの時間があるはず、呪文詠唱にも少しは時間がかかるのでさすがに逃げれないだろう。このままうまく行けば倒せそうだ。
「ギャヒ、ギャヒー」
霜の巨人は雄叫びを上げながら、再びマートに槍を繰り出してきた。そのたびにぴょんぴょんと後ろに下がりながら躱していく。また魔法無効化の効果範囲内になってしまった。念話が途切れる。
「ギャヒヒヒッ、ギャヒ」
霜の巨人が何かを喚いているが蛮族の言葉はマートにはわからなかった。だが、その言葉で炎の嵐で1体だけ倒れなかった丘巨人が呪文を唱え始めていた。マートに対する攻撃魔法か、それとも援護魔法か。妙に詠唱に時間のかかる魔法だった。あるいは基本的には蛮族の顔なんて見分けは付かないのだが、なんとなく見覚えがあるような気がした。魔剣やニーナならすぐわかったかもしれないが生憎どちらも魔法無効化の効果範囲内なので2人とも沈黙状態である。
マートは何回かの攻撃を避けた。足音が近づいてきた。それも人間のだ。ジュディたちだろう。そのとき、ようやくマートは思い出した。タヒルト! たしかタヒルトと呼ばれていた丘巨人。禁じられていた転移を使いマートたちがオーラフ島の発見のきっかけとなったやつだ。ということはあいつが長く詠唱しているのは転移呪文……また霜の巨人を逃がすための準備か……。
「もう逃がすかよ」
マートは一気にタヒルトに向かって飛んだ。霜の巨人もそれに気づくと、自身を守っていた魔法無効化の呪文を解除して追う。それとほぼ同時に部屋の入り口にコリーンに案内されたジュディとシェリーが顔を出した。
マートはすぐ後ろにまで追ってきている霜の巨人に向かって左手を突き出す。
「顕現せよ、ニーナ」
【肉体強化】
ニーナはマートの左の掌を勢いよく飛び出すとその勢いのまま、霜の巨人の顔を踏み台かのように蹴った。とっさのことに霜の巨人の速度が緩んだ。マートは霜の巨人をニーナに任せてそのままタヒルトに向かう。
<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る
<虚剣> 直剣闘技 --- 行動キャンセル技
マートの剣がタヒルトの首を切り裂いた。致命傷だ。タヒルトの詠唱が止まる。
「今度こそ決着をつけるよ」「覚悟せよ」
ニーナが宙に浮いたままカギ爪の形をした武器を構えた。反対側には聖剣と聖盾を構えたシェリー、さらに後ろにはジュディが迫る。
『加速』
ジュディの呪文でニーナとシェリーの動きが速くなった。
【氷の息】
「完全防御!」
霜の巨人はあたり一面に真っ白な風を吹き付けてきた。距離の近いニーナは完全に凍り付いた。だが同じく距離の近かったシェリーはとっさに盾を構えその聖盾のもつ完全防御を使う。一度はタイミングが遅くて防ぎきれなかった氷の息だったが、今回は彼女はそのダメージを完全に防いでみせた。そのまま盾をたたきつけるようにして前に出る。
「ギャヒッ」
<岩破> 格闘闘技 --- 装甲無効技
霜の巨人は大きな叫び声をあげてシェリーに殴りかかった。
<反剣> 直剣闘技 --- カウンター攻撃
シェリーはそれをかわしてさらに踏みこんだ。勢いそのままに聖剣を下から上に切り上げた。霜の巨人の右腕が半ばまで切り裂かれた。
「ギャヒー!!」
霜の巨人は悲鳴を上げる。
『溶解』
マートの呪文で凍りついていたニーナの氷が即座に溶ける。
「とどめだよ」「とどめ」
<破剣> 直剣闘技 --- 装甲無効技
<岩破> 格闘闘技 --- 装甲無効技
片手を失った霜の巨人は同時に2人が攻撃してくるのに咄嗟に対応できなかった。飛び上がったシェリーの剣とニーナのカギ爪が霜の巨人の身体を切り裂いた。吹き上がる血しぶき。
ついに霜の巨人の身体は力を失い、地響きを立ててその場に崩れた。
読んで頂いてありがとうございます。
今度は逃がしませんでした。次は、この島での戦いの結末も含めて最終話になるかと思います。1回か長くなれば2回?
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
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