404 夜襲5
パーカー家には先祖代々継承してきた正体不明の金属の箱というのがあった。異変があった時のためにという言い伝えがありつつも開け方のわからないものだった。マートは臣従の申し出のあった直後にリディアからその箱を見せてもらったのだが、その箱にはピール王国の古代文字で単純に保守責任者 パーカー家の証とかいてあり、パーカー家の血を引くリディアのみが可能な特別な開け方もきちんと書いてあった。箱は伝わっていたが、古代の言葉は徐々に廃れて当時庶民の言葉であった現代の言葉に入れ替わってしまい、その説明が読めなくなっていただけだったのだ。ピール王国の文字が読める魔剣に説明をうけ、リディアはその中に入っている身分証と書かれたタグを手に入れていたのだ。
「身分証でずが?」
アマンダに並んで前に出ようとしていたリディアが首にかけるチェーンに通したそのタグを手に取った。
「ああ、守護ゴーレムならそのタグを持つ者が命令できるはずだ。なんせ保守責任者だからな」
「なにど命令を?」
“『Subitis subsisto auctoritas ordinis sustentationem(保守権限者命令 緊急停止)』と伝えてみよ”
魔剣から伝わった言葉をマートは大声でリディアに伝える。その声が聞こえたのか霜の巨人が愕然とした顔をしていた。
「ギャヒヒヒッ、ギャヒ!……(保守権限者だと? まさか、その言葉遣いはこの島の……? そうか、そなたはパーカー家の生き残りということか、この島の元領主は元々はこの遺跡の保守権限を持っていたというのかっ)」
「Subitis subsisto auctoritas ordinis sustentationem !!」
リディアは早口でタグを掲げてマートの言われた通りに叫ぶ。途端に守護ゴーレムが動作を止めた。自らの周囲に現れた守護ゴーレムと戦い始めていた騎士や従士、蛮族討伐隊の戦士たちは戸惑いながら周囲をきょろきょろと見まわした。
“『Redi ad hangar(格納庫に帰還せよ)』じゃ”
魔剣の念話を伝えたマートの言葉をリディアはそのまま同じように叫ぶ。守護ゴーレムは次々と姿を消し始めた。
「Subitis occurrit. Subeuntes eliminate!(緊急事態発生。侵入者を排除せよ!) Subitis occurrit. Subeuntes eliminate!(緊急事態発生。侵入者を排除せよ!)」
霜の巨人が何度も叫ぶが何の反応も起きない。
「よし、霜の巨人の策はつぶれたぞ。一気に行けっ」
マートが叫ぶ。それとほぼ同時に、騎士団と蛮族討伐隊を引き連れたシェリーが愛馬に跨り、目の前の丘巨人たちを剣で切り伏せながら霜の巨人の背後に現れた。
「聖剣の騎士 シェリー推参っ 霜の巨人よ。そなたの命運は尽きた。覚悟せよ!」
霜の巨人は周囲を見回した。アマンダたちに対抗するように手許に率いていた海の巨人と山の巨人は前線に投入したばかりで、手許には丘巨人とゴブリンしか残っていない。
霜の巨人はくるりと回転し、背後に迫るシェリーの一団に目を向けた。くわっと目を見開く。
「ギャヒヒヒッ、ギャヒ、ギャヒー……(儂が相手をしてやろう。小童めっ)」
霜の巨人はそう言って脇に立てかけてあった巨大な槍を手に取った。そしてそのままシェリーたちの一団に向かって走り出した。
「やったじゃないか、リディア。さっさと海の巨人や山の巨人を片付けるよ。皆も手を貸しとくれ」
アマンダが大声で叫ぶ。混乱状態に陥っていた蛮族討伐隊、騎士団も落ち着きを取り戻す。そしてアマンダとリディアを先頭に海の巨人と山の巨人を迎え撃つ陣形を組んだ。
ガツンッ
先頭を走っていた海の巨人のこん棒がアマンダの矛と交錯する。身長差は倍以上だが、アマンダは力では負けていない。ギリギリと力比べとなった。
その横でリディアが盾を放り出して剣を両手で肩に担ぐようにして持つ。そのまま真っすぐに山の巨人に向けて走った。
「ぶらぁーーーーーーーー」
大きな声を上げながら彼女は地面を蹴って飛び上がった。普通の人間では考えられない高さだ。山の巨人の顔とほぼ同じところまでいく。
「どっぜいっ」
<破剣> 直剣闘技 --- 装甲無効技
彼女は大きく叫び、身体をひねって一瞬エビぞりになる。そして反動をつけて巨人の肩口から大きく下まで斬り下ろした。山の巨人は手に持ったこん棒で防ごうとしたが、リディアの剣はそれでは止まらない。
「ギャヒー!!」
血しぶきを上げて巨体はそのまま後ろに倒れ込んだ。
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