401 夜襲2
一方、マートとオズワルト、リディア率いるローレライ騎士団第1大隊、パーカー騎士団との混成部隊は自らの倍近い巨人、そして10倍近いゴブリンたちを相手に生き残るための戦いを続けていた。
「なんで、こっちは巨人どもが1000体近く居るんだよ。おかしいだろ?」
「なぜ居るのかはわかりません」「第2小隊、第4小隊前に、第8小隊と第9小隊は下がらせよ。第21小隊は第8、第9小隊のサポートだ」
マートの愚痴にオズワルトは通路の防衛の指揮をとりながら大声で答えた。丘巨人が群れを成し怒り狂いながら巨大なこん棒を振り回している。馬に乗った騎士が槍や矛を使ってその攻撃をいなし戦っていた。その足元ではゴブリンの他、ホブゴブリンやゴブリンメイジもうじゃうじゃといて、下から槍を突き上げてきたり、いやらしいタイミングで顔に向けて魔法の矢呪文をうってくる。従士たちはそのゴブリンを排除し続けていた。マートはそのすぐ後ろで宙にうかび弓で援護を続けていた。
最初は巨人の寝込みを襲ったマートたちであったが、予想外に相手の数が多かった。100体程迄はなんとか倒せたのだが、徐々に目覚めた巨人と戦う事が増え始めそのうちに最初に彼らが転移してきた広場に押し戻されてしまったのだ。広場につながる道は2つあり、その広いほうをオズワルト率いるローレライ騎士団第1大隊が、そして狭いほうはリディアを先頭にパーカー騎士団が抑えていた。
「パーカー騎士団も頑張っているな。リディアもかなり腕が立つみたいだ」
「確かにそうですね。馬にも乗らずにうまく巨人の攻撃の勢いを殺している」
オズワルトはちらりとそちらを見て頷いた。最初は状況次第では騎士団を2つに分けてと考えていたようだったが途中から任せてもよいと判断した様子だった。今では自らが担当している広い通路の防御に忙しくなり、そちらを確認する余裕もなくなってきていた。
「少しずつ押されています。巨人の膂力はものすごいようで何合か打ち合うと手がしびれてくるのだそうです。こまめに交代させてはいますが、それもどこまで持つか。ゴブリンどもの死体も厄介です。あのせいで馬の移動も制限されます」
「肉体強化を持ってる巨人が多いんだろうな。俺が出て押し返せないか試しても良いがあと10分程で転移門呪文の再使用時間が明ける。それまでの辛抱だ」
「はい。ん、アレクシア殿から連絡です」
オズワルトは片耳につけた長距離通話用の魔道具を指でタップした。
「おお、他の場所での戦いはかなり有利に進められているようです。やはりこちらに巨人が集中していた模様ですな。アマンダ殿とシェリー殿が部隊の一部を割いてこちらに応援に向かってくれているとのことです。あと5分程前から巨人の里で慌ただしい動きになっているようで、詳細を調べているとのことです」
「わかった。まぁ、ここから転移していった奴がいたのかもしれねぇな。どこの戦場でも油断するなと言ってくれ……ん? ちょっと待て……」
マートがリディアが指揮をする狭い方の通路の向こうに控える巨人族たちを凝視した。パーカー騎士団のさらに向こう側である。
「まさか、もう転移して来やがったのか。こっちは寝てるところを襲撃したのに反応早すぎるだろ。霜の巨人だ。その周りに山の巨人や海の巨人もぞろぞろ居やがる。向こうの通路がやべぇな。加勢しないと無理か。こっちはなんとか耐えれるか」
オズワルトは髭顔でにっこりとほほ笑む。
「大丈夫です。あと10分程度ご期待に応えて見せましょう」
マートも微笑み返すと、弓をしまい剣を抜いた。ふわりと高度を上げるとくるりと回転して加速して一気にパーカー騎士団の後ろ、リディアの横に移動する。彼女自身は何度も前線に出て巨人族を相手にしており返り血でどろどろになっていた。
「リディア、霜の巨人が到着した。山の巨人や海の巨人が来るぞ」
彼女は一瞬顔を強張らせたものの、こちらもにっこりとほほ笑む。
「望むどごろでず」
だが、その声の後半は霜の巨人が唱える魔法呪文でかき消された。
『魔法の嵐』
マートはとっさにリディアを庇う。黄緑色に輝く渦を巻いた風の中で青白い魔力の塊が、パーカー騎士団の最前線を襲った。一番前で戦っていた丘巨人も巻き添えにしつつ、パーカー騎士団のかなりの数がその嵐に吹き飛ばされる。
「ギャヒー」
空白となったところに、新たな丘巨人が後列からどんどんと押し出してきた。残ったパーカー騎士団の面々がなんとかその足を止めようとするが、その勢いは恐ろしい程だ。
そこに上空から近づく影、巨人ほどではないが、あきらかに普通の人間よりは大きい。それは丘巨人の目の前に飛び降りると手に持った巨大な矛を振るう。
「おりゃーーーぁ!!」
【魂の叫び】
それは飛行の魔道具に乗って飛び込んできたアマンダだった。
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