399 転移門
一週間が経った日の夜、ローレライ城の前庭には2千を超える多くの騎士、従士たちが待機していた。
この一週間、マートは婚約者や配下の者たちと相談し作戦を練り準備をしてきた。今、ローレライ城には彼自身とライラ姫、ジュディ、オズワルト率いる騎士団第1大隊とリディア率いるパーカー家の騎士団がおり、それとは別にウィードの街の郊外ではシェリーとアズワルト率いる騎士団第2大隊およそ2千、ミュリエル島ではエリオット、ワイアット、アマンダの率いる蛮族討伐隊、こちらもおよそ2千の戦力が待機していた。
再調査した結果ではオーラフ島の蛮族勢力は、アレクシアの見込み通り巨人族がおよそ1千、そしてゴブリンたちがおよそ1万という数であった。彼らは山頂にならぶ遺跡を囲むように土塁や柵を設け、厳重な山城を築いていた。ちなみにラミアやリザードマンといった他の蛮族は存在していない。これについては以前捕らえたホブゴブリンの記憶を探ったところ蛮族同士でも縄張りのようなものがあり、この島は巨人族のものなので使用人として使われているゴブリンを除き他の蛮族たちはやってくることがないということらしかった。
マートたちの作戦は基本的にはいつも通り転移門を使った奇襲である。異なるのは新たに加わったパーカー家の魔法使いも含めて3人が転移門呪文を使えるというのでそれぞれ異なった場所に襲撃をかけるということだった。奇襲であるのでもちろん多くの場所に同時に襲撃をしたほうがより相手を混乱に陥れることが出来るというのと、蛮族側の山城が複数の城郭に分かれているので、それぞれに対応してその中に飛び込んだほうが戦いを有利に運ぶことが出来るであろうという目論見である。
襲撃する時間は検討を重ねた末、夜明け直前の薄明るくなった頃を選ぶことになった。案としては霜の巨人が転移呪文で巨人の里にある裂け目の底の寺院に移動した直後というのも検討されたのだが、霜の巨人がその移動を行うのはオーラフ島ではまだ昼過ぎという時間になってしまい、それでは襲撃しても奇襲の効果が薄いと判断されて却下となった。
「マート様、アレクシア様お水です」
エバとアンジェが中庭に面したテラスに立つマートのところにやってきた。各騎士たちにも城の使用人たちが何か差し入れしている。
「おう、ありがとよ」
マートはカップを受け取りぐいっと一口飲んだ。
「くれぐれもお気をつけて」
「ああ、大丈夫さ。今回は巨人どもより俺たちの方が数が多いんだぜ」
「でも霜の巨人は強いのでしょう? 聖剣の騎士であるシェリー様が一緒ではないっていうのが気になります」
アンジェの言葉にマートはにやりと笑う。
「あいつは、今は巨人の里だ。どこに転移してくるかわからねぇからな。転移してこない可能性もある。できればあいつを片付けてこの戦いを終わらせてえんだがなぁ」
「マート様、過信は禁物です。慎重におねがいします」
「ああ、わかった」
そう話をしている間にコリーンから連絡が来たようだ。明確に断言できるわけではないものの、おそらくいつも通り一度は巨人の里に戻り眠りについているはずだということだった。
「よし、行くぞ! アレクシア、皆に連絡だ。リディアにも連絡を回せ。転移門を開いてくれるようにしてくれってな」
マートはエバにカップを返すと大声を上げ、列の先頭に向かう。できるだけスムーズに転移門をくぐれる様に騎士たちは行列をつくっているのだ。相手は巨人族、騎士にとっては馬がないと厳しい相手であるので今回は馬を連れて行く。本来転移門は馬に乗って行けるほどの大きさはないのだが、降りて曳いて行くならなんとか通行可能だった。馬の口には嘶きをさせないための轡を噛ませていた。
転移門を超えるのはマートとオズワルト率いる騎士団第1大隊から100騎、そしてリディアとパーカー騎士団200、そこから騎士団第1大隊の残りという順の予定となっている。列の先頭では、すでに転移門を開くため、ジュディが呪文の詠唱を始めていた。魔法使いの横には甲冑を身にまとったリディアの姿もある。
「ようやくだな。焦るなよ」
マートはワイバーン殺しの魔弓を取り出しつつ、そう話しかけた。転移門を開く先は夜は何も使われておらず、見張りもあまり居ないはずではあるのだが、念のためだ。
「大丈夫でず」
リディアは微笑んだ。空間がぼやけ、転移門が開く。
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