389 西の森の調査
一方、マートたちから西の森にパーカーという領主が潜んで巨人たちと戦っているという話を聞いたジュディたち2人はその西の森を一望する山頂に移動してきていた。魔空艇は目立ちすぎるので鱗とネストルにお願いして人目の付かないところに待機してもらっている。
「西の森といっても広い。本拠地は誰にも見つかっていないということは、普通の集落からは離れた場所ということであろうが、人をたくさん動員すれば探索しているということが巨人に見つかってしまうであろうし、どうすべきか」
森を眼下に眺めながらシェリーは腕を組み考え込んでいた。風はかなり強く横に立つジュディはすぐに乱れそうになる金色の髪を懸命におさえている。
「そうね、猫が聞いた話だとその人々は10年以上隠れ住んでいて、蛮族たちにもそして人間たちからも見つからずにいるのでしょ。すぐにどうこうできる話じゃないと思うわ。まずはもっと詳細な……そうね、今まで見つかってないとすればシェリーの言うように街道や集落からは距離があるでしょうし、集落を営むとすれば川が近くにある可能性が高いように思うから、集落、街道、川といったものが描かれた地図を作るところから始めるしかないかなと思うの」
ジュディの言葉にシェリーは頷いた。
「なるほど、空から見て作ったおおまかな地図に描き加えていけばよいのか。全部歩いて回るのは大変だが、魔術師の目で使える我々であればそれほどの労力ではないか……」
「そうね。コリーンが来たら、彼女に周囲を警戒してもらって私たちで調査すれば良いでしょ。そう考えると、もう1人か2人護衛役がいたほうが安心だったかもしれないわね。アレクシアに相談してみましょう」
2人が話していると、ジュディの長距離通話用の魔道具がかるく振動した。通信が入ったらしい。彼女は風を避けるように移動しつつ片耳に長距離通話用の魔道具を押し当てた。シェリーはあらためて周囲を警戒した。
「ジュディよ」
「アレクシアです。コリーンの準備が整いました。そちらの受け入れ準備が良ければ転移門をお願いします」
「アレクシア、丁度良かった。今話をしていたところなの。すぐに転移門を開くわね。あと、今すぐじゃなくて良いけどあと1人か2人増員は可能かしら? できればコリーンと一緒に周囲の警戒とかが出来る人がいいわ」
「それでは彼女とトリオを組んでいる軽戦士のアンソニー、精霊魔法使いのブレンダではいかがでしょうか? 彼等ならコリーンとの連携も問題ありませんし、アンソニーは斥候の経験も持ってます」
「いいわね、ブレンダの怪我は大丈夫なの? アンソニーも様子が変だったって聞いたけど」
「はい、実はアンソニーは記憶奪取をされていたようなのです。何を調べられたのか不安ではありますが、王都から神聖魔法の使い手を派遣していただいたので奪取された記憶は取り戻せていますし、ブレンダの怪我も治療済みですのでご安心ください。2人は丁度コリーンを見送りに来ていますので話は早いかと思います。30分だけ待っていただけますか? その間に調整をします」
「わかったわ。30分後ね」
ジュディの通話を聞いて横でシェリーも頷いた。
「たしか、ブレンダは精霊魔法で水源をさがしたりもできたと報告にありました。調査が捗りそうです」
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数日後、コリーンたち3人が合流して5人となったジュディたちは森の中で夕食を摂ろうとしていた。ジュディとシェリーは格納の呪文が使えるので野営という割にはスープもパンもあるきちんとした食事だ。コリーンたち3人は彼女たちの護衛をというので合流した当初はひどく緊張していたのだが、一緒に仕事をこなすうちに少しずつ馴染み始めていた。
「猫の方は探索をほぼ終えたらしいわ。あとはバーナードたちに任せてこっちの様子を見に来るって。これからって言ってたけど、一晩ゆっくり寝てからでいいわって言っといた」
長距離通話を終えたジュディはそう話をしてからブレンダからスープを受け取った。シェリーはその話に苦笑いをうかべる。
「マート殿はせっかちだからな。そう言わねば休みをとろうとせぬ。しかし意外と早く終わったな。海底での調査だったのだろう?」
「普通ならすごく時間がかかりそうなものだけど、水の救護人だもんね」
「水の中というのは障害にならぬか」
その横でコリーンたちは2人の話を少しも聞き逃すまいとしていた。シェリーとジュディは聖剣の騎士と聖剣の魔法使い、3人にとっては当代の英雄として憧れの人物なのだ。この作戦が無事終わったら同僚たちから質問攻めにあうだろう。コリーン自身はワイアットやバーナード、モーゼルと一緒に魔龍同盟から足を洗った最初の12人の1人ではあるがアピールなどが苦手だった。海辺の家からウィードの街に引っ越し、蛮族討伐隊が結成されて以降はずっとアンソニー、ブレンダと組んで調査隊の仕事で目立ったことはした事がない。巨人の里の割れ目の底でいきなりコリーンと名前を呼ばれた時には憶えてもらっていたのかと驚いたものだった。
「アンソニーたちもお疲れ様。西の山脈回りのうち、西側の北半分ほどは終えたかしらね。猫が来たらいろいろと変わることもあると思うけどびっくりしないでね」
ジュディはそう言って3人に微笑む。
「「「はい」」」
そう答えたところで、コリーンは近づいてきているものの気配を感じた。彼女は足の裏から伝わってくる振動を感じとる鋭敏触覚とよばれる魔獣スキルを持っているのだ。
「何かが近づいてきます。3体……?」
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2022.5.27 書き忘れていた事柄があり、ご指摘いただきましたので訂正を加えました。
【訂正前】
「いいわね、ブレンダの怪我は大丈夫なの?」
「はい、もう大丈夫です。丁度コリーンを見送りに来ていますので話は早いかと思います。30分だけ待っていただけますか? その間に調整をします」
【訂正後】
「いいわね、ブレンダの怪我は大丈夫なの? アンソニーも様子が変だったって聞いたけど」
「はい、実はアンソニーは記憶奪取をされていたようなのです。何何を調べられたのか不安ではありますが、王都から神聖魔法の使い手を派遣していただいたので奪取された記憶は取り戻せていますし、ブレンダの怪我も治療済みですのでご安心ください。2人は丁度コリーンを見送りに来ていますので話は早いかと思います。30分だけ待っていただけますか? その間に調整をします」




