38 残りのオーク
魔法については以前説明しましたが、闘技も本来はそれぞれ師匠について習うというのが基本です。闘技は魔法とちがってそれほど系統が整理されて居りませんので、それぞれの流派によって習得する闘技が違っており、おなじ効果を持つ闘技でも流派によって名前が違ったりします。マートは魔剣に闘技を習っていますが、表向き、流派というのは特になく今のところ自己流ということになります。
2020.9.14 剣技 → 闘技 に変更しました
マートは、その後もその山の中の施設を歩き回ったが、大きい獣を収容するような檻や、彼にはよくわからない装置などがあったが、結局他にめぼしいものを見つけることはできず、また、外に出入りするのも最初にみつけた部屋の窓だけで、結局、彼は1時間程で探索を切り上げた。
“さて、じゃぁ、オーク探しの続きだな”
彼はそう呟くと、入った窓から再び出て、飛行スキルを使って、付近を再び探索し始めた。そして、2時間程が経過したと思われたころ、リネット村ではなく、その隣のウィルマ村の近くの森でオーク3匹が鹿を狩ろうとしている場面に遭遇した。
“3匹だ。2匹まではまず減らすぜ”
“そうじゃな。幻覚呪文で、目隠しのようなことができるじゃろう。試しにそれで1匹は無力化しておいて、その間に2匹は毒呪文と痛み呪文で何度か弱体化した後、弓でトドメという感じでできるか?”
“遠くから弓だけのほうがこっちは安全なんだが”
“呪術の練習ができるときには、ちゃんとそれをせねばな。いつもは出来ぬじゃろう?弓は他の者と一緒のときでも使えるからの”
“それはそうだけどよ。ああ、まぁいい。わかったわかった。そうしてから残った最後の一匹は剣の練習だっていうんだろう?”
“よくわかっておるではないか。そのとおりじゃ。オークにはかわいそうかもしれんが、しっかり練習台になってもらう。残しても人間にとっては何の益にもならぬのでな”
“しかたねぇな”
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そうやって始まった戦闘は、10分も経たぬうちに状況がかわった。村人と思われる何人かの人間がマートがオークとたたかっている付近に近づいてきたためだ。
“誰か近づいてきた。戦い方を切り替えるぜ”
“しかたないのう。では、さっさと倒せ”
『幻覚』
<暗剣> 直剣闘技 --- 相手の死角に回りこんで斬る
マートは、残った一匹に幻覚呪文で視界全体を真っ黒な闇で覆って視力を奪い、立ち止まった隙に背後に周りこむと、首筋を魔剣で切り裂いた。血しぶきが派手に上がる。
そのオークが息絶えるのを待っていると、男達が3人、粗末な槍を持って現れた。
「オークが死んでるぞ」
「おう、むこうでも、1匹、いや2匹死んでる」
「あんたは冒険者か?」
その男達は口々にそう言った。
「ああ、隣のリネット村に出たオーク討伐の依頼を受けた冒険者だ。そのオークがこんなところまで来てやがった」
「ああ、リネット村でオークが出たという話は聞いてる。今日もそれがあって、念のためと思って巡回してたんだ。こっちの村に近づいてきてたのか。うわー、助かったぜ。冒険者の兄ちゃんありがとな。よし、うちの村長とリネット村にも連絡だ」
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その日は、リネット村と、ウィルマ村では合同の祭りとなった。このあたりではオークは捌いて肉として食べるらしい。3匹のうち、1匹はウィルマ村、2匹はリネット村で分け合い祭りの御馳走として盛大にかがり火が焚かれた。マートは、ウィルマ村の村長の家に招かれ、酒と料理を振舞われることになった。リネット村の村長も来ている。
「マート殿、たすかったぞ。しかし、オークが4匹もでてくるとはの」
「ああ、そうだな。このあたりは、そんなにオークが出てくるのか?」
「いや、何年かに一度、山を越えてやってくるのがいるのじゃ。前は6年前だったかのう。そのときは2匹じゃったが、山菜採りのおばぁがやられてのう。今回は誰も被害者がでなくてよかったわい」
「そうだの。リネット村はまだ自警団がしっかりしておるから良いが、うちの村は、それほど自警団もおらんからの。今回のオークがでた森は、普通に村の者が薪を取りに行ったりするところじゃ。対応が遅れたら何人も被害がでておったじゃろう」
二人の村長はそんな話をした。
「マート殿には、きちんと対応してもらった。討伐証明は大変良かったと書かせてもらいますぞ。それとは別に、これは村からの礼じゃ。とはいっても我々も裕福な村ではないので、たいした物は出せんが、気持ちと思ってうけとってくだされ」
そう言って、二人の村長は、金貨が10枚と燻製肉の大小の塊を1つずつ渡してくれた。
「大きいほうは村の特産の山羊の肉の燻製、小さいほうは最初にマート殿が倒したオークの睾丸の燻製じゃ。肉の燻製は我々の村でよく行われておってな。どちらも保存食として半年は持つ。オークの睾丸はマート殿は若いから食べ過ぎぬようにな。ふぁははは」
そういって、村長はにやにやと笑った。
「へぇ、そいつは嬉しいな」
「ん?本気にしとらんな。まぁ、良い。喰えばわかるからな。貴重なものだから、大事に食べるが良い。そっちが山羊の肉の燻製、大きな塊のほうと同じものだ。旨いぞ」
マートは勧められるままに、塊肉をナイフで切りとり、一切れ口に入れた。
すこし臭みはあり、塩味が濃いが、肉の旨みが口の中に広がった。
「ほう、これは旨いな」
「そうじゃろう。そうじゃろう。スープにしても良いし、このまま食べても良い酒のあてになる。王様や伯爵様にも献上しておるのじゃぞ」
「へぇえ。そいつは凄い。燻製ってすごいんだな」
「ああ、その通りじゃ。ただの塩漬けよりも硬くならず、同じぐらい持つのじゃ」
「へぇ、どうやるんだい?」
「基本は煙で燻すんじゃがな。やり方があるのじゃ。ちゃんと脂をうまく落とさんと腐りやすくなるでな」
「なるほどな、だからこんなに旨くなるのか。これは癖になるな」
「秋には収穫祭がある。遊びに来るといいぞ。また依頼があるときには、リリーの街の冒険者ギルドに出すから、そのときはよろしく頼む」
「ああ、わかった。実は俺は歌が得意なんだ。旅芸人として回ってたこともあるんだぜ。せっかくだから一曲歌おう」
そういって、マートは村長に楽器を借り、得意の歌を歌い始めた。
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