382 到着
お待たせいたしました。
ツイッターでの予告ではタイトルを『第52話 謎の島』としていましたが、『第52話 謎の陸地』と変えました。ご了解ください。
魔空艇が快晴の空を飛んでいた。その色はそろそろ夏を感じさせる抜けるような青だ。
その下には海が広がっていた。点々と島が浮かんでいる。ずんぐりとした銀色の機体の上部前方にある操縦席には鱗が座っていた。
大きな窓のある胴体部分には左右の窓際にゆったりめの一人掛けの席が進行方向にむかって8列が並んでいた。左側の席には前からマート、ジュディ、モーゼル、右側の席にはネストル、シェリーが座っていた。皆のんびりと景色を眺めている様子であったが、ジュディは時折呪文を唱え、ネストルは時折何かを羊皮紙にメモをしている。
やがて島と呼ぶにはかなり広い陸地がみえてきた。高い所から何度か旋回するとようやくその陸地の形が見えてきた。おそらくアレクサンダー伯爵領ぐらいはありそうである。嵐の巨人を倒した巨大な島、最近は中央にある大きな山の火口には巨大な湖があることから火山湖島と呼ぶようになったあの島よりさらに広い。横長にしたひし形を南北に2つ並べたような形で2つの山脈がすこし傾いて南北に伸びていた。
「転移追跡の呪文が指した座標にだいぶ近づいてきたわ。この陸地の北の方かしらね」
ジュディはマートの席の背もたれを掴んで立ち上がった。かなり早口でかなり興奮している様子だ。
「この広さからすると捜索にはかなり時間がかかりそうですね。ある程度は魔空艇から目星をつけたいところです」
ネストルは山脈の形を羊皮紙に描きいれながらそう答える。
「得意の叡智スキルでぱぱっとわからねぇのかよ?」
鼻歌交じりに操縦していた鱗が操縦席から大きな声を出した。
「もちろん試してみました。残念ながら今の状態では情報が少なすぎてあまり具体的な情報が得られなかったのですよ。なにか巨大で窓のない遺跡かなにかの中に居ることはわかりましたが、どこなのかはまだはっきりしていません。もう少し情報を集めて条件を絞らないといけません」
モーゼルは左右の窓を行ったり来たりしながら景色を眺めている。
「霜の巨人が居るってことは蛮族は住んでるんだよね。人間は居ないのかな?」
「居るのが普通だと思います。獅子頭島からここまで、点々と島々が連なっていました。それほど近いわけではありませんが、天気の良い日に高いところに登ればお互いの島影は見えたでしょう。お互い交流があるのが自然でしょう」
彼女の問いにネストルが答えた。獅子頭島というのは南西にありリザードマンと現地の島民とが戦っていた島のことだ。南西の島と呼ばれていたのだが、名前がないと不便だというので島の形がその大きく口を開けた獅子のあたまに見えることからマートがそう名付けたのだった。
「どうであろうな。蛮族と人間が両方居たとしても相手には霜の巨人が居たということであろう。人間側としてはかなり不利な戦いではないか? マート殿のような英雄が居ればまた話は別だが、同じような英雄が他に居るとは思えぬ」
そこまで言ってシェリーはじっと島を眺めた。一目で島全体の姿がはっきりと見える。
「東側の短い方の山脈の尾根に沿って、何かあるな。北の方だ。銀色で丸いのが点々と……」
マートが指さした。皆が魔空艇の透明な窓に顔をつける様な感じでその指さす方をじっと見る。
「普通の岩じゃないの? あ、いま光った。遠くてよくわからないけど、ほんと、何かありそう」
魔空艇は徐々に高度を下げそちらの方に近づいていった。皆片側の窓に集まってじっとその方向を見る。マートが指さしたそれは大小様々な大きさの球体だった。直径500メートルほどのものから直径20メートルほどのものまで、いずれも表面は銀色で鏡のように光っている。そのようなものが尾根に沿って30キロ程の長さに渡って点々と数えきれないほど並んでいるのだ。まだ距離は遠いので玩具のようだ。
「座標からすると、タヒルトって巨人が転移したのはあの球体のある尾根のあたりね」
「ということはあまり近づくのは危険だな。鱗、あそこは遠回りするようにして島全体を先に見よう。さらに高度を下げて海岸線に沿って移動してくれ」
ジュディの説明にマートは慌てた様子でそう指示を出した。魔空艇はふわりと方向を変える。そしてさらに海岸線に沿って飛行を続けた。100キロほど南下したころだろうかシェリーが何かに気が付いた様子で島の東側のほぼ真ん中、湾になっているあたりを指さした。
「あれは集落ではないか?」
皆が揃って窓に貼り付くようにしてそれを見た。海岸沿いに粗末な小屋のようにみえるものがいくつか並んでいた。人間のものか蛮族のものかははっきりしない。
「鱗、あまり近づくなよ」
「ああ、わかってる」
魔空艇はすこし海側に進路を変えた。
「どうする? 集落があるのならそっちで情報収集したほうが早いのかしら?」
ジュディはマートに尋ねた。彼は少し考え込んだ。
「あの集落が霜の巨人の息がかかってねぇとも限らねぇ。慎重にいかねぇとだめだ。2手にわかれて、ひとまずあの集落に何が居るかは俺だけで探らせてくれねぇか? 残りはこのまま空からの調査を継続するってのはどうだ」
ジュディとシェリー、モーゼルの3人は顔を見合わせる。しばらく考えた後、ジュディが口を開いた。
「わかったわ。でも念のためにマートは連絡要員としてモーゼルを連れて行ってくれない? 集落の外まででいいの。本当は私かシェリーが行きたいところだけど、私たちだと離れたところで隠れてても何かに見つかって騒ぎになる可能性があるでしょ。その点、彼女なら変形スキルで岩や木などに姿を変えて姿を隠すこともできるし、魔法も使える。マートと彼女が念話で繋がってれば私たちも安心できるでしょ」
「俺が集落に近づく間、モーゼルを1人で居させるのは不安なんだがなぁ……。まぁ念話がつながるから状況はわかるか……」
マートは複雑な顔をしてジュディの顔を見たが、しぶしぶといった様子でうなづいた。
「モーゼル、よろしく頼むわね。猫が危険なことをしそうになったら止めてあげてね」
「わかりましたー。任せてください」
モーゼルはにっこりと微笑む。
「安全そうな場所を探して猫たちを降ろしましょう。できれば転移門を開けそうな場所も確認しておきたいわ」
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