表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第51話 巨人の里

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

377/411

375 コリーンの報告

 

「2人とも、これのことは内緒だぜ」

 

 マートはそういって、まず魔法のドアノブを操作してこの場所を4番に登録した。中央転移公共装置のある森に繋がっていた番号である。そして改めて横穴の壁に差し込むとローレライ城の一角につないだ。 

 

「マート様」


 扉を開けるといきなりアレクシアが入ってきた。続いてジュディとシェリーだ。狭い穴はあっと言う間にぎゅうぎゅう詰めの状態になった。声を潜めつつマートが3人を制する。

 

「おい、落ち着け。そして静かに。とりあえずブレンダを運ぶぞ。板か何かをもってきてやってくれ。足とあといくつか骨折してるらしいから慎重にだ」


 3人はあわてて元の部屋に戻っていった。とりあえず彼女を運び出した後、マートは横穴への入口は魔法を使わない範囲でカモフラージュしてからローレライ城に戻った。コリーンはおそらく極度の疲労だろうか、床に座り込んでいた。

 

「コリーン、悪いが詳しく状況を教えて欲しい。まだ7人が見つかってないんでな。その報告が終わったら休憩してもらっていい」


 マートはやってきたアンジェに飲み水や濡れタオルなどを運んでもらうように指示すると言いにくそうにそう言った。

 

「いえ、大丈夫です。臭いを抑えるのに後でできればシャワーを使いたいですが、それさえ済めば私はまた調査に。おそらくあそこを知っているのは私が一番……」


 彼女は連絡できなかったことの責任を感じているようだった。マートは首を振る。

 

「せっかく調査したんだからそれをまず伝えてくれたらいいんだ。7人については連絡がとれなくなったのは昨日の事だ。まだ大丈夫、きちんと休憩してからのほうが良い」


 コリーンは軽く頷くと、マートに促されるままに会議卓に座り直し話し始めた。その横でアレクシア、ジュディ、シェリーが心配そうな顔をしてマートと共に話を聞き始めた。

 

「私たちがゴブリンメイジの攻撃をうけたのはおよそ底まであと30メートルほどの地点でした」


 彼女が言うには3人はマートと同じように裂け目の岩壁を下るという判断をしたらしい。ところが、その途中でいきなり魔法の矢呪文が飛んできた。幸い、コリーンはヒュージスパイダーの壁歩きという能力があり、ダメージを受けつつも岩陰に身を隠すことができたが、2人は耐え切れず下に転がり落ちてしまった。

 しばらく経って魔法の攻撃が止むのを待ち、彼女は急いで岩壁を下りた。そして途中の岩にしがみついている瀕死のブレンダを見つけたのだ。彼女を担いてなんとか見張りの目を掻い潜り下に降りた。

 

「アンソニーは?」


 アレクシアにそう聞かれてコリーンは首を振った。


「降りたところに大量の血痕がありました。ですが見つかったのはそれだけでした」


 マートとアレクシアは顔を見合わせた。アンソニーの生死はわからないが、それでは蛮族にみつかった可能性が高いだろう。アンソニーには長距離通話用の魔道具をはじめいくつかの魔道具を持たせているし、装備品などをみれば蛮族討伐隊のメンバーだというのはすぐわかってしまうだろう。

 

「アンソニーの魔法の素質はあった? そして血痕をみつけたのはどれぐらい後?」


 ジュディは矢継ぎ早にたずねた。


「彼は魔法は使えなかったはずです。私がブレンダを背負って底につくまでに1時間はかかったと思います」


「そうか、わかった。その後の事を教えてくれ」


 マートは渋い顔をして先を促した。


「はい、その後は……」


 彼女はブレンダを背負ったまま隠れ場所を探したこと、途方に暮れているとブレンダが魔法で土を掘れるので壁に穴を掘って隠れようと言いだしたことを話した。

 

「よく5日も耐えれたな」


「ブレンダのおかげです。彼女が契約しているノームに湧き水の在り処を聞いてくれたんです。あとは回復を待ちながら、持っていた食料を分けあい、調査を継続していました」


「1人でなら先に戻ることも出来た?」


「そうかもしれません……」


 アレクシアの問いに何かを感じた彼女は肩を落とした。


「アレクシア、そいつは無理だぜ。調査を頼んでたんだ。そっちが優先ってなっちまうだろ。そのあたりはこういうことになったらどうするみたいなのをあらかじめ決めておかないとだな」


 マートがそういうと、アレクシアは頷いた。

 

「他に調査してわかったことがあれば教えて。どんな些細な事でもいいわ」


「はい……」


 コリーンは話し始めた。中央の巨大な建物には朝と夕に大量の食糧が運び込まれる事、それを運搬しているのは巨人族、そとの集落に住んでいるのも巨人族で、この谷の中には巨人族とゴブリン以外は見かけない事。

 

「巨大な建物に近づいたことはあったか?」


「はい、夜は見張りの数がかなり減るのです。まだ調査中ですが1階部分の半分ぐらいと3階の1部には忍び込めました」


霜の巨人(フロストジャイアント)は見たか?」


「遠くからですが何度か確認しました。いずれも夜です。昼にはみかけたことはありません。一度はどこかから急に転移してきたようでした」


「夜は見張りが減るというのは?」


「巨人族はやはり夜目は利かないようで、夜中の警備はほとんどゴブリンに任せきりなのです。それもこの裂け目の底までには侵入者はほとんどいないのかかなり数が少ない印象です」


「入ってくるところは厳重だもんな。俺もそう思ってた。入ってしまえばって感じか……」


 マートは頷く。

 

「巨人族はどれぐらいいそうだ?」


「まだ調査しきれていないのでわかりませんが、食糧からすると500体というところでしょうか」


 シェリーの問いにコリーンはすこし自信なさげに答えた。巨人1体でもかなりの戦力だ。以前ダービー王国の旧王都での戦いではたった1体の海の巨人(シージャイアント)相手に蛮族討伐隊の1番隊はかなり苦労したのだ。正面から戦うのは難しい。シェリーは考え込み腕を前に組んだ。

 

 質問が止まったのをみて、エバが彼女に濡れタオルを渡した。彼女はそれを受け取り埃だらけの顔を拭う。

 

「話はだいたいわかったろう。エバ、彼女に部屋を用意してやってくれ。アレクシア、コリーンをしっかり休ませてやってくれよ。すくなくとも丸1日以上だ」


「ローレライ侯爵様?!」


 コリーンはそう言って首を振ったが、マートはそれににっこりと微笑んだだけだった。



読んで頂いてありがとうございます。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 蛮族討伐隊のメンバーだというのはすぐわかってしまうだろう。 警戒されて警備が厳重になる可能性有りますね。 「1人でなら先に戻ることも出来た?」 こうなったそうするとか状況判断する指標みたい…
[気になる点] 何かの儀式でもしているのでしょうか。 [一言] 巨人の軍団は脅威そのものなのですが、大喜びしそうな人が居るんですよね。
[一言] 敵の対応がなんで中途半端なんだろう?なんかの罠じゃないか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ