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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第51話 巨人の里

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374 裂け目の底

  

 裂け目の底は真冬のように寒かった。植物などは見当たらず岩もごろごろとしていたが、中央付近は楕円状に平地となっていた。裂け目の端から続く細い道がその平らな場所に通じており中心辺りに巨大な黒い石造りの建物が建っていた。四隅には巨大な塔を備え大きさは東西南北それぞれ100mはある巨大なものだ。窓の配置から見たところでは巨人サイズの3階建てで、4方の塔はそれよりさらに高い。おそらく40m近くあるだろう。ところどころに光る魔道具が使われており夜の闇の中でそこだけが浮かび上がって見える。その周囲には蛮族たちがよく作るような独特の装飾のなされた粗末な小屋のような建物が並んでいた。

 

 マートが蛮族に見つからないルートを確保するのに何度も行ったり来たりを繰り返し、裂け目の底に降りれたのは夜になってからだった。彼はひとまず岩陰に身を伏せ落ち着ける場所を探した。幸いなことに谷底には警戒するゴブリンメイジの姿は少ないようだったが安心できるわけではない。とりあえず中心は避けて今下りてきた岩壁沿いに身を隠す場所はないかと探し始めた。

 

 しばらく歩いているとマートは靴を履いた何かがつま先立ちをしてあるいているかのような微かな足跡を見つけた。痕跡の特徴からするとそこそこ体重はありそうである。靴を履いているということかすると生き残りの調査員か、或は蛮族に協力している人間ということが考えられた。前者の可能性を信じて彼は足跡を追跡することにした。その足跡はしばらく岩陰をたどり、やがて岩壁に開いた直径1m程の横穴にたどり着いた。奥行はかなりありそうだ。その壁面を見ると岩混じりであるもののまるで新しく出来たばかりのような黒々とした土の部分もある。

 

 マートは岩壁に身を寄せると眼を閉じてじっと音を聞いた。呼吸音は2つ、1つはかなり弱っているような印象だ。もう1つもすこし早く浅い。警戒はしているようだがマートの存在には気づいていないようだ。匂いからすると女が2人、饐えたような臭いと血、化膿した傷の臭いが混じっている。


 気配を消し横穴に入って行く。高さがあまりないので四つん這いにならざるを得ない。ゆっくりと進む。全身が横穴に入って外からの魔法感知を警戒しなくてよくなったところでニーナに合図して彼女の文様を移動させ彼女が外を感じれるようにした。

 

“これは……嗅いだことの有るのが混じってる……コリーンの匂いだね”


“コリーン??”


 中に居る2人のうち1人はニーナの知り合いらしい。

 

“ワイアットやモーゼルと一緒にいた12人の元魔龍同盟の1人だよ。複眼の女……憶えてない?”


 マートは懸命に思い出そうとした。そういえばそういう女もいたかもしれない。あの時はあまりに他人を頼った反応だったので憶える気にもならなかったのだ。


“前世記憶がヒュージスパイダーでね。糸を出したり壁を歩いたりできるんだ。たしか蛮族討伐隊に入ったはずだったけど”


“ということは、調査員か。ニーナ、念話を送ってくれ。助けに来たって”


“やってみる”


 しばらくマートは身構えたまま横穴の様子を伺った。

 

“調査員で間違いなさそう。記憶奪取も疑ったけどこの反応だと大丈夫だと思うよ。同僚の調査員と一緒だけどその彼女が怪我をして動けなかったらしい”


 マートは急いで横穴を進んだ。横穴の奥は直径3mほどの空間になっており、動けない様子でぐったりしている金髪をショートカットにした小太りの女性と、その横で膝をついている長いストレートの黒髪がざんばらになり痩せぎすで目が白く複眼の女性が居た。黒髪の女性はあの頃からはかなり痩せたようすでぱっと見は判らなかったが、よく見るとたしかにマートも見覚えのある女性だ。

 

「ローレライ侯自らが来られるとは……」


 彼女は恐縮しているのか少し震えている。以前会った頃とはかなり印象が違った。


“大丈夫そうだよ。魔法感知でも確認した。変身呪文とかもない”

 

 ニーナがそう念話らしきものを送ってきた。罠ではなさそうだ。

 

「コリーン、大丈夫か? この状況だ。畏まる必要なんてねぇから楽にしてくれ。同僚の怪我はどうだ?」


「ありがとうございます。侯爵様、彼女はブレンダといいます。私達ともう1人の男性、アンソニーというのですが、彼を合わせて3人は2週間前にこの巨人の里の調査にやってきました。この崖を降りている途中にゴブリンメイジにみつかり魔法で攻撃されたのです。2人は崖から落下してしまい、アンソニーは行方不明となりました。ブレンダは助かったのですが脚とあばら、あといくつかの骨を折ってしまいました。ポーションをつかってなんとか命はとりとめたものの御覧の通り動けなくなりました」


 彼女たち3人は最初の調査メンバーのようだ。マートはとりあえず命の泉の水を水筒に汲むと彼女に飲ませるように言って渡す。

 

 彼女の話によると、長距離通話用の魔道具はアンソニーが持っていたらしい。そのため連絡はできなかったようだ。ブレンダは大地の精霊(ノーム)と契約をした精霊使いで精霊の力で横穴を掘り拠点とし、コリーンは一人で調査作業を続けていたということだった。

 

 マートは途中で拾った剣を見せてみたが、彼女が言うにはそれはアンソニーのものではないとのことだった。そして彼女は他の調査員たちについては全く知らない様子で、他に7人も行方不明だと知ると悲しそうな顔をした。


「すぐに帰った方がよかったのでしょうか。ようやく潜入できたので一通り調査するのが優先と……」

 

 彼女はそう言って声を詰まらせる。

 

「とりあえず、ワイアットやアレクシアと連絡をとろう。判断はそれからだ。しかし、よくゴブリンメイジに見つからずにこんな穴が掘れたな。幸運だった」


 マートはニーナからマジックバッグを受け取るとそこから長距離通話用の魔道具を取り出した。アレクシアを呼び出してもらう。

 

「アレクシア、とりあえず最初の3人のうちの2人、コリーンとブレンダがみつかった。ブレンダは怪我をしてて動けない。状況整理のために一度そちらに戻るつもりだ……」 

 



読んで頂いてありがとうございます。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。



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― 新着の感想 ―
[一言] 救助ナイス!他も心配ですが、先ずは救助出来て良かった。
[気になる点] 救助した二人からどのような情報を得られるのでしょうか。他の7人も無事だと良いのですが……
[一言] この巨人の里は、地球みたいな投下する爆破兵器が有ったら一気に爆撃されて終わりそうな拠点だよね。
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