表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第51話 巨人の里

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

375/411

373 崖下り

  

 裂け目の底にある巨人族の建物。おそらく城か寺院といったところなのだろう。以前記憶をとった嵐の巨人(ストームジャイアント)の巨人の側近だった巨人を生かしておけば思い出すことはできただろう。ずっと生かしておけばよかったか……マートは少し後悔した。

 

 彼はいつも通り蛮族に変身して裂け目の両端から他の蛮族に紛れて谷底に向かおうとした。だがこの大地の裂け目の中に入るルートは2つしかなかった。裂け目の両端である。巨人族を始め、他の蛮族も裂け目の両端から伸びるどちらかの道を通って裂け目の底に出入りしていた。だが、困ったことにどちらの出入口も厳重な検問が行われていた。ゴブリンメイジが何かのチェックをしているのだ。マートはそれに気づいてそのルートは諦めた。魔法感知をされると変身呪文も引っかかってしまうことになるからだ。

 

 侵入ルートを探してマートは1時間ほどかけて裂け目の周囲をぐるっと回ってみた。裂け目の地表部分はおよそ10キロメートルおきに、他に裂け目の中、岩壁にも所々ゴブリンメイジによる見張り所が設けられていた。ということは当然幻影呪文で透明になって降りるなんてこともできそうにない。幸い岩壁の途中の見張り所は上からは見つかりにくいように工夫されているものの、マートはそこから発せられた音などで感知できそうだった。


「じゃぁ、ニーナ、これを預かっておいてくれ」


 岩壁を下りるしかない。そう腹をくくったマートは、顕現したニーナにマジックバッグや魔剣、身縮めの腕輪や解毒の指輪といった魔道具もつぎつぎに渡していく。

 

「わかったよ。しかし、ほんとにここの警備は厳重だね。ワイアットたちがここに霜の巨人(フロストジャイアント)がいるだろうっていうのも判るよ」


 ニーナは自分のマジックバッグにそれらをしまいながら、何度も裂け目の中を覗きこんだ。

 

「よし、じゃぁ俺を魔法感知してみてくれ。光るところはあるか?」


 マートはそう言ってその場でくるくると回る。ニーナは魔法を唱えてじっとその姿を見る。

 

「精霊と僕の文様だけだね。そこは布をしっかり巻けば魔法感知で見られてもばれないと思うよ」

 

「そうだな。布はもってきてねぇが、さっき渡したマジックバッグに着替えがあったろ?それで頼む」


 んっ、ニーナは軽く頷き、目立たない色のシャツを取り出すとそれを裂く。彼女は自分の文様の位置を一時的にずらすとマートの左腕に巻きはじめた。

 

霜の巨人(フロストジャイアント)とは絶対決着をつけたいんだ。戦う時には僕もちゃんと顕現()してよ?」

 

「心配しなくていい。その場になってみないとわかんねぇが、あいつは嵐の巨人(ストームジャイアント)とちがって戦い慣れしてる。ニーナにも戦ってもらわねぇと倒すのは無理だろう」


「僕はできれば、1対1が良いんだけどな」


「んー、そいつは約束できねぇな。確実に倒す必要がある」


 マートは苦笑いをしながらそう答え、ニーナも仕方ないという感じで頷く。

 

「ほら、巻けたよ。まぁ、見つかったらひと暴れすればいいだけだよ。気楽にね」


 ニーナはそう言ってウィンクした。マートは彼女を顕現解除し、飛行スキルをつかって岩壁を下り始めた。


-----

 

 マートは時には死角が見つからずに戻ったりを繰り返しつつ時間をかけて岩壁を下りていった。岩壁から離れて飛行すればすぐにみつかってしまうので壁にぴったりつくようにして飛行スキルを使う。壁に身体が触れないようにするのは落石などを起こさないためだ。

 

 全体の半分、ようやく50mほど下がったところで、マートは岩に引っかかっている剣をみつけた。それはそれほど古いものではない。だが、よく見ると抜き身ではなく鞘の金具はついており、鞘に使われた革だけが失われているようだった。注意深く周囲を見直す。するとその少し上にある一つの岩のでっぱり部分が他の岩壁とほんの少しだが温度が違うことが分かった。サイズは3mほどもある巨大なものだ。マートですらよほど注意しないと判らないほどの温度差しかない。何者かが上手に岩に擬態しているということだろう。

 

“ニーナ、マジックバッグからソーセージを一本”


“ちょっとまって……、いやそれは無理。マジックバッグを渡すからそこからは自力でやって”


 ニーナの文様が布を巻いた部分から少しはみ出る。マートは岩陰に左腕を押し付けると、そこを身体で隠し周囲から見えないようにする。すると文様からマジックバッグを持ったニーナの手がでてきた。いそいでそこからソーセージを取り出すとマジックバッグを押し込む。感じ取ったのかするりとニーナの手が引っ込んだ。文様はすぐに布を巻いたところに引っ込む。

 

“ありがとよ”


“文様の中で実体があるわけじゃないんだからね。よく考えてよ”

 

“わかった”


 マートは念話のようなもので返事をし、取り出したソーセージを温度の違う岩のすぐ近くに放り投げた。すると、岩がぬるっと動いた。すばやく触手のようなものが伸びてきてソーセージを掴む。

 

 マートはじっと眼を見開いてその様子を見ていた。スライムだ。擬態するスライム……。たしかに沼などで泥に紛れて小魚や虫などを取る種もいるが、ここまで上手に擬態するものがいるとは彼も知らなかった。あの剣も金属以外はすべてスライムに溶解されてしまったのだろう。剣に気づかずに近寄れば彼もそのまま触手に取り込まれてしまったかもしれない。

 

 ただし、相手がスライムだとわかり、存在に気付いていれば対処は簡単だ。毒針で中心の核を狙えば十分だろう。他の生物であれば倒すと死骸が下まで落ちて行ってしまうかもしれないが、スライムであれば死ねば単にぬめりのある水のようなものが残るだけになる。本来、スライムに普通の毒は効きにくいがニーナが育てた毒であれば可能だった。

 

毒針(ポイズンニードル)】 -劇毒 


 擬態して動かないスライムの核に毒針が刺さるとそいつはぷるんと痙攣した。すぐに岩に擬態していた身体は半透明になり表面の張りのようなものが失われてどろっとした液体に変わった。そのまま垂れてゆっくりと流れていく。その後には幾つかの金属片が残った。

 

“遺品か……、蛮族討伐隊(うち)の調査員のものかもしれねぇな。スライムの存在をおしえてくれてありがとよ。連れて帰ってやる” 

 

 マートはニーナに頼んで布の袋を取り出すと落ちていた剣と共にそれらを回収したのだった。



読んで頂いてありがとうございます。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ソーセージで餌付けするかと思ったわw
[一言] 強敵がいるはずのダンジョン?で見つけた剣なんてロマン溢れますね。マートの戦力になるような剣なのか次の物語へつながる物なのか、想像するだけで面白いです。
[一言] いいですねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ