368 パーティと論功褒賞
ワイズ聖王国王城、大広間
「ここに新しい年の到来を告げる。今年も無事新年を迎えることが出来たのは皆の協力のおかげだ。聖剣が邪悪なる龍の復活を告げて以来、我が国は重大な危機に何度も直面してきた。だが、力を合わせてその危機を乗り越え、昨年はなんと蛮族に支配されていたダービー王国の王都をも奪還し希望の光が……」
新年を寿ぐ王の言葉が続いていた。マートは懸命にあくびを噛み殺す。英雄劇などでの長い台詞は得意な彼であったが、このような形式ばった場は未だに苦手だった。彼の領地で行われる収穫祭などでの彼の言葉はいつも非常に短い事で知られている。
王の言葉はさらに、チャールズ王子の立太子、ライラ姫とマートの婚約、エミリア侯爵やマートへの褒賞、戦勝と祝事による恩赦の宣言と続いた。この恩赦によって、降爵した後も出仕を控えていたウォレス伯爵、アレン伯爵、ザビエル男爵やダレン男爵といった人々も公に復帰が認められ、それを象徴するかのようにアレン伯爵の魔法庁副長官就任、ウォレス伯爵の嫡男であるザビエル男爵の第2騎士団長就任が発表された。また、ずっと修道院に居た第2王女キャサリン姫、第5王女タマラ姫、第6王女タラッサ姫も許されて王城に戻ることになるらしい。今日もキャサリン姫の生母である第2王妃が久しぶりに顔を見せ、既に亡くなって久しいライラ姫、チャールズ王子の生母である第1王妃の代わりに正妃の席に座っていた。
これらの話は初めて知ったという者も多く、国王陛下、そして宰相閣下の話が終わると大広間は大きな喧噪と拍手に包まれた。ハドリー王国の侵攻以来ずっと暗い雰囲気があった新年のパーティであったが、これらのニュースによって以前の平和な状態に戻る、次代の王も決まっており王国も続いていくのだという明るい雰囲気となり、その後の食事、ダンスタイムも華やかな時間が続いた。
マートは最初にライラ姫と、その後はジュディ、シェリーと順にダンスを踊った。ライラ姫は淡い紫色のドレス、ジュディは同じく淡いピンク、シェリーは濃い赤である。いずれもマートが贈ったもので全く同じデザインではないが、一人のデザイナーが今回のパーティのためにしつらえたもので似た雰囲気に仕上がっていた。アレクシアはパンツスタイルでダンスには参加していない。他にローレライ侯爵の寄子として参加していたのはワイアット、パウル、ライオネル、オズワルト、アズワルト、そして今年新しく男爵としたケルシーであった。ダンスを申し込まれた数はシェリーが一番多かった。
「ローレライ侯爵、ライラ姫との婚約おめでとう。これで私とは義理の兄弟だな。よろしく頼むよ」
パーティの最中、ワインの杯を片手にマートに帝国宰相であるワーナー侯爵が話しかけてきた。
「ああ、こちらこそよろしく。相変わらず判らねぇ事が多くて困ってばかりだよ」
マートの口調は少し戸惑っている様子があった。同じ爵位になったことでどのような喋り方が良いのかわからなくなっているらしい。結局元の口調に近いものになっていた。
「ふふ、そういっても今まで我流でうまくやってきたではないか」
マートはいやいやと言いながら首を振る。
「今までは非常事態だったからな。大目に見られたこともおおかっただろうさ」
ワーナー侯爵はマートの横に立つライラ姫をちらりと見る。
「ふむ、しかし本当に褒賞はあれでよかったのかね」
今回の戦勝に関して国王陛下から発表されたマートへの褒賞はライラ姫の降嫁、ミュリエル島、及び東ウィード地方領有の追認である。ライラ姫の降嫁はともかく、ミュリエル島はダービー王国から半ば押し付けられたようなものであるし、東ウィードの蛮族の領地を開拓するのに国は何の手伝いもしていない。もちろん内容は事前に相談してこうなっては居るのだが、ワーナー侯爵としては足りないのではないかと考えていたようだ。
「いいんだ。これ以上領地が増えても大変なんだよ。それに一代で成り上がった魔人に王家の姫が嫁ぐってだけでもかなり大変なんだろ? そいつらを黙らせてくれるだけで十分さ」
マートの言葉にワーナー侯爵は苦笑を浮かべる。あたらしくミュリエル島を領有するようになったローレライ領を除いてワイズ聖王国内では戦争はほぼ終わったような雰囲気になっている。これからは宮廷内での駆け引きなども活発になるだろう。
「すまぬな。そちらのほうは任せてくれてよい。まだ邪悪なる龍は残っているというのにな」
「霜の巨人はきっと何とかしてみせるさ。そうしたら後はのんびり過ごさせてもらうよ」
マートはそう言って微笑んで見せたのだった。
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