36 オーク討伐
2020.9.14 剣技 → 闘技 に変更しました
「おらぁ!」
力任せに振り下ろしてくるオークの巨大な棍棒にタイミングをあわせ、マートは掛け声とともに、小剣を振るってその勢いを横に流した。
“そうじゃ、そのタイミング。角度がすこし高すぎる。もう少しだけ剣を寝かせる感じじゃ”
魔剣の言う通り、オークの攻撃の衝撃を流しきれずに少し痺れたままの右手、軽く剣の柄を握りなおすことでその痺れを逃がす。オークからは目を離さず、ほんの小さな足の動きすら見逃さずに注意を払う。
“見すぎてはダメじゃ。一つに集中すれば他が疎かになる”
「そうは言ってもよ。こっちは必死なんだっつーの」
“1対1なんじゃぞ。これぐらいは倒せるようにならねばの”
「こっちは小剣だっつーのに、どうして、相手の間合いでしか戦っちゃいけねぇんだよ」
“せっかくの実戦じゃ。防御をちゃんと学ぶ良い機会じゃぞ。ほれ、足払いがくるぞ”
マートは伸びてくる脚をすり抜けて、側面に回るようにしながら、剣で相手のオークの太腿に斬りつける。
“よし、そうじゃ。最後に握るときにだけ力を入れればよい”
「ウゴーッ!!!」
オークは、脚から血を流しつつも、雄たけびを上げ、巨大なこん棒を頭の上で振り回し始めた。
“来るぞ、波打じゃ。鈍器で使う全周囲攻撃用の闘技。距離をとれ”
マートはバックステップを踏み、さらに身体のバネを使って、大きく後ろに跳んだ。オークの周囲に巨大なこん棒を振り回した風の渦が出来る。
“よし、直後は身体のバランスを崩して何もできない硬直時間がある。波打の場合はおよそ2秒。そこを狙って速剣じゃ。初歩の闘技じゃぞ”
飛び込もうとしたマートの頬を、棍棒が起こした風がうつ、彼は飛び込もうとした身体を、踏ん張って止め、ふたたび後ろに跳んだ。
“1秒の半分程早かったの。見極めは良かったぞ。その調子でタイミングを身に付けるのじゃ”
「何回やらせるんだよ。そろそろケリをつけさせてくれよ」
マートの顎を汗がつたう。
“相手の闘技の隙を狙って速剣の闘技を決める。それが上手くできるまでじゃ。儂がつきっきりで指導しておるのじゃ、贅沢な実戦講義じゃぞ”
「もう、30分は戦ってるだろ、もう身体が動かねぇ」
“いや、まだ20分も経っておらん。戦いが終わったら、泉の精霊とやらに癒しの水を貰えばよい。ほれ、礫打がきそうじゃぞ。まだオークなどは技のモーションがわかり易いのじゃ。剣の達人ともなれば、わざと違うモーションをつかってから、それを取りやめて違う闘技をつかってきたりするのじゃぞ。それに比べれば、この戦いなど基本中の基本じゃ。さっさと習得してみせよ”
「ちっ」
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マートとオークの戦いは、この後さらに20分ほど続き、ようやくトドメを刺した頃にはマートはへとへとになって地面に倒れ込んだ。
「ああ、終わったーっ。もう身体が動かねえ」
“なかなかよくなったぞ。しかし、まだ1匹目じゃ。目撃は3匹じゃろう、他にも居るはずじゃ。あまりのんびりはできんぞ”
「ああ、だけど、ちょっと休憩してからだ」
そう言って、マートは左腕の文様に触れて、ウェイヴィと呼んだ。
10秒ほどたつと、泉の精霊のウェイヴィが例の半透明の姿で現れた。精霊魔法の素養がある者しか見えない状態だ。今回は服を着ている。
「どうしたの?猫」
「疲れた。泉の水を分けてくれないか?」
マートがそういうと、ウェイヴィはにっこりと微笑んだ。
「いいわよ」
「ありがとう、ウェイヴィ。愛してるよ」
“少し休んだらすぐに行くぞ”
“わかった、わかった”
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