365 ストームジャイアントの最後
マートが嵐の巨人が居るテントを望める建物の屋上に立ったのは、それから3日後の事だった。
テントにはもちろん天井部分に布があるが、おおよその位置さえ分かっていれば鋭敏感覚スキルの高いマートにその様子を探ることもできた。相変わらず元は嵐の巨人であった山の巨人は豪華な椅子にふんぞり返って座っており、その周りにもうひとりの山の巨人と丘巨人、ヴィヴィッドラミアの姿が見えるのも前回見たときと変わらない。数えてみると山の巨人と丘巨人は1体ずつ、ヴィヴィッドラミアは2体いた。
「どうする?こんな感じだが、どう飛び込む?」
マートは幻術呪文でテントの中を再現して横に居るジュディとシェリーに見せた。
「嵐の巨人はこいつなのだろう? 私が仕留める。作戦の変更はなくて良いだろう。真っすぐ飛び込むぞ」
3人が居る屋上からテントまでの高さはおよそ30mだが、シェリーは大したことのないようにそう言った。彼女には落下することの恐怖心というものはないのだろうか。
「わかった。じゃぁ、お嬢もそれでいいか?」
マートの問いにジュディも頷いた。それを見てマートは耳のカバーとなっている長距離通信用の魔道具を指で軽く叩いた。
「アレクシア、ここまではなんとか予定通りだ。ワイアットとアズワルトの方はどうだ?」
「はい。どちらも準備万端整っています」
応答したのはアレクシアだった。彼女はローレライ城の作戦指令室でエリオットやアニスと共に待機している。そしてワイアットはアマンダと共に蛮族討伐隊を率いてナッガで、アズワルトは配下の騎士団の他、ライラ姫、リサ姫、そして救援隊の有志たちと共にウィードの街にあるローレライ騎士団屯所でそれぞれ合図を待っていた。
『風飛行』
『飛行』
『飛行』
マートたち3人は揃って飛行呪文を唱えた。続けてジュディは盾呪文といった強化呪文、マートは身体強化スキルなどを発動する。そして、お互いの目を見て頷きあった。
「じゃぁ、アレクシア、連絡たのむ。いくぜ」
その掛け声とともに、3人は屋上から一気に地上に向かって飛び降りた。
「フラター、下のテントを吹き飛ばせ」
『小竜巻』
突風がテントを吹き飛ばしたのとほぼ同時で、落下した勢いそのままにシェリーは元嵐の巨人の腹に聖剣を突き刺した。剣のガード(鍔)の近くまで深々と突き刺さる。シェリーはそのまま体重をかけて一気に剣を横に倒した。巨人の胴体を真横に切り裂く。
「ウギャギャギャ!!」
大きな悲鳴のようなものを上げて、そいつは立ち上がろうとした。だが、切り裂かれた腹からは大量の血がどろどろと零れ落ちていく、そしてそのまま力尽きたのか椅子に座り込んだ。
「顕現せよ、ニーナ」
マートの突き出した掌から黒い鎧姿のニーナが飛び出す。
<旋脚> 格闘闘技 --- 全周囲攻撃
周囲に居た山の巨人と丘巨人、ヴィヴィッドラミアたちを身体を回転させながら蹴り飛ばしていく。肉体強化されたニーナの蹴りに巨体が宙に浮いた。
『魔法の矢』
ジュディの16本の魔法の矢が続けざまに山の巨人に叩き込まれた。ニーナの蹴りに体勢を崩していた巨人は何もできずにその場に崩れ落ちる。
<速射>射撃闘技 --- 2回射撃
マートの矢は1体のヴィヴィッドラミアの身体を続けて貫通した。腹と胴体に大きな穴を開けられたラミアもその場に倒れ伏す。
「ギャギャヒ!」
「ウギャウギャ!」
辛うじて残った丘巨人とヴィヴィッドラミア1体がよろめきながら身構えた。状況に戸惑いながらも不安そうに周囲を見回す。その視線の先には転移装置があった。丘巨人は転移装置に向かってその巨体を揺らしながら走り出す
「シェリー、かまわずに嵐の巨人にとどめを!」
マートが叫んだ。シェリーは聖剣を振りかぶる。
『魔法衝撃波』
ヴィヴィッドラミアはシェリーに魔法を放つ。
「効かぬ」
シェリーはその魔法をものともせず、聖剣を振り下ろす。巨人の首ががごとりと落ちた。
丘巨人はほぼ同時に転移装置に飛び込んだ。そのまま転移をして姿を消す。ニーナが飛び出して残ったヴィヴィッドラミアの首を爪で薙いだ。首筋から血を噴き出してヴィヴィッドラミアは倒れた。
「丘巨人は向こうの衛兵隊がやってくれる。よし、嵐の巨人、倒したぞっ!」
マート、ジュディ、シェリーの3人は大きな雄叫びを上げた。
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