364 ダービー王都方面
ダービー王国の旧王都。蛮族から奪還されたばかりのこの都市は長年の蛮族の支配により破壊され尽くしていた。
4ヶ国連合の遠征軍は王都の郊外にテントを建てて駐留しており、付近の制圧の他、負傷者の手当、戦死者の埋葬、蛮族の死体処理、瓦礫の撤去作業などに尽力していた。
そんなある日ワイズ聖王国に所属する騎士団司令部のテントをマートはジュディ、シェリー、そしてアレクシアを伴って訪れた。
「こっちはこっちで忙しそうだなぁ。お疲れさん」
司令部には総騎士団長であるエミリア侯爵の他、第1騎士団長のライナス伯爵、エミリア侯爵の補佐官であるメーブ、騎士隊長のビル、ハンニバル、そして騎士団所属ではないが国家間の調整にブライトン子爵と言った面々が詰めていた。
「マート殿か、よく来てくれた。霜の巨人と嵐の巨人の撃退、よくやってくれた。激戦を覚悟して進軍してきたのだがおかげで到着した時にはすでに蛮族共は逃げ腰になっていてこちらの被害者は格段に少なくて済んだ。助かったぞ」
エミリア侯爵が立ち上がってマートを出迎えた。今まで彼女はマートの事を我が夫殿と呼んでいたが、それはマート殿に変ったようだった。
「いや、ちょっと失敗しちまって捕まっちまっただけの恥ずかしい話さ。進軍速度を上げてもらうような事になって迷惑をかけた」
マートは差し出されたエミリア侯爵の手を取り、しっかりと握手をした。彼女はマート達に会議卓に席を勧め、自分も座る。
「で、どうしたのだ? 遠征軍に参加してくれるのなら大歓迎だがそっちはそっちで忙しいのではないのか?」
マートは周囲を見回してから、おもむろに口を開いた。
「少し相談があって来たんだが、こっちの状況を見て無理そうかなと考えてるところだ」
「相談? まぁ、言ってみるが良いぞ。マート殿の相談なら少々無理があっても話に乗る」
メーブがお茶を持ってきた。ジュディ、シェリー、アレクシアも会釈してマートの隣に座る。
「蛮族の大きい拠点が見つかってな。そこに拉致されている人間が少なくとも1万は超えそうなんだ。救出作戦を考えているんだが人手が足りないのと、うちだけじゃぁ拉致されている人間たちもあまり信用してくれないだろう。うちの騎士団とダービー王国の騎士団を1週間程借りれないかと思ってさ」
「ほう、1万か……。それは大きいな」
「だろ? だがこの状況だと難しそうかなと考え直してる所だ。実はみつかった拠点には嵐の巨人がいてな、救出するだけではなく、なんとか倒してしまいたい。そのためには兵力が足りないんだ」
マートは詳しい状況と作戦を説明した。エミリア侯爵は考え込み、何度か大きく首をひねったが、最後に大きく頷くと頭を上げた。
「わかった。危うい作戦のように思うが、そちらにはシェリー殿やアマンダ殿という勇者もいる。賭けるに足るだろう。ローレライ騎士団については全部は無理だが、半分の3千の戦力は南部方面への威力偵察という名目でここを離れられるように調整をしよう。それでなんとかしてほしい。 あとダービー王国の騎士団については私が判断することではないがおそらく難しいだろう。他の国の騎士団の連中がここで働いてるのに居なくなる訳にはいかない。救出の旗印というのであれば、リサ姫に来てほしいと頼めば良いのではないか? そなたは彼女とは懇意にしていただろう」
エミリア侯爵の提案にマートは頷く。
「そうか……。いや、わかった。そうだな。それで考えてみるか」
「ところで、マート殿。ライラ姫から聞いているか?」
「どの話だ? 解散になりそうってやつか?」
「ああ、その通りだ。前回、水都ファクラを占領したときはまだ良かった。ハドリー王国に逃げ込んでいた人々がいくらかは戻ってきたし、マート殿の領内から帰ってきた人間も居たからな。 ゆっくりとではあるが復興は進み始めている。だが、この王都近郊は難しいぞ。人々はだれも帰ってこない。集落の跡はあるが、井戸などにも毒が投げ込まれていて使い物にならない。まるで焦土だ。復興できるかどうかすら怪しいところだ。我々が居る間はまだ良いが撤退すればダービー王国単独でこの都市を維持するのは無理だろう。この状況で進軍して追い払っても蛮族側は一時的に撤退するだけですぐ戻ってきてしまうだろう。そういうのが見えてきたのだ」
「ふむ、だから撤退か。ライラ姫は人が居ないからだと言っていたが、そういう事になるんだな」
「残念ながらな。しばらくの間、おそらく我が国とハドリー王国とで分担して蛮族の勢力圏である北側の国境を守るための部隊を駐屯させることになるだろう。だが、当面の間、北部への侵攻は無理だ。せめてそなたの領内で保護しているダービー王国民が全てこちらに戻って国としての形を保てるようになれば良いのだがな」
「まだ霜の巨人と嵐の巨人は残っているんだがな。わかった。そちらの話についてはまた相談させてもらうことがあるかもしれない。では、アズワルトとオズワルト、どちらかの部隊が抜けれるようにだけ調整を頼む。いつ行ける?」
「命令だけならすぐに可能だ。調整は並行しておこなう。ブライトン子爵も話を聞いていただろう?」
すぐ横で話を聞いていたブライトン子爵は大きく目を見開き、仕方ないかとばかりに頷いた。
「わかりました。調整させていただきます」
「よろしく頼む」
マートもそう言うと立ち上がった。あとは騎士団次第、出発の準備はすぐにできるだろう。
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