363 蛮族拠点
樽を背負って行列に並んだマート・リザードマンは、建物の入り口に居たラミアの指示に従いつつ中に入った。中は階段と廊下、そしてたくさんの部屋に分かれており、構造は単調であった。指示されたのは4階の部屋には半分以上には樽が積み上げられており、他の部屋も同じような状況だった。おそらく建物全体が倉庫として使われているのだろう。樽の中身は大麦や燕麦、ライ麦といった穀物であったが、他に蛮族たちが使う武器などの物資もあった。途中、ゴブリンの上位種の一つであるホブゴブリンを見かけたが、それ以外に上位種は見当たらない。
“蛮族の生産拠点って感じだね。上位種といってもホブゴブリンやキロリザードマン程度だね。魔法を使えるのはほとんど居ないし、この倉庫にあるリザードマンの槍やゴブリンの剣は石と木製ばっかり……。金属は使ってないみたい。この感じじゃぁ、ここに強いのは居なさそうだね”
ニーナは詰まらなそうに念話を送ってきた。
“そう言われりゃそうだな。でもすごい数だ。どれぐらい居ると思う?”
“かなりの数だとは思うけどね。転移装置は僕たちが押さえているんだから、あのリザードマンやゴブリンが運んで来てた物資はこの島で作られたものってことだよね。それだと少なくとも数万、もしかしたらもっと多いかもしれない。前の巨大港湾都市ほどじゃないと思いたいけど、今回は土地が広いから全然わからないね”
“確かにな。じゃぁそっちはお嬢の調査結果とすり合わせて考えるとして、あとはこの島に最上位種とかが居るかってことだな。他の建物も一通り見て回るか”
マート・リザードマンは見本にといくつかの樽をマジックバッグに収めるとガラスの窓から外を見た。眼下に巨大なテントが見えた。巨人がよく使うやつだ。よく目立つはずなのだが、建物の影になって外からは見えないようになっていたらしい。
“巨人? 転移装置のサイズからすると巨人は来れないと思ったけど……”
ニーナは意外だったらしい。
“小さいのに変身すりゃぁ来れるだろ”
“変身呪文? あー、そういえば、巨人とか人間の子供とか変身したことあったね。戦闘するには身体の造りが変わるから動きにくくて不利だけど……。何が居るのかな? 霜の巨人ってことはないよね”
“さぁわからねぇが、こいつは確認しておく必要があるな”
マート・リザードマンは他のリザードマンに紛れて階段を下り、途中の1階の窓から再び覗く。布越しだがそれは問題ない。テントの中には偉そうに巨大な椅子に座った山の巨人が一体ふんぞり返っており、その周りにも山の巨人と丘巨人、ヴィヴィッドラミアの姿が数体見えた。
“真ん中のやつ! あいつは嵐の巨人だったやつだよ”
ニーナが興奮気味に言う。
“きっと嵐の巨人が蘇生呪文で蘇生した時の副作用で一段階進化が戻ったに違いないよ。リザードマンの見分けはつかないけど、巨人族は人間と顔の特徴はよく似てるから間違えないさ”
“やっぱり蘇生されてたか。なるほど、アマンダと同じか。あいつもジェネラルからオークウォーリヤーになってたもんな。まさかここで嵐の巨人に進化しなおそうとしてやがるのか”
“進化の条件はわからないけど、ここに有利な何かがあるのかも知れないな”
“あいつは転移や転移門が使えるからな、なんとか逃がさずにここで倒したいところだが……”
“龍鱗も使えるから魔法無効化すると分が悪いんだよね。不意を突くしかないよ。今行っちゃう?”
マートは首を振った。
“この島には沢山の人間が居るんだ。そっちの救助が優先だ”
“そっかぁ、残念……”
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夕暮れになってマートは一通りの調査を終えて魔空艇を停泊させている別の小さな島の入り江に戻ってきた。残っていたメンバーがいろいろとやっていたらしく、テントが張られ、串に刺さった焼いた魚や海老、貝、美味しそうなスープの入った鍋が用意されていた。
「へぇ、こいつは楽しいな」
思わずマートはそう声を上げた。
「向こうの島の人たちの事を考えると申し訳なく思えるけどね」
既に焚火の前で座っていたジュディが少し苦笑を浮かべ元気のない様子で呟いた。
「そんなに酷いのか?」
マートはそう言いながらジュディの横に座る。
「かなりね。魔術師の目で見ただけだから、話を聞けたわけじゃないけど、まともな道具も渡されずに開墾させられているみたい。とても非効率で悲惨だわ。みんなガリガリで服もボロボロ。見ていられなかったわ。みんな仲が良さそうだったからたぶん村単位で強制的に移住させられたんだと思うわ」
「そっか……、蛮族はどれぐらい居た?」
「そうね、村にリザードマンとゴブリンが居たわね。数えなかったけど、上位種は見なかったと思うわ」
「私の見たところでは、30体前後居る所が多かったです。リザードマンとゴブリンばかりでした。比率は1対3ぐらいでしょうか」
木のカップを片手にジュディを挟んで反対側に座っていたバーナードが口をはさんだ。
「そう言えばバーナードも魔法が使えるんだったな。一緒に見てくれたのか?」
「はい、私だけではなくモーゼルも併せて3人でいろいろ見て回りました。ジュディ様は素質が高いので遠い所を、私とモーゼルは近い所というように分担したのです」
横で立っていたモーゼルが得意そうな顔をしてマートの隣、ジュディとは反対側の場所に座って肩をすりよせた。
「私はあんまり素質がないからね。遠いところまでは大変だったわ」
マートはにっこりと笑った後、ジュディの方を再び見た。
「なるほどな。それでどうだった? 村の数としてはかなりありそうか」
「そうね、村の数としてはかなりのものよ。とても数えきれない。100は超えているんじゃないかしら」
「マジか……。俺が見てきた方に居たのは蛮族ばっかりで荷役させられていたのを含めると万は余裕で超えてそうな感じだった。それも嵐の巨人が居たんだ」
「嵐の巨人?」
アニスたちも集まってきた。
「ああ、見てきたことを説明するよ。場所も広いから巨大港湾都市からの救出作戦みたいなことは無理そうだ。こりゃぁ人手が要る。蛮族討伐隊だけじゃなく騎士団も連れてきたほうがいいかもしれねぇ。どうするかみんなで相談しようぜ」
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