表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第47話 時差4時間を求めて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

356/411

354 族長の話

 病によって足元がふらついていた族長は、ケオキという名前らしかった。アニスの治療呪文によりすっかり良くなり、マートたちと部族との話し合いは友好的な雰囲気で始まった。彼らが避難してきているという洞窟はかなり広く海辺が近いので食料としては海の幸を確保できるのだが真水には少し苦労しているらしかった。彼らの話によると、この島々には5つの部族がおり、どこの部族も同じような状況でそれぞれ洞窟に籠って戦っているのだという。ケオキが長を務める部族は中ぐらいの規模の部族で部族の人数は100人程。全体を統一するような族長の集まりなどはないものの連絡はとれておりお互い情報を共有したり物資を融通しあったりして協力はできているとの事だった。

 

 マートは今回の事について、蛮族討伐隊の派遣などについて申し入れてみたが、これについては部族の長はできれば自分たちの力で解決したいと返答してきた。かなり状況は悪そうだがと尋ねると、それについては武器や鎧などが劣っているためでそれさえ揃えば撃退できるはずなのだという。なので、武器や防具、あとは老人や子供たちのために薬草や食料が欲しいということらしい。

 

「どう思う?」


 マートはアニスやパウルたちの方を向いて尋ねた。

 

「いいんじゃないか? この島の若い連中はみんないい身体してるよ。武器が石製だから苦労してるんだろうけど本来の力はかなりあると思う。身を守るのに他人ばっかり頼りにするよりよっぽど良いよ。どうせ今回の件が片付いたとしても、今後の事もあるしね。武器や防具についてはどうだろう、衛兵隊の予備から少しは出せるかな。騎士団や蛮族討伐隊は聞いてみないとわかんないね」


 アニスは乗り気そうだ。だが、パウルは首を傾げた。アレクシアに小さな声で囁き、それを聞いたアレクシアがマートに念話を送ってきた。

 

“問題は提供した物資に見合うものが回収できるかだとパウルは心配しています。単純に助けを求めている都市や集落はラシュピー帝国、ダービー王国にもたくさんあるのです。彼は見たところこの島には産業らしきものがあるようには見えないので、もし助けるのであれば、さっさと蛮族討伐隊なり衛兵隊をつかってリザードマンを討伐して否応なくローレライ領とし、以前ウィード南部で試されていたサトウキビなどの栽培などので発展させたほうが我が領地にとっても、ここの島民にとっても良いのではという意見のようです”


 マートは髪を掻き上げつつ考え込む。


“いつの間にか領地が広がってるんで説得力はねぇかもしれねぇが、俺自身としては別に領地を広げたいわけじゃねぇんだよ。勝手にやってくれるんならそれのほうが助かる。物資はきびしいか?”


“食料は今回の遠征軍にかなり提供しましたので若干厳しいですが出せないことはありません。ですが武器や防具については決して余裕があるわけではありません。アニス様が少しならと仰っていましたが、現状予備の数としてはぎりぎりです。アニス様はここを救うためには仕方ないと考えられたのでしょうが、かなり厳しいかと。最近メイスンの南側でようやく大規模な鉄鉱山が見つかりましたが、まだまだ領内での鉄の生産は少ない状況なのです”


“そうなのか……たしかに、騎士や衛兵の鎧は作るのに手間がかかるしな……、そう言えば巨大集落や古都グランヴェル、古代港湾都市で接収した蛮族の物資で使えそうなのはないのかよ”

  

“あれは品質的に疑問がありましたし鎧などはサイズも合いませんでしたので部品に分解したあと鋳潰して使う予定で倉庫に山積みになっているはずです。保存状態もあまり良いとは言えませんが……”


“この際、そっちでがまんできねぇか聞いてみるとしようぜ。そっちなら大丈夫だろ。石の槍に比べれば全然良いだろうしな”


 アレクシアは、パウルに耳打ちした。パウルはマートを見て大きく頷いて見せた。


「族長、衛兵の予備はあまり数が揃わないが、蛮族がつかってたのでよければ大量に余ってる。そっちをまず回そう。あとは戦況次第というのでどうだ?」


「おお、だずがる。ぞれさえあればぎっどドガゲなど……」


「問題は今後か」


 マートはそう呟き、顔を上げた。

 

「なぁ、族長、リザードマンはどこからか流れ着いたのか?」


「ざあの、わがらんがぞういうこどだろうな。あんなのが住んでだら気づぐだろ」


 マートの問いにケオキ族長は首を傾げてそう答える。

 

「少し話は違うが、このあたりで昔の遺跡とかは残ってないか? 元々俺たちはそれを探しに来たんだ」


遺跡(いぜぎ)? 遺跡(いぜぎ)どいうのばどういうものだ?」


「正体不明の石の建造物やその痕跡のことさ」

 

 族長たちは首を傾げた。同席した部族の連中の中でも年寄りの女性が何かを思いついたように口を開いた。


「ぞういえば、あのドガゲがみづがっだ(じま)の真ん中あだりに土に埋もれてはいだが巨大な岩が変な形で並んでいだようなぎがずる」


「おっ!」


 マートは思わず膝をたたいた。


「そいつは気になるな。姐さん、アレクシア、パウルと一緒に武器と防具を用意してやってくれるか。族長、リザードマンが見つかった最初の島ってのはどこだ?」


 族長はマートにその島を説明した。今いる島からすると、3つほど飛び石で渡った先のようだ。東西南北に約1キロ程の大きさでほぼ丸い形をしているのだという。

 

「ねぇ、(キャット)、まさか一人で見に行こうなんて思ってないよね」


 アニスがいつもより低い声で尋ねる。マートは少し諦め気味に口を尖らせる。

 

「ああ、わかってるさ、モーゼルと一緒に行くよ」


読んで頂いてありがとうございます。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] メイスンの南側でようやく大規模な鉄鉱山が見つかりました 食料だけでなく武具に必要な鉄まで領内で揃うようになるか。名実共に国内最大貴族ですね。 [一言] 原住民弱いんじゃなくて武装不足か。ま…
[良い点] 確かにアレクシアやアニス姐さんに上手い具合にコントロールされていますね。 [一言] マートも随分飼い慣らされて来たようで何よりです。
[一言] この間罠に嵌まって捕まったばかりだから暫く無茶はさせてくれそうに無いねww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ