352 島発見
マートたちの乗る魔空艇は北に向かってしばらく飛び続けたが、一番最初に海の上に上る白い煙に気が付いたのはマートだった。
「ん、海の上で火事とかないよな?」
さらにしばらく飛ぶと、煙を上げているのは島であるというのがわかった。火山のようだ。さらにその北側にも別の島が見えてきた。マートは速度を落としぐるっと周囲を旋回してみる。島はさらに複数並んで岩礁などを除いてもざっと2、30の島々が集まっているようだった。そのうち煙を上げているのは一番南側の島だけのようである。一番大きな島は、途中にいくつか島を挟んで、北で東西2キロ、南北3キロといったところだろうか。大きく口を開けた獅子のあたまを横から見たような形をしており、鼻先が北西を向いている。
「降りるか」
「降りましょう!」
モーゼル、鱗、ネストルの3人は艇内の大きな窓から、同じ景色を眺めていた。
「魔獣や蛮族といったのも居るかもしれねぇ。油断するなよ」
マートは島々から少し離れたところに着水した。暗礁に注意しながら近くの岩礁にまで魔空艇を寄せて小さな錨を下ろすと魔空艇の扉を開ける。暑い空気と海の匂いが魔空艇の中に流れ込んで来た。
「みんなはどうする? 付いてくるか? っていってもライトニングに乗れるのは精々あと2人だな。城に戻ってボートでも借りてくるか? あ、いや3人を乗せて、俺は飛べばいいのか」
いつもであれば、一人で空を飛んでいくところだが、すこし勝手が違う。単独行動はくれぐれも止めてくれとジュディやライラ姫に頼まれているのだ。今から考えれば小さなボート程度なら乗せれない事もなかったし、マジックバッグに収納することもできただろう。
「いや、俺は泳げるから良いぜ。暑いから丁度いいぐらいだ。わりいがカバンは濡らしたくねぇからもってってくれよ」
鱗がそういって、出入口に荷物を置くと、槍を片手にそのまま海に飛び込んだ。その言葉で、鱗の前世記憶はリザードマンだったことをマートは思い出した。たしか水中呼吸と水中行動を持っていたはずだ。
「わかった」
マートはベルトポーチのマジックバッグからライトニングのコインを取り出して放り投げた。コインはたちまちヒッポカムポスの姿に変る。
「ライトニング、二人を乗せてやってくれ」
ライトニングは魔空艇の出入り口のすぐ近くにまで背を寄せた。2人はそのまま飛び移る。その後からマートは飛行して魔空艇を出て、扉を閉めると幻覚呪文で魔空艇そのものを岩にみえるような幻を被せた。
「便利だなぁ」
鱗の呟きにマートは首を振った。
「1日ぐらい経ったら解けちまうし、第一魔法の素質がある奴にはあんまり効かねぇ。気休め程度さ」
「一応、魔法で施錠しておく?」
モーゼルがにこにこして得意気に指を鍵状に曲げて見せた。マートは首を傾げる。
「ふふふ、私も魔法を使えるようになったの」
「おお、そうなのか? モーゼルは素質なかったよな?」
「そうなの。でも研究室でね、暇な時はずっといろいろ勉強したの。今では真理魔法★2つよ。呪文も20個ぐらい覚えたわ。施錠呪文もその一つ。鍵のない扉でも施錠できるのよ」
モーゼルは今度は胸を張り、指を二本たててマートに見せた。いつもより大きくなっている気がする胸がたゆんと揺れる。
「おおお、真理★2つか、すげぇな。魔法なら★2つでもそれだけで食ってけるだろ。昔ギルドで聞いたときは素養がない場合習得できるのは10年かかってせいぜい★1つとか言ってたが……」
マートは指折り数えた。モーゼルを魔龍同盟から救い出してからおよそ5年がたつ。とはいえ、最初の頃は海辺の家で魔獣スキルなどを練習していたはずだ。
「研究所に移ってから、食事の用意とか農作業とかもしなくて良くなったからね。本格的に勉強したのは3年ってところかな。あそこにある資料って、すごく丁寧に書いてあるのよ。一度エリオットさんに見せて話をしてたら、なるほどなーって10回ぐらい続けて呟いてたぐらい。バーナードやローラはもっと上がってるはずよ」
「すげぇな。みんな成長してるんだ。わかった、とりあえずモーゼル、施錠頼む」
「わかったー」
モーゼルは得意げに呪文を唱えた。カチリと結構大きな音がしてカギがかかる。
「これで、扉を壊さない限り中には入れないわ」
「よし、じゃぁみんなで島を探検だ」
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島は、どちらかというと魔法のドアノブで行ける海辺の島と雰囲気はよく似ていた。もう11月だというのに気温はまるで夏のようである。木々の緑は濃く、海の水は限りなく透明で小さな魚がたくさん泳いでいるのが見えた。
魔空艇を泊めた岩礁から近い島はあまり大きくなく、人や蛮族、大きな獣などの気配は全くなかった。マートたちは相談して一番大きな島に向かう事にした。何かが居るとすればそこだろうと考えたのだ。いくつかの島を飛び石のように経由して渡っていく。すると、大きな島に至る1つ手前の島で小さな小屋のようなものが海岸近くにあるのを発見したのだった。
「お、あれは……」
マートたちは急いでその小屋のようなものに近づいた。木の骨組みにおおきな木の葉をかぶせてつくった質素なものだ。生き物の気配はなく、しばらくの間利用されていないようだった。マートが知る蛮族のような臭いはしない。中には焚火の跡や魚の骨、漁につかう針や葉の繊維で編んだ網のようなものが残されていた。
「ネストル、どう思う?」
「ここに漁に来た時の避難小屋かなにかでしょうか。蛮族か人間かはわかりませんね。リザードマンなどでも漁はしたはずです」
「んー、リザードマンの臭いはしねぇんだけどな……。この辺りに何かが居ることだけは確かそうだ。一番大きな島の可能性が高ぇか」
「そうでしょうね。注意して向かいましょう」
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