348 王城での戦い 5
マートが顔を出した時は丁度、霜の巨人に拳で弾き飛ばされたクローディアが壁に激突したところだった。霜の巨人は背後の鉄格子をぬけてきたマートには気づかなかった様子でシェリーとアマンダがレッサードラゴンなどと対峙しているところに近づいていった。その背後では岩のゴーレムを盾にジュディとブライアンが並んで魔法をさらに向こう側にいた嵐の巨人相手に放っていた。奥では海の巨人に蛮族討伐隊がなぎ倒されたものの、懸命に体勢を立て直していた。
“霜はまだ気づいてないよ。僕にやらせて”
ニーナが念話のようなものを送ってきた。今までニーナを他に誰かがいた状況で出したことはなかったが、この間ジュディたちには紹介したばかりだ。見たところ相手のほうが人数が多い、ニーナにも戦ってもらった方が良いだろう。マートは左腕の獅子の顔の文様に触れる。ニーナが姿を現した。カギ爪も肉体強化も準備万端だ。
“ヴレイズ、フラター、2人協力してくれよ”
『炎の竜巻』
マートは霜の巨人、ラミアたちとその前のレッサードラゴンを巻き込んで魔法を放つ。炎の精霊 ヴレイズ、竜巻の精霊 フラターが協力した魔法。炎を帯びた高熱の竜巻が下から上に渦を巻いて噴き上がった。魔法の嵐ほどのダメージはないものの、その風の勢いに巨体の霜の巨人とレッサードラゴンですらバランスを崩し、ラミアたちは一斉に宙に舞うとその場に転倒した。
炎の熱が冷めきらぬそこにニーナは一気に加速して飛び込んだ。
<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る
<崩撃> 格闘闘技 --- ダメージアップ
ニーナのカギ爪、試作品の聖剣が形を変えたそれは、霜の巨人の首筋から背中をやすやすと切り裂いた。血しぶきが噴き上がる。致命傷ではなかったようだが、霜の巨人は驚愕の表情をうかべてニーナを振り返った。
「ギャヒヒヒ!!!……(なに? マートだと? 一体どうやって、それも龍鱗が……?!)」
「猫」「マート殿」「マート」「ローレライ候」
ジュディやシェリーたちの様々な驚きと喜びの声も上がる。
「お嬢たちがこっちで騒ぎを起こしてくれたおかげで、逃げ出すことが出来たぜ。俺はもう大丈夫だ。ありがとな。さぁ、これからは反撃だ」
「わかったわ。じゃぁ、私は先にそっちを」
『魔法の嵐』
ブライアンを嵐の巨人の牽制に残してジュディは霜の巨人たちのほうを向いた。倒れ伏しているラミアたちとレッサードラゴンに範囲を絞って魔法の嵐を打ち込む。レインボウラミアを残して他のラミアたちはギャオーと叫び声を上げてそのまま動かなくなった。その横でアマンダは1体残っていたキロリザードマンを自慢の矛で肩口から叩き伏せた。
「シェリー、私はレッサードラゴンを抑えるから、嵐の巨人を頼むよ。蛮族討伐隊は海の巨人を潰すんだよ。相手は1体だ、さっさと片づけな」
蛮族討伐隊からはおぉーと雄叫びのようなものが聞こえた。シェリーも頷いて踵を返すとジュディ、ブライアンを越え、崩れそうになっている岩のゴーレムに並ぶ。
「嵐の巨人よ、聖剣の騎士、シェリーだ。そなたら邪悪なる龍は退治される運命だ。覚悟せよ」
「ギャヒギャヒ、ギャヒー……(こちらは2体も伝説の巨人が揃っているのだ、覚悟するのはそなたらのほうだ)」
嵐の巨人はその5mはありそうな巨大な腕を振り回した。
「完全防御!」
だが、その腕は聖盾でぴったりと止められた。止まった巨大な腕を相手にシェリーは一歩踏み込む。
<破剣> 直剣闘技 --- 装甲無効技
ズバンと太い腕の肘の下あたりに刃が入った。そのまま床まで通る。すぱりと切れた右腕がごろんところがった。嵐の巨人の紫色の血が切り口から噴き出る。
「ギャヒ、ギャヒ、ギャヒーーーーー!!(痛いっ、痛いっ、おのれー)」
「龍鱗とやらに頼りすぎたな」
「ギャヒッヒ……(うるさいっ)」
【酸の息】
嵐の巨人は口から黒い息を吐きだした。ドラゴンの中でも黒龍と呼ばれる系統の龍が吐く強酸を含むブレスだ。それを受けたものは装備も含めて溶けてしまうと言われる恐ろしいブレス。シェリーの横に居た岩のゴーレムはぐずぐずに溶けて崩れ落ちる。だが、シェリーの聖盾の完全防御はそれすら無効化した。聖盾に阻まれて、嵐の巨人のブレスは背後に居たブライアンにも届かない。
「効かぬ!」
読んで頂いてありがとうございます。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。




