346 王城での戦い 3
シェリー、アマンダたちの派手な戦いに紛れるようにして、クローディアは壁際まで移動してひそかに変身呪文を使いゴブリンメイジに変身していた。飛行呪文を唱えると壁に沿って通路の天井まで移動する。マートが捕まっている通路を封鎖している鉄格子は20㎝幅、人間の子供程のサイズしかないゴブリン、ゴブリンメイジの姿であれば、鉄格子を抜けれそうだった。
戦っている連中を横目にクローディアは突き当りまでたどり着くと、そのまま高度を下げて通路に近づく。あと少しで到着というところで、クローディア・ゴブリンメイジに見張り役らしいゴブリンメイジが近づいてきた。
「ギィギギギ……(おまえはどこのもんだ? 見かけねぇ顔だ)」
「ギギギギ……(えっと、戦いが始まったから様子を見に来たのよ)」
そのゴブリンメイジは何故かニヤニヤしている。不気味なものを感じながらクローディアはその鉄格子に塞がれた廊下の入り口に近づこうとした。
『魔法解除』
少し離れたところに居た別のゴブリンメイジがいきなりクローディアに呪文を唱えた。魔法解除の呪文。彼女の正体は既に見破られていたようだった。飛行呪文と変身呪文がいきなり解け、クローディアは元の人の姿で床に落下する羽目になった。なんとか受け身を取ると、急いで立ち上がる。彼女の姿を見た近くのゴブリンメイジが何か叫ぼうとした。
『即死』
クローディアは付近に居たのも含めて3体のゴブリンメイジに対して呪文を唱えた。近くと一番遠くのゴブリンメイジには効いたらしく、そのまま落下したが、少し離れたところでクローディアの呪文を解除したゴブリンメイジは平気な顔だ。呪文に抵抗されてしまったらしい。
「ギィギャヒ……(裏切者のクローディアよ、ここは通さぬ)」
そのゴブリンメイジはすぅと飛行してクローディアとの距離を詰めてきた。彼女は蛮族の言葉を理解できなかったが、急に雰囲気が変わったのに気づく。何が変わったのか? しかし、それをゆっくりと考えている暇はなかった。
【石化】
彼女は続けてそのゴブリンメイジを睨みつける。石化の効果のある視線だ。彼女の前世記憶はゴルゴーンとよばれる今では数の少ない蛮族だ。青白い肌を持ち、髪の毛は蛇のようにうねって絡みつき相手に毒を与えることができる。また、呪術に秀で、その視線で見つめられると相手を石化するという恐ろしい種族。その石化の力は毒と同じように相手の生命力が高ければ効きにくい。だが、ゴブリンメイジ程度であれば簡単に石化できるはずだった。だが、そのゴブリンメイジには効かなかった。
「どうして?」
ゴブリンメイジが笑いはじめた。そして、姿を変え始める。身長が伸び、身体の幅がひろがって小柄なゴブリンがたちまち身長5m程の巨人の姿に変った。
「くくくっ、それは俺が…… 霜の巨人様だからよ」
「ちく……」
そのゴブリンメイジの正体は霜の巨人だった。変身呪文でゴブリンメイジの姿になって相手を油断させ、マートを救出しようとするのを見張っていたのだ。クローディアが慌てて後ろに跳びすさろうとするが、 霜の巨人の踏み込みのほうが早かった。彼女の身長ほどもある巨大な拳がクローディアを襲う。そのまま5m程吹っ飛ばされ、彼女は通路の壁に激突した。彼女はそのまま倒れ伏した。
「ギィヒギャ……(罠は完成した。火の巨人の仇を討ち、聖剣の騎士、聖剣の魔法使いをここで倒すのだ! そして、世界を我等の手に!)」
霜の巨人はそう言って雄叫びを上げた。そのまま、のっしのっしと歩き、シェリーとアマンダの居るところに近づいてくる。
「畜生、嵐の巨人だけじゃなかったのかい」
アマンダは天を仰ぎそう毒づいた。
「アマンダ殿、焦りは禁物だ。落ち着いて、一体ずつ倒すぞ」
シェリーがキロリザードマンの血に濡れた剣を一振りして盾を構えなおす。
その背後では、ジュディとブライアンが並んで、岩のゴーレムを盾に杖を構えた。
『魔法の嵐』
『魔法の嵐』
嵐の巨人と海の巨人は両手を自分の顔の前で交叉してブライアンの魔法の嵐を耐え忍んだ。嵐の巨人のほうはあまりダメージを受けていないように見える。霜の巨人と同じように龍麟を持っているのかもしれなかった。
「お……の……れ」
魔法が収まるのを待って嵐の巨人は一歩踏み出た。巨大な腕にカギ爪を生やすと、それで岩のゴーレムを一薙ぎにしようとした。2mはある岩のゴーレムであるが、10mの嵐の巨人相手には小さな人形のように見える。だが、岩のゴーレムはなんとかその腕を抑えた。ぐっと止められた腕に嵐の巨人は驚いたような顔をする。だが、岩のゴーレムの脚は岩の床にめり込み、右肩から下、そして左手の先がその衝撃でぼろぼろと崩れた。
「ふふふ、儂の一撃を耐えるとはな、だが、次で終わりだ。フルングよ、こちらは儂だけで十分だ。さきに雑魚をけちらせ」
フルングと呼ばれた海の巨人はにらみつけていた先の1番隊に向かって一気に走り出す。ジュディたちの魔法でこちらはかなり傷ついてはいるものの、まだ戦いには支障がないようだ。そのまま集団に突撃、ぶつかったところで巨大な腕を振り回した。
<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る
<旋腕> 格闘闘技 --- 全周囲攻撃
回避が間に合わず、集団の先頭で盾を構えていた連中が10人ほど一気に吹き飛ばされた。一気に崩れる陣形。
「大丈夫か?」
「陣形を組みなおすぞ」
「まだ、負けねぇぞ」
1番隊の連中はお互いに回復呪文などを唱えながら、立ち上がり、海の巨人を取り囲む。
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