343 転移門開門
アマンダは配下の蛮族討伐隊の面々と共に、ローレライ城の中庭で両足を広げ愛用の巨大な矛を持ってじっと前を見つめていた。その先はかなり広い空間となっている。この場所はブライアンが転移門を開くための転移鍵を作った場所であり、今回の作戦ではここに旧ダービー王国の王城とつながる転移門が開かれるはずであった。
クローディアたちと話し合ったのは昼の12時から2時の間に隙を見て開くという話だった。そろそろ丁度太陽が中天にかかる頃だ。予定変更のために『長距離通話具』を預けてはいるものの、向こうでうかつに通話を繋ぐわけにもいかないだろう。
アマンダ、ジュディ、シェリーたちは、同行する蛮族討伐隊の隊長クラスやグールド兄弟やワイアットたちにも意見を聞きながら、クローディアたちが最初から裏切っていた場合も含めていろいろな可能性を検討した。だが、当然ながら結論はでなかった。敢えて言えば、結局 霜の巨人たちは何らかの手段でこの救出作戦に気付いたとしても、向こうで待ち構える可能性が高いだろうということだった。明らかにマート、ジュディそしてシェリーを倒すことに目的を絞ってきている。そうであれば、罠が利用できる向こうでの戦いが有利であり、それを選択するだろう。
クローディアがうまくやってくれれば不意を突ける。そうでなければ、罠を喰い破る覚悟で突撃するだけだ。アマンダはそう覚悟を決めてじっと見つめていたのだった。
「そろそろか?」
ジュディとシェリーそして、ワイズ聖王国の神官の恰好をした男性が3人とその護衛らしい騎士がやってきた。アマンダは面識がなかったが、神官の一人はマシューだった。ヘイクス城塞都市で初代魔龍王テシウスを襲撃した時に聖王国側で参加していたメンバーの一人である。
「ん?神官殿か?」
「ああ、我々ローレライには蘇生呪文の使える神官殿がいないのでな。ライラ姫が派遣して下さったのだ。マシュー殿、こちらは蛮族討伐隊の副隊長、アマンダだ。よろしく頼む」
シェリーはアマンダを紹介した。マシューはアマンダを見上げて、おもわずホウと声を上げ、慌てて謝った。
「申し訳ありません、これほど大きな方とは思っていなかったのでものですから。魔龍王テシウスもあなたほどの身長がありました。さぞお強いのでしょう」
「マシュー様はテシウスと会ったことが?」
アマンダは不思議そうな顔をする。
「ああ!」
マシューは慌てた様子で声を上げた。
「申し訳ありません。アマンダ将軍は蛮族討伐隊を率いて多くの人々とワイズ聖王国の危機を救い、ハドリー王国や多くの蛮族を倒した英雄であるワイズ聖王国では人気も高く、かつて魔龍同盟で恐れられた将軍であったことはすっかり存念から外れておりました。変な事を言うつもりではなかったのです。気分を害されたのであればお許しください。かつて、私はライナス・ビートン子爵と共にヘイクス城塞都市に魔龍王テシウスを討つために向かったメンバーの一人だったのです」
「そうなのか。懐かしい話を聞いた」
「そうですよ、ハドリー王国の3個騎士団3万を百人ほどの蛮族討伐隊を率いて打ち破ったという話や炎の巨人との一騎打ちの話は、ローレライ侯爵やシェリー殿の話と並んで王都では人気の演目です」
アマンダは眉をしかめたが、その横にいた蛮族討伐隊の面々は目を輝かせて喜んでいた。
「何か話が混ざっているか、もしくは誇張されているのだろうな。まぁ、どうでもいい。もうすぐ魔道門が開くかもしれぬ。怪我なら治せる者もいるので決して前にはでないでおくれ。死者が出た場合にはよろしく頼む」
「わかりました。くれぐれもお気を付けください」
それからしばらくして、なにもなかった空間におぼろげなもやのようなものが浮かび始めた。
「転移門の兆候がでたぞ。すぐ開く。盾を構えよ」
やがて、転移門が完全に開いた。向こうは城の通路のどこかのようだった。ブライアンがこちらに向いて呪文を唱えており、クローディアは反対側にいて何かを警戒している。いきなりこちらになだれ込んでくるという事はなさそうだった。
「待ち伏せはなさそうね。行きましょう」
ジュディが明るい声でそう言って一歩踏み出した。その横をシェリーも歩む。
「よし、いくぞっ」
アマンダが先頭に立って走り始めた。
「マート殿が捕まっていると思われる通路の前にはレインボウラミアとギガリザードマンが居るんだ。私たちだけじゃ救出は無理だった」
アマンダに駆け寄ったクローディアがそう告げた。アマンダは頷く。
「了解だよ、このまま強行突破するだけさ」
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