328 パワーレベリング
それからマートは幾人かの蛮族の記憶を奪ったがゴブリンやリザードマンの成体は一旦王城の中に連れていかれたのはわかったが、そこからどこに出撃していったのか知っているものは誰も居なかった。仕方なくマートは丘巨人に変身して王城に入っていくことにしたのだった。
丘巨人はゴブリンに変身した場合と違って背中が丸まっている感じですごく窮屈な感じがした。走るのも苦手なようだ。ゴブリンとはまた違う不快感があった。だが、その状態でひとまず城に入り込む。城の中は2フロア単位で床と壁が抜かれてジャイアントが自由に歩けるように改造がなされていた。さすがにこの巨人サイズでは隠密行動などはできない。誰かに話しかけられたりしないか考えながら城の中をうろうろと歩く。初めての場所というのもあって新しい事実などは中々発見できない。
丁度そこに、ヴィヴィッドラミアに率いられた100体ほどのゴブリンがやってきた。ゴブリンたちはなにがあるのか良く判らない感じできょろきょろしている様子だった。マートは物陰で変身を解除し、身縮めの腕輪で身長5cm程の最小サイズに身体を小さくしてそれを尾行することにしたのだった。
途中で鼠や黒いつやつやとした虫に襲われたりしながらもたどり着いた先は城の地下にある20m四方はある広い室だった。キロリザードマンが1体待っている。案内してきたヴィヴィッドラミアはゴブリンたちを部屋の中央、キロリザードマンの前に残して部屋を出ていった。
部屋の中にもぐりこんだマートが小さい姿のまま天井近くの暗い隅に隠れ、何をするのかとみていと、キロリザードマンは腰に挿した湾曲した刀を抜いた。そして、部屋に残されていたゴブリンを襲い始めたのだ。ゴブリンは虚を突かれ、ほとんど抵抗できずにキロリザードマンの餌食となって細切れの肉片となっていく。
“あーあ、こんなのをしちゃうんだ。そっか蛮族だからね”
ニーナはすぐに意図に気付いたらしい。
“何をしてるんだ?”
倒されているのはゴブリンだとはわかっている。それでも弱い相手を生贄にするようなやり方は全く気に入らない。胸が悪くなりながらマートが念話を送った。
“蛮族の進化の条件って聞いたことある?”
“たしか、アマンダが言ってたな。1万体倒す……だったか? あっ、まさか?”
マートは気づいた。ゴブリンやリザードマンに食料を与えて増やし、それを殺させることによって進化した蛮族をつくりだそうとしているのか?
“これはある意味すごいね。自然に闘いの中で生まれる上位種や最上位種ってそれほど多くはないはずなんだけど、こういう方法ならギガリザードマンを100体とか簡単に揃えられそう。レインボウラミアもたしか1万体かな?”
ギガリザードマンはリザードマンの最上位種で、たしかレッサードラゴンに変身できたはずだ。レッサーとは言えドラゴンだ。空も飛べるし、炎の息も吐ける。レインボウラミアはラミアの最上位種、軍勢を率いるほどの高い知性を持ち、魔法にも秀でている。たしか転移呪文なども使えたはずだった。
“本当にそんな数を揃えようとしてるのか?”
“んー、指揮官として数体を作り出そうとしてる可能性もある。どちらにしても最上位種を簡単に増やす方法を相手は見つけたってことだよ”
ニーナの念話にマートはしぶしぶだが頷いた。だがたしかにその通りだ。ゴブリンやリザードマンが成体になるのに半年しかかからないというだけでも人間はかなり不利であるというのに、圧倒的な力を持つ最上位種が簡単に生まれるというのではどうすればよいのか。ゴブリンがすべて肉塊となるとキロリザードマンは地下室を出ていった。マートは慌てて尾行を始める。
キロリザードマンは地下の通路をさらに奥に進んでいった。マートは全くの暗闇であっても視覚は使えるし、体熱による感知も可能である。ゆえに魔物が潜んでいてもすぐ気づく。だが、急に壁に彫られた彫像の腕が急に動き出しマートを攻撃したのだ。その腕をマートは空中で急停止し、ふわりと上に浮かんで避けた。
その彫像はガーゴイルと呼ばれる岩のゴーレムの一種だった。ガーゴイルだけでなく、ゴーレムのほとんどは魔法使いによって生み出され、単純な命令に従うことしかできない魔物である。ガーゴイルの胴体は猿のような形でカギ爪をもち背中には翼を生やしている。そして全てが岩石が出来ており体熱を持たないので熱感知にはほとんどひっかからないのが厄介だ。体長はおよそ1.5m 翼を広げると2m程ある。それに比べて、マートの身長はおよそ5cmしかない。
ガーゴイルは両手を何度も突き出し、マートを捕まえようとした。幸い、ガーゴイルは声を発しないようで、まだマートの存在は他の蛮族や魔物たちには見つかっていないようだった。だが、体のサイズを戻せば、ガーゴイル以外のものに見つかってしまう可能性がある。マートは幻覚呪文を使って姿を誤魔化そうとしたがガーゴイルはそれには惑わされないようだった。生命体ではあるが岩で作られているので、おそらく毒も効かないだろう。魔法無効化の魔道具、或は即死呪文は効くかもしれないが、その場合、ガーゴイルは空を飛んで居るので岩石の塊が床に落ちて大きな音が鳴ることになるだろうし、魔法無効化の場合はさらにマート自身の身縮めの効果も切れて元のサイズに戻ることになる。
“ちっ、どうする?”
“下を歩いてるキロリザードマンと同時に倒す?”
こういう時のニーナの提案はあまり参考にならない。一体どうすればよいのか?
読んで頂いてありがとうございます。
本来、パワーレベリングはMMORPGなどレベルのあるゲームなどで高レベル者が低レベル者のレベル上げを手伝う行為ですが、今回蛮族が行っている行為も似たようなものかと考え、レベルの概念はないのですがこのタイトルとしました。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。




