327 発端
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
内海の老人から得た前世記憶に関する情報はマートからライラ姫に伝えられた。だが、王家の秘伝をもつライラ姫にとってもこれらの話は神々の御業のような話であり、どうしたら良いのか、何か出来る事があるのかも全くわからないようだった。マートとしても唯一の可能性として研究棟に残されていた膨大な資料を基にバーナードやローラ、ネストルたちにお願いして具体的にどういう事をしたのか調査してもらうことにしたのだが、特にこれといった新しい進展はなくそのまま秋となったのだった。
「マート様、アマンダ様より連絡が入っています」
マートがいつものようにローレライ城の自分の居室でのんびりしていると、アレクシアが部屋に入ってきた。片手には『長距離通話具』がある。航空観光リゾートでみつかったこの魔道具は他の魔空挺の運転席などにおかれていたものも含めて17個、主たる指揮官であるアマンダ、ワイアット、オズワルト、アズワルト、アニスといった面々に手渡されていた。
マートは座っていた椅子から立ち上がり、アレクシアから通話具を受け取った。相変わらず貴族らしくない冒険者の時と同じ格好である。
「アマンダ、どうした?」
「悪いね、緊急でもないんだが、ちょっと気になったもんだからさ。半年ほど前に蛮族から手に入れた長距離通信用の魔道具があったろ? あれからちょくちょく文字が浮かんできててね」
アマンダの話によると、長距離通信用の魔道具に頻繁に旧ダービー王国の王都に食料を運び込むように指示がでているのだという。おそらくとてつもない量だということだった。
「巨人やラミア、オーガやオークとは違い、ゴブリンやリザードマンは食料さえあれば、いくらでも増やすことができる。それも半年から1年ほどで成体になる。水都ファクラでの戦いで失った数以上の兵力を整えようとしているんじゃないかと思うんだ。10万どころじゃきかないと思う。だけどさ、作ってしまえば、維持にも食料を使うことになる。ということは侵攻も近いんじゃないかと思うんだよね」
彼女の言葉にマートは頷いた。
「なるほどな、ちょっと様子をみてくるか」
横で聞いていたアレクシアが心配そうに首を振るが、それをみてマートは軽くほほ笑む。
「マート様、危険です」
「俺が1人で行くのが一番安全なのはわかってるだろ?」
「マート様を超える斥候が居ないのは判っていますが……」
「アレクシアに伝えておくれ。私は蛮族との戦いはマートが後ろでのんびりできるほどの余裕はないと思うんだよ。だから止めないでやっておくれ」
アマンダの声が通話具から聞こえた。
「んー、俺は単純に自分が安全なところに居て、他人に危険なところに行かせるなんて事がしたくないだけなんだがな」
アマンダの言葉を伝えつつも、マートはそう言った。アレクシアはしばらく考え込む。
「……わかりました。くれぐれもお気をつけて」
「無理はしねぇよ。ちょっと見てくるだけだ」
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マートは軽く準備をするとその日のうちに出発することにした。魔法のドアノブを通ってドワーフたちの住むミスリル廃坑に一旦出ると、そこからライトニングに乗ってクロイサ河を遡上、源流に近いあたりから精霊魔法による飛行を使うというルートでダービー王国の旧王都に向かう。本来であれば1月以上もかかるような行程であるが、マートにとっては半日程で行ける範囲であった。
とは言え、この旧王都は以前 霜の巨人が転移呪文で撤退した先であると思われる所であり、おそらく蛮族の最重要拠点であると思われた。都市自体も蛮族の手に落ちておおよそ8年が経っている。決して潜入は簡単ではないはずである。
ひとまずマートは、上空から夕暮れの旧王都を眺めた。この都市は広大な平原の真ん中に作られ広い街道が四方に伸びていた。かつて王国の首都であったことを思わせる高い城壁が2重に都市を囲んでいる。だが、蛮族による占領が長く続いたことで人間の住む都市とは異なるさまざまな改造が加えられているようだった。外から見ただけでも、王都を囲う外壁の周囲には様々な蛮族の大規模な集落が築かれており、ラミアやリザードマン、ゴブリンたちが大量に暮らしているのがわかる。マートは見つからぬように注意をしながら降下し、外周をぐるっと回ってみた。
“変じゃな。食料を運び込んだと言っていたが、蛮族がそれほど増えているとは思えぬな。たしかに妊娠している雌ゴブリンは多いし、ラミアやリザードマンの幼生の数も多いが……成体はどこに行ったのじゃ?”
その光景をみて魔剣が呟いた。
“もうすでにどこかに向かって進軍を始めているのか”
“ちっ、そいつはまずいな。だが、そうとも限らねぇぜ。とりあえず中に入って調べてみよう”
マートは王都の外側の城壁をいつものように幻覚呪文を使って姿を隠し、飛行スキルをつかって越えた。都市の中は王城を除けば更地になっており、巨人族のものと思われる巨大なテントがたくさん並んでいた。ひとまず城壁にちかいあたりで、テントの一つの影に身をひそめる。ところどころに大型の猟犬をつれた丘巨人と空を飛ぶゴブリンメイジが警備に立っている。
“やっかいそう。どうする? 僕が都市の外で騒ぎをおこそうか?”
ニーナは相変わらず過激だ。マートは首を振る。
“蛮族の奪取した記憶は蛮族に変身したら読めるんだろ? なぁ魔剣の爺さん”
“ふむ、蛮族が人間に化けたときに記憶を読む呪文じゃ。逆もまた可能じゃろう。じゃが、決して気持ちの良いものではなさそうじゃな”
マートはテントの中に入り込んだ。ゴブリンメイジは魔法の素養があるだけに記憶奪取はしにくい。すぐに寝ている丘巨人が見つかった。
“まずはこいつの記憶から奪おう”
読んで頂いてありがとうございます。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。
※いつも直前に読み直してわかりにくいところを訂正しているのですが、PCの調子が悪くて今回6分程過ぎてしまいました。申し訳ありません。それまでに一読された方は、お手数ですが、もう一度読み直ししていただければ、すこしはマシになっていると思います。よろしくお願いします。




