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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第43話 魔法のドアノブ

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325 4番と6番の先

  

 翌日の朝、マートは昨日とはちがう番号、“4”に魔法のドアノブのダイヤルを合わせた。昨日みつけた魔空挺と長距離通話具の説明もすべきではあるが、それをするとかなり時間がとられそうと考えて後回しにすることにしたのだ。

 

 壁にドアノブを挿しこみドアノブを引く。今度の転移先は真っ黒い腐葉土のようなもので覆われていた。ナイフを使って斜め上に掘り進め、土は何時もと同じでマジックバッグに放り込んでゆく。崩れないように気をつけながらおおよそ1時間、3m位は堀り進んだだろうか、ようやく天井に穴が開いた。今度は濃厚な木の香りと共に涼しい空気が流れ込んできた。ザクザクと穴の周囲を広げて頭を出すとそこは深い森の中だった。

 

 マートは穴から這い出ると、ゆっくりと周りを見回した。深い森の中ではあるが、きらきらと梢からもれてきた光で暗いわけではない。巨大な木が何本もそびえたち、地面は深い緑の苔に覆われている。彼はこの光景に見覚えがあった。中央転移公共地点である。念のためマートは海辺の家に繋がる転移門がある部屋を探してみたが、やはりその部屋は存在した。もちろん倉庫棟につながる転移装置の位置もちゃんとあった。

 それならば、ここは海辺の家を経由してくることが出来るので魔法のドアノブとして残しておく意味はあまりない……そう考えかけたときに、ふと閃いた。海辺の家とここを繋いでいる転移装置……あれはどういう魔道具なのだろうか。気になったマートは海辺の家と繋がっている転移門がある部屋に移動し、中央転移公共地点側の周囲の壁をよく調べた。こちらの壁には何もない。次は海辺の家側だ。四角く切り取られた枠の外側の壁……、そこにはマートが想像した通り、ギルバート伯爵家に伝わっていた転移門を開くパネルと似たパネルが存在した。

 

 マートはパネルに触れた。問題なく転移門を閉じることが出来た。パネルを壁から取り外す。ここまでの操作も同じだ。転移門を作れる魔道具……ギルバート家の家宝として存在していて、それも今現在マートが借りている状態だけに、魔法のドアノブとちがっておおっぴらに使ってもごまかせるだろう。これはかなり利用価値が高いかもしれない。

 

 マートはその転移門パネルを一旦元に戻して、中央転移公共地点の森に戻った。さらに魔法のドアノブを使ってローレライ城に戻る。魔法のドアノブのドアを閉じてダイヤル“8”に変え、海辺の家に行く。そこから、崩れかけた崖の上の洞窟、中央転移公共地点の森につながる転移門があるところに移動した。先程と同じように横のパネルを操作して転移門を閉じ、転移門を開くことのできるパネルをマジックバッグに回収すると、魔法のドアノブのドアを通ってローレライ城に戻ったのだった。

 

 そこまで行ってマートはふと思った。利用価値の高い魔道具は手に入ったが、本来の目的である使わない転移先を探すというのは振出しに戻ったらしい。ここはここまでにしよう。まだ昼にはなっていない。

 

-----

 

 気をとり直してマートは同じように壁にドアノブを挿しこみ、今度はダイヤルを“6”に合わせてドアノブを引いた。

 

 転移先は真っ黒い粘土質の土で覆われていた。湿地帯なのかもしれない。ねっとりと濡れている。そんなことを考えながらマートは4番のときと同じようにナイフをスコップのようにして土に突き立てた。するといきなりその突き立てた所から水が噴き出した。たちまち魔法のドアノブの先を塞いでいた周囲の壁土が崩れ水があふれだす。マートは津波のように噴き出す水に押され、水と一緒に勢いよく部屋の窓から放り出された。

 

飛行(フライ)


 マートは空中で飛行スキルを使ってなんとか体勢を立て直した。落下しつつローレライ城の城壁の内側を蹴り、なんとか中庭に着地した。あわてて自分が押し出された窓を見上げる。窓から噴き出していた水は徐々に収まりやがて止まった。

 

 ローレライ城は大騒ぎになった。城主のマートの部屋の窓から水が噴き出したのだから当たり前だろう。マートは慌てて大丈夫だからと声を上げながら、中庭から階段を上り、自分の部屋の前まで来た。そこには既にジュディとシェリー、アニス、アレクシアの4人が武器を構えて扉の前に立っていた。扉の下からは水がまだ零れ続けていた。

 

「わりぃ、大丈夫だ。大丈夫だから」


 マートはあわてて、4人の前に飛び出した。

 

(キャット)!」「マート殿っ」「(キャット)」「マート様」


 皆驚いてマートの顔を見る。ジュディがマートの顔に指を突き付けた。

 

「一体何が起こったの? 水が噴き出してきたって聞いたけど」


「いや、ちょっと魔法を試してて……」


 マートは誤魔化そうとしたが、アニスは呆れている。

 

「どんな魔法を試したら、部屋に水があふれるのか……」


「大丈夫でしたか?」


 掃除道具をもったメイドたちをつれ、エバとアンジェが遅れてやってきた。

 

「ああ、すまねぇ。すぐに片付けるからちょっと待ってくれよ」


 マートはメイドたちに謝りながら、ウェイヴィを呼び出した。すぐに長く豊かな銀の髪を腰まで垂らした彼女が姿を現した。

 

「ねこ、どうしたの?」


「まちがえて部屋を水浸しにしちまった。水を回収してくれるか?」


「いいわよ、あーあ、溢れてきてる」


 ウェイヴィは手を軽く振った。扉の下からちょろちょろと零れてきている水が渦を巻き宙に浮かんだ。そのままウェイヴィの掌に吸い込まれていく。マートが部屋の扉をあけると、一瞬水が流れだしてきたが、マートに降りかかる手前でウェイヴィの掌の中に吸い込まれたのだった。部屋の中から水はなくなったもののさまざまなものが散乱してぐちゃぐちゃだ。

 

「あーあ、ひでぇことになっちまった」


 魔法のドアノブが開けた空間は壁となっており、転移門は自動的に閉じたようだった。マートが扉を閉じたのを見て、ジュディがマートに近づいた。

 

「ドアノブの先がもしかして水の中だったの?」


「ああ、ここだけの話、その通りだ」


 マートは頭を掻いた。

 

「わかった、ちゃんと説明する。でも、片付けを先にさせてくれ。エバ、他の部屋は?」


「マート様の部屋を除いては水の被害はあまりありません。絨毯が濡れた部屋がいくつかある程度です。窓から水に押し出されたものはほぼ回収を終えております」


「そうか、面倒をかけてすまねぇな」


 マートは半日かけて6人とメイドたちに手伝ってもらいながら部屋の中や自分の服を綺麗にしぐちゃぐちゃになった部屋の中をかたづけたのだった。

 

----- 

 

 その夜、マートはジュディ、シェリー、アニス、アレクシア、エバ、アンジェの6人を部屋に呼んだ。

 

「で、(キャット)、この6人を集めたって事は、昼間の事の説明をしてくれるって事?」

 

 マートは少し言いにくそうに軽く髪を掻き上げ、しばらくして頷いた。

 

「ああ、そうなんだ。昼間の水はこの魔法のドアノブを試してたせいだ。今まであまり説明をしてこなかったんだが、きちんと話をしておこうと思ってな。もちろん、これから話すことはこのメンバー以外には内緒にしておいてほしい」

 

 マートは6人の顔を見回した。みな何を今更という感じで頷いた。


「で、どうして、急に魔法のドアノブを試し始めたの? 新しいところに繋がったのね。私達が知っているのは海辺の家と研究所だけだけど、他にもつなぐ方法がみつかったの?」


 ジュディはそちらの方に興味が惹かれたようだった。マートはその顔を見、前の魔族陣に突入したときのことを思い出して深呼吸をした。そう、皆マートの事を信頼している。

 

「そうだな……。まずこの魔法のドアノブについて、そして、今回試そうと思った理由についても説明しよう」


 マートは今まで黙っていた魔法のドアノブの性能について話はじめた。そして昨日届いたギルバート家の家宝である転移門を作れる魔道具を見て転移先を再登録する方法がわかった事、そのために転移先として登録されている場所を調べようと考えた事などを説明した。そして問われるままに転移先であるエルフの集落に近い中央転移公共地点、ドワーフの集落とミスリル廃坑、古都グランヴェル地下都市、ヨンソン山の温泉、そして昨日みつけた航空リゾートのある島について包み隠さず話をしたのだった。

 

「10カ所の行き先を選んで転移門を開くことのできる魔道具……だったのね。そしてそんなに行き先があったなんて……」


「ああ、その通りだ。ほとんどの転移先が土砂に覆われて使えなかったんだがな。一つずつ解放して、さっきの水が噴き出した転移先で8カ所目だ。とは言え、お嬢なら順番に訪れて転移先の登録アイテムをつくっておけば、同じ事だろう?」


「そうかもしれないけれど、この8カ所にはいろんな魔道具があったのでしょう? なんて素敵な」


「まぁ、そういう事だ。もし誰かに話したいという事があったら事前に相談を頼む」


 6人は頷いた。

 

「転移先に水中を指定して転移門を開くなんて考えた事もなかったわ。一体どうなるのかしら」


 ジュディが首を傾げた。マートも首を振る。

 

「わからねぇが、魔法のドアノブは転移門が消えてたな。何かしらの安全装置のようなものがあるのか、それとも魔力が尽きたのかだ。魔法で使った場合は試さねぇとわかんねぇ。明日もっかいさっきの扉を開けて見ようと思う。今度は水の中でな」


「仕方ないわね。私も手伝うわ。使えない場所だったら、その番号を利用してローレライ城のどこかに戻れるように登録するのでしょ?そうすれば寄り道せずに帰ってこれるようになるわよね」


 ジュディがそういってうんうんと頷いた。


「あ……」


 マートは移動に時間がかかるという言い訳が使いにくくなったことに気が付いた。

 

「さっき聞いた『長距離通話具』があれば、遠くにお出かけされてもお話できますね。これで、マート様がいつの間にかいなくなってもすぐに……」


 嬉しそうにアレクシアが付け足す。


「……」


 便利になるような気がしていたが、逆に不便になるような気がしたマートであった。



読んで頂いてありがとうございます。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


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[良い点] 便利になるような気がしていたが、逆に不便になるような気がしたマートであった。 どんどん自由が無くなるなw [気になる点] マートは移動に時間がかかるという言い訳が使いにくなったことに気が…
[一言] >便利になるような気がしていたが、逆に不便になるような気がしたマートであった。 携帯やPHSが普及した時に、世の中のサラリーマンや束縛の強い相手と付き合ってる人(または結婚している)が思…
[一言] 現代社会かな?
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