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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第43話 魔法のドアノブ

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323 3番の先

 

「これはちょっと頑張るかな」


 ローレライ城の居室でマートはそう呟いて一枚のぼろぼろに古びた羊皮紙を華麗に装飾された重い小箱のなかに慎重に戻した。

 

 その羊皮紙というのは、ギルバ男爵から預かったものだった。その小箱の中にはギルバ男爵、正式にはすでに滅びたハントック王国のギルバート伯爵家に伝わる魔道具である転移門を開くことのできるパネルも収まっている。以前山の中の洞窟でマートが見つけたものだ。あのパネルは取り外しが出来るようになっていたらしい。マートの読めない文字で書かれたその羊皮紙はパネルの取扱説明書だった。

 

 1月ほど前、マートはワイズ聖王国の宰相であるワーナー侯爵経由で来たダービー王国の依頼を受けた。その依頼というのは、水都ファクラの脇を流れるナフラテ河の東にあるクロイサ河の河口にある街、ナッガにローレライ海軍の一部を派遣、常駐させてほしいというものだった。今現在、ナッガの街は対蛮族との戦いの最前線であるが、船の数が足りず河でのリザードマンとの戦いに苦労しているということだった。

 その常駐費用の負担などの条件面では妥当なものであり、蛮族との戦いということもあってマートとしては否やはなかったし、パウルやライオネルたち内政官、シェリーやアマンダ、アニス、ワイアットたち武官、ジュディ、アレクシア、エリオット、ネストルといった補佐官、魔法使いたちとも諮ったところ、これは必要という判断で、ローレライ海軍の派遣は決まったのだった。

 

 そして、その条件の中に、この魔道具の貸与というのがあった。それが使者の手で今日マートの手許に届いたのだった。ダービー王国側としては常駐している海軍が場合によって逃げ込めるようにという意図のようだった。この転移門パネルの転移先、以前ギルバート伯爵領の領民が生活し、蛮族との抵抗活動の拠点となっていた街は住人はウィードの街に移り住んでおり、今は無人だった。

 そして、その転移門パネルと一緒に入っていた説明書であるが、それはマートは読むことが出来ない文字ではあったが、その代りに魔剣が読むことが出来た。そこにはパネルの持ち運び方や設置の仕方などの説明の他に、転移先の再設定の仕方についても記述があったのだ。そしてそのやり方はマートがもつ魔法のドアノブにも応用できるやり方であった。

 

 転移先としてほとんど使っていないものもあるが、行き先を調べていないところもある。マートは魔法のドアノブの転移先を思い出した。ダイヤルの1はドワーフの居るミスリル廃坑、2は古都グランヴェルのすぐ地下にある都市遺跡、5はワイズ聖王国の王都に近いヨンソン山の中腹にある施設、7は研究所で8が海辺の家となっていて、石や土で埋もれているところが5箇所だ。どこか使わないところをローレライ城に割り当てればマートとしては非常に便利になるだろう。

 

 マートはアレクシアにこの箱を渡し、すでに向こうに居るワイアットに届けるよう手配すると共に、しばらくの間一人になりたいので誰も居室に来ないように指示したのだった。そしておもむろに壁にドアノブを突き刺し、ダイヤルを“3”に合わせてドアを開けた。

 

 扉の先はところどころ岩の端が見えるが隙間には細かい砂が入り込み詰まっている壁だった。研究所の時のような隙間は見当たらず、おそらく転移先は完全に埋もれているのだろう。岩のかけらには人の手によって加工されたような跡もあり、おそらく積み上げられた石壁が風化して崩れ、かけらが砂となって間に詰まり、壁のようになっているに違いなかった。いままでと同じようにマジックバッグを片手に壁を撫でるようにしながら土砂を集めて穴をあけ徐々にそれを広げていく。あまり大きな岩を収納すると崩れてくるので注意が必要だ。途中から斜め上に向けて穴を広げていく。3m程そうやって進んだだろうか。急に天井に穴が開き、光が差し込んだ。

 冷たい空気が一気に流れ込んでくる。周囲の土がぼろぼろと崩れ、天井の穴はおよそ1mほどに広がった。マートは慌てて穴から外を見回す。そこには崩れた壁が見えた。生き物などの気配は感じられず、風の音がびゅうびゅうと聞こえた。慎重に頭をだし、警戒しながら周囲の様子を確認する。マートが顔出したのその場所は四角く区切られた区画らしい、天井はないが、部屋のような感じがした。

 

 マートは穴から飛び上がり、宙に浮かんだ。周囲を見回す。そこ一帯には四角く切り出された石が積まれてつくられたのであろう建物の廃墟が広がっていて、地平線が妙に近い。不思議に思ったマートはさらに飛ぶ高度を上げた。すると、この廃墟の広がる土地は岩場だらけで周囲10キロほどの()円形でほぼ平に均されており、その周囲はほぼ垂直の断崖絶壁となっていることがわかったのだ。その外側には青い海が広がって他の島陰などもない。断崖絶壁の高さはおそらく20mはあるだろう。船をつけるような場所もなさそうな絶海の孤島である。

 

 マートは空を見上げた。まだ昼間だが小さな月といくつか星が見える。今の季節からすると配置が変わっている。つまりマートが暮らしているところからはかなり離れているということだ。場所ははっきりしないが、すくなくとも海の家がある島よりもさらに南だと思われた。

 マートは地面まで降りると改めて廃墟を見回した。暑い風が激しく吹いていた。見渡す限り岩と砂で植物のようなものはまったく生えていない。周囲は複数階建ての建物であったであろう瓦礫の山だらけであったが、唯一東側に巨大な倉庫と灯台を思わせるような建物だけが残っていた。

 マートは警戒しながらその建物に近づいた。誰かが居るような気配はない。倉庫には左右50mはありそうな超巨大な扉が付いている。高さも10mはあるだろう。その横にはそれとは別に通常サイズの扉も一つあった。鍵はかかっていたが、解錠することは容易で、マートはやすやすとその中に入ったのだった。

 

 その建物はかなり広い倉庫のようになっていた。そして、中にはずんぐりした銀色の船の上部に羽根がついたような大きな魔道機械が6つ並んでいた。マートはその魔道機械の1つに近づいた。銀色の胴体の船に似た部分の全長30m、幅は5m程であった。胴体には左右と下に丸い透明の窓のようなものがあって、船の中を覗くことが出来る。羽根は左右にそれぞれ20mほどずつ伸びており、船尾には小さな羽根が上下左右に伸びている。船体の中央にはマートが見上げる高さに扉がついていた。

 

“これは何だと思う?”

 

“実際に見るのは初めてじゃが、知っておるぞ。魔空挺じゃ”


“魔空挺? 魔力で空を飛ぶ船ということか”


“その通り。これも昔作られた魔道機械じゃ。魔石をたくさん使うというので、儂が作られた時代はあまり使われておらなんだはずじゃが、それが6隻も……”


 マートは驚きながらもおそるおそる飛行船に手を触れた。硬く金属のような感触だ。

 

“動かし方はわかるか?”


“うむ、もちろんじゃ”


 マートは飛行して扉に近づくと中に入った。魔空挺の中はかなり広く、板張りの床で4m×20m程の部屋になっている。直径1mほどの丸い透明の板のついた窓が右に3つ、扉のある左には2つ、天井と床に2つ並んでいた。前方には階段がありその先に2つの椅子がある。そこは透明の半球状の板の先に覆われていた。

 

“あの椅子が運転席じゃな”


 マートはすこし鼻歌混じりで階段を上り運転席といわれた椅子に座った。クッションが効いていて座り心地の良い椅子だ。前には足の間に下から一本の棒が胸の高さぐらいにまで伸びていた。前面に複数のレバーと鳥の形をした丸い球とメモリのついた定規のようなものが複数ある。椅子の前には半球が弓なりになった棒で繋がれた形の魔道具が置かれていた。大きさからして、耳を保護する魔道具だろうか?

 

“その魔道具は調べてみないとわからぬな。棒は操縦(かん)と呼ばれるものじゃ。レバーが浮遊の制御、丸い球は魔空挺の姿勢、その横は高度や速度、位置などを示す。足元のペダルが加速と減速、とりあえず操縦(かん)を握ってみよ”

 

 マートは手の汗を何度もズボンで拭ってから操縦(かん)と思われるものを握ってみた。だが何もおこらない。

 

“やはり魔力は残っておらぬようじゃの。すこし儂も焦っていたかもしれぬ。魔空挺はかなり複雑な魔道機械じゃ、6台すべてが動くかどうかもわからぬし、飛べたとしても急にバランスを崩して落下するかもしれぬ。慎重に試してみるべきじゃな。それに魔空挺は垂直に上昇することもできるが、ここには天井があって外には出れぬ。まずはこの建物の出入口を開けねばな。また、ここの外は瓦礫だらけなので、せめて離発着できるほどの平らな場所を確保したほうがよいじゃろう。ここに繋がっている灯台なのか塔なのかよくわからぬものも気になる。まずそれらを準備してから魔石で魔力を補充してはどうじゃ?”


 マートは魔剣の念話に大きく頷いたのだった。



読んで頂いてありがとうございます。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 某ファイナルなファンタジーにも登場するロマンあふれる乗り物の登場ですね。 私は3作品目のリメイクを遊ぶ機会があったのですが、オープニングのアニメーションを見た時にとても感動したのを思い出し…
[一言] 魔空挺。空飛ぶ船か。表だって使うなら一隻位は献上する必要が有るでしょうね。 こういうの有ると、まだ行ってない残りの4箇所も楽しみw
[良い点] 魔空挺はオーバーテクノロジーすぎるので、他の人には教えない方が良さそうですね。 いろんな意味で世界が一変してしまうので。
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