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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第42話 魔龍王国

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322 混じる思惑

 

 マートは一度魔龍王国の拠点に戻りアマンダたちに状況を伝えた。アマンダからは、そういうことなら、もうこれ以上は大丈夫だと言われたものの、マートとしてはすっきりしないところもあり、ワイズ聖王国の王都に向かうことにした。本当はラシュピー帝国につまらぬ戦いを回避するよう直接交渉したいところではあったが、国相手にどうすれば良いのか良い案が思いつかなかったので、再びワーナー侯爵とライラ姫を頼ることにしたのだ。

 

 マートがワイズ聖王国の王城で2人に面会を求めると、2人はすぐに時間を取ってくれることになり、マートは今までに得られた情報を説明したのだった。2人はこれらの情報の量と早さに驚いた。

  

「我々も諜報活動には力を割いているのですがこれは遠く及びませんね。マート様の事ですからこれは事実なのでしょう。しかし、その様な事で戦端を開こうとするとは……」


 ライラ姫は思わず眉をひそめた。ワーナー侯爵も呆れた様子で首を振っている。

 

「ああ、俺も理解でき(わかん)ねぇ。でも、こんな話だからよ、ライラ姫が言ってくれてた問い合わせの使者は早めに出してもらいてぇんだ。できればヘイクス城塞都市の北に騎士団を派遣していると非難するような感じで頼めねぇか?」


 ライラ姫とワーナー侯爵は視線を通わせ頷いた。


「良いでしょう。今このタイミングで戦争をしようとすることは私も大反対です。明日朝一番にブライトン子爵にはラシュピー帝国まで飛んでもらいます。ですが、それ以上は……なかなか難しいかもしれませんよ」


「ああ、わかってるさ。でもラシュピー帝国と魔龍王国が戦争にならないようにしてぇ」


「ラシュピー皇帝妃は私の姉です。理解してくれると思いますわ。ブライトン子爵と共にラシュピー帝国に行かれますか? とは言っても、侯爵のような身分の者がいきなり行くと、騒ぎになってしまいますので、ブライトン子爵が正使、マート様は非公式の訪問という形でしょうか。向こうのほうがヘイクスに近い分、情報は多いでしょう」


「ああ、そうだな、ラシュピー帝国の帝都にはタイミングがなくて行ったことがないし、数日なら滞在しても良い。もちろんブライトン子爵が正使で頼む。運んでもらえるのか?」


「はい、魔法使いは手配します。出発は明日の朝ですから、今晩は一緒にお食事でも……」


 ライラ姫はにっこりと微笑んだ。その横でワーナー侯爵は小さく苦笑を浮かべたのだった。


-----


 帝都に移動したマートは、ブライトン子爵に教えてもらい、色々なところに顔を出し魔龍王国とラシュピー帝国の間での戦争は如何に愚かな事か、魔龍王国が蛮族に連れ去られた人々の解放にどれほど尽力しているかをアピールしたりして過ごした。

 そうしている間にアレクシアから保護された人々に関する調査結果が届いた。それによると、魔龍王国に保護された人間は4ヶ月で20万にも上るという話だった。このうち、ラシュピー帝国だと判明したのは8万、ダービー王国が5万、出身がわからないのが7万程という数字なのだという。出身がわからないというのは、自分の村の名前しか知らずそれも中村とか東村とかいったどこにもある名前だったりして、結局自分の国がわからない者がかなり居るということらしい。ただし、これらの中には税が酷く戻りたくないので言わないという数字も含まれている可能性があるとの事だった。

 そして不思議な事にワーモンド侯爵領の出身でそこに戻るといった人間は千人にも満たない数らしい。マートはアレクシアの不思議な事にという表現に思わず苦笑を浮かべた。その千人に満たないワーモンド侯爵領の出身者は他のラシュピー帝国に戻る人間と共に帝都に送られ、そこからはそれぞれの国や貴族に任されているらしい。ワーモンド侯爵領全体で千人にも満たない人間であれば知られていなくても不思議ではないだろう。

 

 慣れない外交の仕事をして1週間が経過したある日の午後、帝都のワイズ聖王国に割り当てられている屋敷の一室にいたマートの所にブライトン子爵が足早に訪れた。

 

「マート殿、魔龍王国とワーモンド(・・・・・)侯爵家(・・・)がぶつかったらしいよ」


 マートはやはりそうなっちまったか……と少し諦めた感じで思わず呟いた。今まで交渉していた感じではワーモンド侯爵家の出兵に関して叱責、非難はするものの、断固とした命令は下らなかったのだ。ラシュピー皇帝と侯爵たちの関係はそれほど強い上下関係ではないようだった。ある意味、マートとワイズ聖王家との関係にも似ていた。

 

「それで、ラシュピー帝国はどうするって?」


「いや、それがな、ぶつかったといっても、ワーモンド側の完敗で皇帝も呆れているようだ」


 ブライトン子爵から聞いた話によると、ワーモンド侯爵騎士団は、魔龍王国の部隊に攻撃をしかけたものの謎の叫び声を浴びせられて動けなくなり一方的に撃破されたらしい。全く戦いにもならずに指揮をしていた貴族たちは捕虜になり、騎士たちはすべての武装や衣服まで取り上げられてヘイクスまで逃げ帰ったということだった。魔龍王国側はヘイクス城塞都市に常駐していた帝国騎士団の騎士団長宛に攻められれば戦わざるを得なくなるがラシュピー帝国との戦いは望んでいないといった旨の使者を送ってきたらしい。

 

 マートはそう聞いて、それでは死者はあまりでなかったのだろうと一旦胸をなでおろした。

 

「じゃぁ、どうなるんだ?」


「我々がいち早く動いていた事もありラシュピー帝国としては戦争をする気にはなっていないようだ。どちらかというとワーモンド侯爵が魔龍王国との最前線に居る器にあらずといった空気が流れている。おそらく今回の失敗で領地は削られ、ヘイクス城塞都市はラシュピー帝国の直轄領になるだろう。ワーモンド侯爵を降格して魔龍王国に詫びた上で賠償金を出すといった所が落としどころかな。マート殿、ここで我々が間に入ってどちらにも恩を売るというのはどうだろう?」


 ブライトン子爵の提案にマートはどういうことかと首を傾げた。


「いままで両国は講和はしたもののあくまで我が国を通じたものでしかなく、両国間に正式な国交はない。ここで間に立って友好関係を結ぶように働きかけてみることも可能だと思う。魔龍王国側はどうだろうか?」


「おお、良いかもしれねぇな。アマンダに聞いてみる」


 ブライトン子爵は意外そうに首を傾げた。

 

「マート殿がそう望むのならそれでよいのではないのか?」


 マートはああ、それは違うと思わず呟いた。


「魔龍王国は魔龍王国だ。俺は意見は言うことはできるが、俺の国じゃねぇよ。あそこはまだゴブリンを使って農作業などもしてるし、そういった所は俺の考え方とは全く違うんだよ」


 ブライトン子爵はマートの言葉になるほどそうかと呟いたのだった。


----

 

 その後、ブライトン子爵の交渉は上手く進み、ラシュピー帝国と魔龍王国とは友好条約が結ばれ、正式な国交が開始することになった。ブライトン子爵とマート侯爵もその条約締結の場に招かれ立会人として2国の親睦を確認したのだった。

 そこで一つ意外な事があった。魔龍王として訪れたのはアマンダではなくアスティンでアマンダはその横に立っているだけだったのだ。アスティンとは火の巨人ファイヤージャイアントとの戦いの時に魔龍王国の兵士たちを率いていたオーガナイトだ。今では身体は一回り大きくなりオーガキングと進化していた。

 

「アマンダ、魔龍王はおめえじゃなかったのか?」


 調印が終わり、立食形式のパーティとなった場で、マートは彼女に近づいて尋ねた。


「ありがとよ、マート。友好条約まで結べるとは思わなかった。アスティンもキングになったし、これでようやく(あたい)の仕事は終わりにできると思ってね。魔龍王にはアスティンになってもらうことにしたのさ。そっちに戻ってもいいだろ?」


 マートは相好を崩し頷いた。


「そりゃもちろん助かる」


「ワイアットに聞いたよ。ダービー王国の北側に捕まってる連中を助けようって話があるらしいじゃないか。そっちに(あたい)も一口噛ませなよ」

 


読んで頂いてありがとうございます。


ここでこの話はおしまいです。次はまた別の話としたいと思います。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アマンダ帰ってきて良かった!戦力的にもそうですが、アマンダトップのままだと今回みたいにマートが魔龍王国支配してると勘違いされるかもですからね。 [気になる点] アマンダとアスティン、共に最…
[良い点] アマンダが帰って来たのは良いのですが、戦後処理の大変さが良くわかる話でした。 文章ではサクサク進みましたが、ブライトン子爵達もさぞかし苦労したことでしょうね。
[良い点] アマンダお帰りなさい!
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