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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第42話 魔龍王国

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319 王城にて

 

 ワイズ聖王国 王城

 

 マートはアレクシアを伴いライラ姫と王国宰相ワーナー侯爵に水都ファクラでの蛮族とダービー王国、ハドリー王国の戦いの報告を行った。水都ファクラの現状にはライラ姫やワーナー侯爵も眉を顰め、復興にどれぐらいかかるのかとため息をついていたが、その後の嵐の巨人(ストームジャイアント)がハドリー王国騎士団を襲った話になると、お互い顔を見合わせ、マートが先にハドリー王国騎士団に救援に入り、最後にローレライ侯爵騎士団が敵本陣を突いて敵が逃げ出したのを聞いて、最後は安堵のため息をついたのだった。

 

「マート様のお話を聞いていると、御三方は本当に当世の英雄だと惚れ惚れとしてしまいます。10万の蛮族を弓1張りで混乱させ、3千の騎士たちを魔法で運び、その先頭に立って蛮族の将軍を撃ち滅ぼす……まるで物語のようです」


 ライラ姫は紅潮した頬で呟いた。しばらくの間、放心したかのような表情で宙を見つめた。その横でワーナー侯爵がコホンと咳払いをした。

 

「結局、ローレライ侯爵騎士団を投入されたのですね」


 彼の声は硬い。蛮族との戦いとは言え、他国領で軍隊を戦わせたという事を気にしているようだった。


「あのまま放置すれば、ハドリー王国3個騎士団が蛮族の軍勢に飲み込まれちまうところだった。グラント王子も死んでただろう。それを救うにはあの方法しかなかったと思う」


 マートはそう言ってじっとワーナー侯爵を見た。ライラ姫は同じだ。だが彼は何も動じる様子はなく頷いた。

 

「ローレライ侯爵、状況がそれを許さなかったのは理解しているつもりです。そして決断は正しいと思います。我々はかつてのハドリー王国がダービー王国を見捨てたような事はしないし、するべきではありません。ですが、王国として、国からの了承なしに配下の貴族が軍勢を他国の領土に踏み入るのを簡単に許すわけには行かないという事情は理解してほしいのです」


 マートはワーナー侯爵の話を聞いて、戸惑いの表情を浮かべた。もちろんその建前は理解できるが、どうしたらよかったというのだ。グラント王子、セドリック王子2人にはこれ以上ない程の感謝を伝えられているのに。

 

「宰相閣下、我々の判断が甘かったという事ではないでしょうか? ローレライ侯爵及び聖剣の騎士、聖剣の魔法使いがダービー王国の依頼を受けて良いと決めた時点で軍勢まで出動することがあり得ると考えておかねばならなかったということでは?」


 ライラ姫の言葉にワーナー侯爵は腕を組み考え込んだ。うーむと唸って考え込みしばらくしてからようやく口を開いた。

 

「ライラ姫、我々は間違っていたのかもしれません。ローレライ侯爵は聖剣の救護者です。通常の領主としての立場より、邪悪なる龍を倒すことを優先すべきなのです。先程の私の言葉は撤回させてください。申し訳ありませんでした。正直な話、聖王国の行うべき行動について、前例があるわけでもなく、私も手探りなのです。国同士の慣例などもあり、それに従うべきだという貴族たちも多く居るので先程の発言となったのですが……。私から陛下にローレライ侯爵が邪悪なる龍を倒すための行動に対して容認・擁護すべきであると進言させていただき、彼等にも納得してもらえるように働きかけるようにします」


 マートはそう聞いて宰相も苦労しているんだなと感じた。マートの考えることとはまだ少しずれている気もしたが、全く同じにはきっとならないだろう。とりあえず頷く。

 

「じゃぁ、それは終いでいいよな。こっちから一つ、確認したいことがあるんだが、ちょっと聞いていいか? 魔龍王国の事だ」


「魔龍王国? 講和を結び、今はマート殿が抑えていただいているのでしょう?占領した土地も返還されましたし、かなりの人数の農夫たちが救い出されています。ラシュピー帝国の皇帝やダービー王国のセドリック王子からは感謝され、以前の魔龍王国と今の魔龍王国では全く異なるものと認識されているようです」


「ああ、俺もそう思ってた。だがヘイクス城塞都市の領主であるワーモンド侯爵家と魔龍王国の関係がかなりややこしいことになっているんだ」


 アマンダが最後に言っていたことが気になったマートはここに来る前に魔龍王国の拠点に立ち寄り彼女から話を聞いた。するとたしかに彼女が言うようにややこしいことになっていたのだ。

 

 停戦が成立して、魔龍王国はヘイクス城塞都市の北側一帯、かつて魔龍王国が農地として開拓していたあたりの蛮族と戦って人間を取り返し続けていた。アマンダは簡単そうに言ったが、決して豊かとは言えない土地にずっと野営をして、毎日のように蛮族と戦い続けたのだ。苦行であったにちがいない。

 だが、そこにワーモンド侯爵家の騎士団が進出してきたというのだ。魔龍王国側は戦争をする気がないので穏便に済まそうとしたがワーモンド侯爵家の騎士団はかなり挑発的な動きをしているらしい。ライラ姫もそれを聞いて困惑の表情を浮かべた。

 

「それは、困りましたね。人間側から戦争をしかけようとするとは……いったい何故なのでしょう」


 マートも首を振り肩をすくめる。


「ヘイクス城壁都市から北は一応魔龍王国の領地って事だよな?」


「そう考えて良いと思います。講和を結んだ時もヘイクス城塞都市より北にとなっておりました。そこに侵入して攻撃するということになれば講和条約を破るということになります」


「まだ、俺も話を聞いただけなので実際のところははっきりしない。とりあえず魔龍王国の主張としては、戦争を望んでいないが、これ以上挑発行動がエスカレートするようであれば、戦闘になる可能性がある。できればそのような事態は避けたいのだが、ラシュピー帝国そのものに使者を出そうにもワーモンド侯爵領を通らずには送れないので困っている ということだそうだ」


「わかりました。私の方からラシュピー帝国に問い合わせをしておきましょう」


「ああ、頼む。俺の方でももう少し調べるつもりだ」


----

 

 マートが王城を辞し次に訪れたのは再び魔龍王国の拠点だった。できればヘイクス城塞都市に行きたかったところであったが、転移をお願いしたエリオットはそこに行ったことがなかったのでそうせざるを得なかったのだ。相変わらずアマンダはあまり物のない寒いテントで、彼女の武器である巨大な矛の手入れをしていた。

 

「無事帰ってきたところを見るとライラ姫はマートの話を聞いてくれたんだね。やっぱり恋する女は盲目ってところかねぇ」


 マートはいやいや相手は姫だぞと手を振り、話をした内容を伝えた。

 

「んー、そういうのは失礼だったかね。話を聞いてるとそれもありそうなんだけどねぇ。まぁいいさ。宰相が受け入れてくれたのはさすが聖剣を庇護する聖王国ってだけあるよ。でもまぁ特別扱いさ。他の貴族から嫉まれない様に気を付けなよ」


「ああ、確かにな。何か考えておくことにするか」


「それがいいかもね。ラシュピー帝国には申し入れをしてくれるのかい?」


 彼女が言うのはワーモンド侯爵の騎士団の話だろう。マートはああと頷いた。

 

「まぁ、そろそろもうちょっと北に移動しようと思ってたから別にいいんじゃないかと(あたい)は言ったんだけど、アスティンが憤慨しててね」


 アスティンとは魔龍王国にずっと残っていたオーガの前世記憶を持つ男の事だ。

 

「ここに居る連中の中には、いまだに人間に対して恨みをもってるのも多い。あんたやエリオットやジュディといった力のある連中には心を開きつつあるけど、それもまだまだだ。できれば力じゃなく話し合いで解決できることも経験させてやりたいと思って相談したのさ」


「ああ、わかってる。もうちょっと調べてみないとなんとも言えねぇ。もう少し待ってくれ」


「いいとも、なんとか抑えておくよ」


「そうだ、アマンダ、忘れてた。これを読めるか?」


 マートはダービー王国の副騎士団長であるミルトンの従者から受け取った魔道具を見せた。

 

「これはあんたの持ってる長距離通信用の魔道具と似てるね。なにかいろいろやり取りしてるみたいだよ。何々、今年の食料の輸送量について?」


 アマンダはその魔道具を読み始めた。

 

「ああ、こいつは……嵐の巨人(ストームジャイアント)は最初は山々々の集落を狙ってたけど、ハドリー王国の騎士団が上陸したので、予定を変更してそっちを襲撃するように変更したみたいだね」


「そうなのか。単に策ってわけじゃなかったんだな。山々々の集落ってのはどこだ?」


「わからないけど、かなり人の多い都市だろうね。そこを嵐の巨人(ストームジャイアント)が直属の蛮族を率い、転移門をつかって奇襲する計画だったみたいだよ」


「人の多い都市を転移門を使って襲う……?」


 マートはため息をつく。

 

「お互い転移門を使って奇襲しあうとなれば、どこも安全とは言えなくなるな」

 

「そうだね。ああこれを読むと、霜の巨人(フロストジャイアント)が逃げ出した後、霜の巨人(フロストジャイアント)嵐の巨人(ストームジャイアント)を呼び寄せたみたいだね」


「呼び寄せた?」


「マートが追撃してくる可能性があるから、本拠地にしている赤い平原の集落に来い。一緒に待ち伏せしようって」


 マートは驚いて首を振った。あの時、霜の巨人(フロストジャイアント)の転移先は判っていた。だがそこに行けば、嵐の巨人(ストームジャイアント)とも鉢合わせしていた可能性があるということか。


「いいじゃないか。これを見てれば、向こうの作戦がわかるかもね。これを無くしたのに気付いてなければだけどさ。しばらく(あたい)が持っていようか?」


 蛮族の言葉がわかる者は(スネーク)の他、何人か居るが、戦略的な意図を読み取れるのはアマンダが一番かもしれない。マートは頷いた。

 

「確かにそうだな。だが、そうなるとアマンダに長距離通信用の魔道具を渡しておきたいところだが……」


「数が足りないんだろ?仕方ないさ。見つかったら回しとくれよ。とりあえず今回の話を片付けないとね」


「ああ、そうだな。じゃぁちょっと行ってくる」


「よろしく頼むよ」


 アマンダは矛を置き、すこし微笑んだ。マートは手を振ってテントを出て歩き出したのだった。



読んで頂いてありがとうございます。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 邪悪なる龍を倒すための行動に対して容認・擁護すべき そうですね。蛮族の討伐の為であればOKにしとかないと、突発的な事態への対処が出来ないでしょうし。 [一言] ワーモンド侯爵。虜囚の身に…
[良い点] 物分かりが良くて聖人君子のようなワーナー侯爵が宰相という地位にいて本当に良かった。いくらライラ姫がマートの味方でもワーナー侯爵がいなかったら国内は敵だらけになっていたかもしれない。 他の貴…
[一言] 今のところ、霜の巨人が一番の脅威に思えます。巨人の身体と計略が合わさると、本当に面倒な敵になりますね。
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