314 王座の間での戦い2
「ギャヒギャヒギャヒ!……(ゴブリン共、儂から離れるなとあれほど言ったのにっ!ちょこまかと動くやつは後回しだが警戒は怠るな。常に3体で防御に専念して封じておくのだ。それ以外は儂と一緒に騎士を倒すっ。聖剣使いさえ倒せばあとは雑魚だ。魔法使いなど放置でよい)」
霜の巨人は何かを叫んでいたが、この場で蛮族語を理解できる人間側の勢力は誰も居ない。
「ちっ、鱗をつれてくりゃよかったぜ。まぁいい」
マートは負け惜しみを言いながら王座の間の奥側に向かって移動し距離を開けようとする。巨人たちはそれには追随してこない。簡単に距離がとれた。
“ニーナ、前戦った時、毒針を通したって言ってたな。どうやってやった?”
“口の中だよ。目を狙ったけどダメだった。やるときはヒュドラの劇毒を試してみてよ”
霜の巨人はシェリーと戦っており、マートには背を向けている。
“正面に回らないとダメか。まずは他の巨人を片付けてからだな。それまではその手札は隠しておくか”
十分に距離を取ったマートはマジックバッグから矢を一束取り出して口に咥えた。ワイバーン殺しの魔弓が生成する矢は魔法効果なので魔法無効化の範囲内に入ると消えてしまうだろう。本来なら矢筒を腰に装備したいところだが、そんな悠長な事はやってられない。
<強射>射撃闘技 --- 高ダメージ射撃
マートの矢が一体の山の巨人の身体を貫通した。身長6mもありその分頑強なはずだが、そのまま何の声を上げる間もなく後ろに倒れた。ワイバーン殺しは魔法効果を除いても、肉体強化★2がなければ引けない超強弓だ。さすがに龍麟を貫くことは出来ないだろうが、山の巨人相手なら十分に通用するだろうと考えたのだが、そのとおりだったようだ。
<速射>射撃闘技 --- 2回射撃
口に咥えた矢をマートは続けざまに撃つ。懸命に盾と剣を使って耐えているシェリーを続けて蹴ろうとしていた山の巨人の延髄あたりに2本突き刺さった。
「ギャヒー!」
そいつは間抜けな悲鳴を上げてマートの方を向いた。体格差はあってもかなり痛かったらしい。そのまま突進してきた。
『風刃』
『魔法の矢』
魔法が無効になっている範囲を出たとたん、その山の巨人はマートとジュディの魔法の餌食となって、その場に倒れる。
「ギャヒー!!!ギャヒギャヒギャヒ……」
霜の巨人が大声で雄たけびを上げ、何か指示した。すると、 霜の巨人の周りに居た残る山の巨人6体が全員マートにむかって突進を始めた。マートは王座の間の一番奥の位置だ。周囲を見回したが扉は遠い。
「猫、耐えて!」
ジュディはそう叫びながら前に移動する。ミルトンは彼女を守るべく位置取りを変えた。
何か作戦があるのだろうと考えたマートはその場から移動するのを止めた。弓を仕舞い、左手の紋章に手を触れた。マートの立つところは魔法無効化の範囲外だ。
「ニーナ、ウェイヴィ、ヴレイズ、フラター全員出て来い。6体片付けるぞ」
顔を覆う仮面をつけたニーナ、長く豊かな銀の髪を腰まで垂らした女性 泉の精霊のウェイヴィ、人と同じほどの大きさの羽根の生えた黒いトカゲの形をした 炎の精霊ヴレイズ、ウェイヴィとは対照的な明るい金の髪を同じように腰まで垂らした少女 竜巻の精霊 フラター 4人が一斉に姿を現した。
2本の剣を抜いたマート、試作品の聖剣の形を変えてカギ爪につけたニーナの2人は、突っ込んでくる6体の山の巨人を迎え撃つ。先頭の2体の巨人が巨大なこん棒を振り上げたところで、二人は揃って地面を蹴って跳ねる。
<破剣> 直剣闘技 --- 装甲無効技
<岩破> 格闘闘技 --- 装甲無効技
マートの強欲の剣、そしてニーナのカギ爪がほぼ同時に巨人の首を切り裂いた。その後ろのフラター、ヴレイズ、ウェイヴィも続けざまに魔法を放つ。
『小竜巻』
『炎の矢』
『氷結』
フラターの竜巻が残る4体の巨人を転ばせ、ウェイヴィの氷結で手足は凍り、その上にヴレイズの炎の矢が降り注ぐ。
「シェリー、攻撃してっ!」
ジュディが叫んだ。シェリーは何の疑いもなく、聖剣を振りかぶる。
『魔法無効化』『解除!』
事前に床に行使した光呪文が残るぎりぎりの位置にジュディは立ち、魔法無効化の呪文を唱える。ジュディの魔法技能は★6、魔法無効化の効果は18mだった。 霜の巨人の魔法無効化の効果は15m。 霜の巨人の魔法無効化の効果範囲外で唱えたジュディの魔法無効化の呪文により、 霜の巨人の使っていた魔法無効化呪文の効果は切れる。そしてジュディはその魔法無効化の呪文を解除。
その直後、シェリーの聖剣が 霜の巨人の左太腿のあたりを切りつけた。
「ギャヒーーー!!」
霜の巨人はひときわ大きな悲鳴を上げた。 霜の巨人はバランスを崩してその場に膝をついた。青い血が噴きでて周囲は白い靄に包まれていく。
「ギャヒッギャヒッ」
霜の巨人はぎろりとジュディを見た。
【氷の息】
霜の巨人があたり一帯に真っ白な風を吹き付けてきた。シェリーは咄嗟に盾を構えたがその盾は真っ白に凍り付いた。身体が固まって動けなくなり、膝をつく。
その後ろのジュディとミルトンは耐寒呪文の効果がまだ残っていて大丈夫だった。ミルトンは必死の表情で 霜の巨人のすぐ前にいるシェリーに駆け寄る。
『転移』
霜の巨人は次の瞬間消えていた。
『転移追跡』
ジュディは慌てて転移先を調べるべく呪文を唱える。
「シェリー大丈夫か?」
『耐寒』
ウェイヴィはあわてて耐寒呪文を唱えるが、シェリーのダメージが急に回復するわけではない。マートたちは急いで残る4体の山の巨人を片付けてシェリーの許に駆け寄った。
「う……うむ、なんとかな」
シェリーはミルトンの手助けを受けながら、よろよろと立ち上がった。
「転移先はダービー王国の旧王都のあたりね。どうする?追いかける?転移門でも転移でもどちらでもできるわよ。チャンスではあるけど……でも、向こうで待ち構えているかも?」
転移追跡の結果で転移はできるが、向こうの様子がわかるわけではないようだ。3人が迷っていると、長距離通信用の魔道具からピロリンという音が鳴った。ローレライに居るはずのアニスからだ。内容を確認するとそこにはハドリー王国の侵攻軍が嵐の巨人の軍勢に襲われていると書かれていた。
「別れたときには周囲にはそんな軍勢、影も形もなかったぞ。あれからまだ半日ほどしか経ってねぇのに、どこから湧いてきたってんだよ?」
竜巻の精霊のトルネドラというのは筆者の造語です。
魔法無効化や魔法解除の呪文については、いろいろと考え方があるので、この世界の設定を補足しておきます。
魔法無効化呪文は中心(術者や魔道具)がある範囲呪文です。魔法無効化の効果範囲がぶつかった場合、魔法無効化の中心(術者或は魔道具))が別の魔法無効化の範囲に入ってしまうと魔法無効化の呪文自体が無効化されてしまいます。それまでは2つの球状の効果範囲内は共に存在するという設定です。また、魔法無効化の効果範囲は魔法の熟練度によって変化し、★1で3m ★6で18mとなります。もし同じ熟練度同士がぶつかった場合にはお互いを無効化してしまうと考えています。
尚、魔法無効化呪文を魔法解除することはできません。
今回のジュディが行ったように自分が行使した魔法で効果時間をもつもの(攻撃呪文や回復呪文などはこれにあたりません)は、任意は解除することが可能です。
読んで頂いてありがとうございます。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
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