313 王座の間での戦い1
「へっ、手の内を明かしてくれるなんてありがとよ」
マートはそう呟きつつ弓を背中に背負うと2本の剣を抜いた。
“魔剣よ、まだ意識があるか?ニーナ、ウェイヴィ、ヴレイズ、フラターはどうだ?”
“まだ儂は意識があるぞ。魔法無効化は部屋全部ではないようだな”
“僕もまだ大丈夫だ” “私も” “私も” “私も”
マートはいままで何度も魔法無効化の魔道具の効果範囲に入ったことがある。魔法無効化の領域では魔剣はまるで気絶しているかのように意識を失う。またニーナは意識を失うわけではないが、外界との接触が断たれ、呼び出すことが出来なくなり、精霊とはまるで契約が途切れたかのように接触できなくなってしまうのだ。こうやって念話のようなものでコミュニケーションできるということは、すくなくとも今立っているこの場所は魔法無効化の範囲外ということだ。
マートはにやりとした。
“突っ込むから、有効範囲を測って教えてくれ。あと耐熱、耐寒呪文のかけ直しはできるだけこまめにたのむ”
「シェリー、お嬢、まずは山の巨人とゴブリンからだ。あとは魔法無効化の有効範囲次第だな」
「わかった。そうだな。まず片付けていこう」
「わかったわ」
二人は剣と盾、そして杖を握り直した。ダービー王国の騎士のうち数人も盾と剣を構えた。その中でリーダー格と思われる黒髪にすこし白髪交じりの男がマートの横に立つ。
「ダービー王国、副騎士団長 ミルトンです。本来我々が戦わねばならぬ相手であるのに不甲斐く申し訳ない。せめて一緒に戦わせてくだされ」
「怪我人の回収を優先、無理ない範囲でな」
マートは簡潔にそう言い置いて走り込んでくるジャイアントの集団に向かって走り出した。
【肉体強化】
<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る
<破剣> 直剣闘技 --- 装甲無効技
一気に距離を詰める。霜の巨人の足元を姿勢を低くして一気に走り抜けると、そのすぐ後ろを走っていた山の巨人の集団の真ん中にいきなり飛び込む。そのままの勢いでトンッと飛ぶと剣を振り回し一番後ろを走っていた山の巨人の首筋を薙ぐと同時に、肩を足場にさらに跳ねる。
「ギャヒッ? ギャヒー!」
霜の巨人をすり抜けていきなり現れたマートにその山の巨人は何も対応できず、跳ねた後のマートを空中で掴もうとしたが、自らの首筋から熱いものが噴き出すのに気が付く。慌てて傷口を押さえたが、急速な失血で山の巨人の身体はがくがくと震え、そのまま何もできなくなって膝をついた。
マートは空中でクルりと回転すると天井を足場にぐいと踏んだ。同時に巨人の集団を見る。連中はマートに驚いて天井を見上げていた。角度を変えて右の柱に跳び、さらにそこを足場にして壁に跳んで背後に回り、別の山の巨人の足元をすり抜けざまに足の腱をなぎ、地面に着地した。
<暗剣> 直剣闘技 --- 相手の死角に回りこんで斬る
足の腱を切られた山の巨人は立っていることができずにもんどりうって倒れ、痛みにのたうち回った。後ろに居た他の6体の山の巨人が、マートに向かってこん棒を構えた。
一方、シェリーのほうは盾をしっかりと持って、走ってくる霜の巨人に正面から突っ込んでいく。巨人は当然力が強い上に肉体強化を使っている。まともに受けては吹き飛ばされるしかない。そこを力をうまく逸らし、凌ぐのは彼女の剣の腕だ。
霜の巨人が振り下ろす拳をその動きに合わせて盾を動かして地面に向けて誘導して勢いを殺す。その直後には左右から山の巨人が攻撃してきた。右側は蹴りで左側は踏みつけてくる。シェリーは右側の山の巨人の脚を、その動きに合わせて身体を回転させながら受け流す。そこで左側でふみつけようとしてきた別の山の巨人の懐にステップを踏んで中にもぐりこむ。踏みつけようとした脚がたたらをふむ。
「こっちだっ、巨人め」
本来であれば、攻撃も行いたいところであるが、霜の巨人の周囲には山の巨人も居て、シェリーは防戦一方だ。それでも彼女は巨人を揶揄うようにしてひきつけ続ける。
剣と盾を構えたミルトンは部下に負傷者を回収の指示をしつつ、自分自身はジュディが攻撃されそうになったときのためにシェリーの少し後ろに位置取りをした。敵は巨体で数も多いので、いつシェリーをかわして突っ込んでくるかわからない。たとえ少しの間でも時間を稼ぐつもりなのだろう。
ジュディは王座の間の入り口近くまで思い切って後退した。彼女なりに距離を測るべく、光の呪文を部屋の床にかける。一直線に9箇所。光が付いたのは6ヶ所だった。すくなくとも光の呪文が残っている場所であれば魔法が使える。彼女から一番近い蛮族は霜の巨人だが、魔法の対象にはできない。魔法の矢のような魔法が彼女の手許から飛ぶような呪文も無理だ。だが、彼女が見える範囲を起点にして効果を及ぼす魔法はそこが魔法無効化の効果範囲でないかぎり効果を発する。
ジュディは杖を掲げ、まだ王座の間の奥、王座のあるあたりで呪文を準備している様子のゴブリンたちを見た。
『魔法の嵐』
「ギャギャギャギャ!」
20体居たホブゴブリンとゴブリンメイジは荒れ狂う青白い魔法の嵐に包まれ、魔法の衝撃波によってとあっという間になぎ倒されていく。
「15mだ。半径15m!」
マートは足元で足首を斬られ転がってのたうち回っている山の巨人に止めを刺しながら叫んだ。天井や壁を足場に部屋を跳びはね精霊や魔剣が測った魔法無効化の有効範囲だ。これがわかれば戦いやすくなる。
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