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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第40話 祝勝会

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307 夕食そして祝勝会

 

 マートはその後もエミリア伯爵やブライトン・マジソン子爵、アレン伯爵、アレクサンダー伯爵といった来訪を次々と受けた。その中でエミリア伯爵がマートと同じように侯爵に上がりワイズ聖王国で新設された総騎士団長という地位につくことや、キャサリン、タマラ、タラッサの3人の姫が今回で罪を許され王城に戻る予定であることを知らされたり、アレクサンダー伯から娘をよろしく頼むとお願いされたりといったことがあり、1日はあっという間に終わったのだった。

 

 その夜はパーティなども特にはなく食事はそれぞれの部屋でということであったので、マートたち一行は自分たちに割り当てられた区画の中で一番大きな部屋でテーブルを並べ集まって食事をすることにしたのだった。最初はマートが侯爵になることに皆で祝いを述べ乾杯をして食事は始まった。

 

「いや、しかし、参ったな。こんな(侯爵)になっちまうとは全く思ってなかったんだが……」


「マート殿の活躍はすごいと思うぞ。アレクサンダー領に侵入したハドリー王国を撃退したのもラシュピー帝国を占領した魔龍王国を撃破したのもすべてマート殿がいなければ無理だっただろう」


 シェリーは真面目な顔をしてそう断言したが、マートはいやいやと首を振る。

 

「領地に関しては何時頃からになるのでしょう」


 ライオネルは元々ブロンソン州の出身だ。気になるのだろう。

 

「それについては、ワーナー侯爵の補佐官が後で来られて詳しい話をしてこられました。発表は式典の時で、侯爵という称号はその場から使っていただけますが、領地につきましてはこれから調整に入るとのことで、現在その地の騎士などで王国騎士団に編入されている方なども多数居られることからその整理などでおそらく秋の収穫を終えてからという事になるだろうという事でした。東ブロンソンの所領となる詳しい区画割などについても話は伺っております」


 アレクシアがそう応えた。その横でマートはへぇーと呟く。

 

「しかし、本格的に手が足りねぇな」


 ウィード男爵領が出来た時には、武官はともかく内政官はかなりの数が確保でき、伯爵領としてもなんとか回っていたのだが、侯爵領となればそちらも人が足りなくなるだろう。


「ブロンソン州には優秀な者が多数いるはずです。声をかけてみます」


 ライオネルは自分の出身地のことだけにかなり積極的だった。マートはかるく頷きながら、のんびりとワインを一口飲んだ。


「これで、戦争は一旦終わりだな」


「そうですな。我々はラシュピー帝国に出陣することはなく残念でした。褒賞として頂いた鎧を着て颯爽と戦うつもりでしたのに」


 アズワルトは焼いた肉の塊をフォークで突き刺し、豪快に口の中に運ぶ。

 

「そうだな、アズ、この状況であればしばらく我々が役に立つことはあるまいが、いつダービー王国から救援要請がこないとも限らぬ。北と南に分かれてはいるが互いに競い合って騎士団を鍛えよう」


 オズワルトは付け合わせのニンジンとポテトを続けてフォークに刺して一気に食べた。彼ら双子は顔や体格もよく似ているが食事の様子もよく似ていた。オズワルトが皆の食べている様子を見ながらタイミングを見計らい口を開いた。

 

「マート様、少しお願いがあるのですが、そのうち、合同での演習や武闘会を実施していただけませんでしょうか?」


 アズワルトも感心したようにテーブルを叩く。


「おお、それは私も思っておりました。如何でしょうか。武闘会の優勝者はシェリー様と戦うことが出来るというのが良いと思います」


 シェリーは自分と戦う事が優勝して得られる権利などと言われて驚いて思わず咳き込みそうになっている。マートはなるほどと頷いた。


「南北合同か、そいつは良いな。ライオネル、アレクシアどう思う?」


「ジュディ様の転移門によるご協力があれば可能ですね。お願いできるのであればよろしいかと存じます」


「どうしても離れていると疎遠になりがちです。毎年全員が交流するのは無理でしょうが、そういう機会があれば騎士団に限らずある程度交流が図れて良いかと思います」


 ライオネルとアレクシアは賛成のようだ。


「じゃぁ、シェリーとオズワルトの2人はライオネルとアレクシアに協力してもらって計画を立ててみてくれ。どれぐらいの人数でいつ頃するかとかさ。ジュディにも軽くは話しておく」


「私がやるのか?」「私がですか?」


 2人は目を白黒させる。

 

「まぁ、そんな顔をするなよ。演習計画とか武闘会とか王国のやつは参加したことあるんだろ?」


「それはそうだが……」「はい、ですが……」


 2人とも眉間にしわを寄せ、んーと考え込む。そこにエバに案内されてジュディがやってきた。

 

(キャット)、侯爵へ昇爵が決まったそうね。おめでとう。そして私を配下にしてくれるのも了承してくれたと聞いたわ。ありがと、みんなもよろしくお願いね」

 

 声が弾んでいる。シェリー、オズワルト、アズワルトは元々アレクサンダー領出身で、彼女はその領主アレクサンダー伯爵の娘だ。お互い少し緊張するかもしれないが、決して関係は悪くない。シェリーもジュディを見て嬉しそうに微笑みを浮かべた。エバが椅子を運んできてくれたので、ジュディはマートのすぐ傍に置いてもらうと、そこにひょいと軽く座った。

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む。でもよかったのか?独立した男爵のほうが功績を上げやすいとかそういうのがあるんだろ?」


 ジュディは首を傾げた。


「んー、そうなのかな?でも、かならず毎年新年会には来ないといけないとかいろいろあるじゃない。(キャット)の配下にいるほうが気楽だわ。シェリーたちも居るしね」


「それに、今も転移門呪文を利用する計画を話してたところなんだ」


「あはは、いいわよ。侯爵様の命令だもの。何なりとお申し付けくださいな。それにエリオットももうすぐ習得すると思うわよ」


 ジュディは軽やかにそう言った。


「そうか。それは良いな。お嬢は食事はもう済ませたのか?」


「うん。一人だったからすぐ食べ終わっちゃった。明日朝からは食事はこっちで一緒に摂らせてもらっていい?」


「もちろんいいぜ」

 

----- 

 

 翌日、翌々日も引き続き多くの来客があり、マートたちは慌ただしく過ごしてあっという間に祝勝会の当日となった。

 

 祝勝会の記念式典はその名の由来ともなっているこの地方の特産品である緑色の大理石で飾られたライマン城の大広間で行われた。

 

 会は、ラシュピー帝国の皇帝の感謝の言葉から始まった。彼はまだ若く、30代前半のようで明るい茶色の髪、濃い緑色の瞳をして、身長は170㎝程で少し痩せていた。 

 彼は最初に苦労した帝国内の数多くの貴族たちに感謝し、途中で命を落とした貴族たちの名誉を称えた。そして国土の奪還に協力してくれたワイズ聖王国の騎士や貴族たち、最後にワイズ聖王国の国王への感謝する言葉を述べた。

 

 それに応える形で、皇帝に続いてワイズ聖王国の国王が国土回復の祝いを述べ、さらに功労者の代表としてエミリア伯爵とマート・ローレライ伯爵の二人の名を上げて、2人が侯爵に昇爵することを明らかにすると共に、他にもワイズ聖王国、ラシュピー帝国を問わず、多くの功労者の功績を讃えた。そして、最後に改めてラシュピー帝国の貴族たちに慰労と祝いの言葉を述べて締めくくった。 

 

 式典はその後も恙なく進んだ。そして式典の最後にハドリー王国の第1王子であるカイン王子とダービー王国のリサ姫の2人が壇上に上った。

 

 最初にカイン王子がその場で大きく礼をした。

 

「このような晴れやかな場にお招きいただきありがとうございます。魔龍王国との戦いの勝利、本当におめでとうございます」


 ハドリー王国は今は講和を結んでいるものの、以前魔龍王国と戦っているタイミングを利用してワイズ聖王国に侵攻したこともある。彼には冷たい視線が突き刺さった。だが、彼はそれをものともせず、言葉を続ける。

 

「我々は、一時期ワイズ聖王国と敵対したこともありました。ですが今はその愚かな考えを捨て、本来の敵である蛮族を駆逐すべく準備を整えております。時間はかかりましたが間もなく侵攻作戦が始まる予定となっております。皆様のご協力を頂き、蛮族の居ない平和な世界を作りたいと考えております。よろしくお願いいたします」


 ぱちぱちとまばらな拍手が起こった。カイン王子は一歩下がりリサ姫が前に出る。

 

「皆さま、おめでとうございます。ようやく平和と考えていらっしゃるところに、このようなお話をするのをお許しください。ですが、少しだけ我が国の現状をお話させてください。我がダービー王国はワイズ聖王国陛下の温情をもって現在ハドリー王国の国土の一部をお借りして国の体裁を保っているにすぎません。わが愛する国土はことごとく蛮族たちの支配下に落ちてしまっているのです」


 憂いを帯びたリサ姫の言葉に、飽きた表情をしていたワイズ聖王国、ラシュピー帝国の貴族たちはおやというような感じで彼女に視線を向けた。

 

「ハドリー王国は我が国に助力を申し出ていただいております。ですが、蛮族たちは皆様もご存知の通りかなり手強い存在です。おそらくワイズ聖王国の伝説に言う邪悪な龍そのものです。邪悪な龍を倒すには聖剣たるワイズ聖王国、そしてラシュピー帝国の皆さまの力が必要なのです。是非、皆さまのお力もお貸しくださいますようお願い申し上げます」


 彼女は両手を胸の前で組み、頭を垂れてお願いをした。以前、彼女が最初にワイズ聖王国に救援を求めに来た時はまだ少女でその時の事を憶えていたワイズ聖王国の貴族たちは多かったが、その変貌ぶりには目を見張っていた。そして2国の多くの貴族たちが凛と美しいリサ姫の言葉に感銘を受けたようだった。

 

 拍手が湧きあがった。騎士たち、特に男性騎士の熱狂ぶりはかなりのもので、マートの横に居たオズワルト、アズワルトの二人も両手を上げ、ぱちぱちと大きな拍手を送っていたのだった。

 


読んで頂いてありがとうございます。


一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。そちらもよろしくお願いします。


祝勝会のお話はここで終わります。

実はあれもこれもと考えていたことはあったのですが、今後の展開への結び付けなどを考えると構成がなかなかまとまらず、何度も書いては消し書いては消しとなってしまい、結局このような形となりました。


申し訳ありませんが、少し構成を整理するのに2週間程のお時間を頂きたいと思います。再開については改めて活動報告やツイッターなどでお知らせさせていただきます。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

見直してはいるのですが、いつまでたっても間違いが無くならない……申し訳ありません。


評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 二週間静養下さい。休息も大事です。 筆休めにはならないかもですが、こぼれ話や 視点を変えたあの時の誰がしとか 周りの動きで本編登場人物の深堀するとか 本編の構想を考える時間を稼ぐのもあり…
[一言] マートも侯爵かあ… これはもう軍拡するしかないね!
[良い点] エミリアは侯爵で総騎士団長とか、余程の相手じゃないと釣り合いとれなくなりましたね。地位狙いの有象無象は湧きそうですねw [気になる点] 計画を立てるの、オズワルト参加するなら、アズワル…
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