304 一騎打ち 後編
奇妙な戦場だった。両軍合わせて15万に達する部隊の大半は戦場の中心で行われている一騎打ちに注目してにらみ合うだけで動かず、唯一動いているのは火の巨人の直属部隊である巨人を含むおよそ1千と蛮族討伐隊のおよそ800だけだった。
火の巨人の直属部隊は丘巨人と森巨人が先頭に立ち、その後ろからヴィヴィッドラミアの率いるラミアの部隊とキロリザードマンが率いるリザードマンの部隊、そしてゴブリンメイジから構成されていた。
蛮族討伐隊の中に紛れていたマートたちも、火の巨人は一旦アマンダに任せ、ワイアットたちと共に真っすぐに進んでくる巨人たちの部隊を待ち構えた。数だけで言えば1千対800とさほど離れていないようであるが、巨人は皆身長5mを超え、圧倒的な破壊力を持っており、ヴィヴィッドラミアやゴブリンメイジは魔法も使う。蛮族討伐隊とすれば、かなりの戦力差を感じていた。
「ギャギャイギャ ギャ……(一騎打ちの邪魔をさせるな)」
だが、蛮族討伐隊の小隊長を務めているオーガナイトの前世記憶を持つ男がまずそう叫び声をあげた。その声をきっかけとして、蛮族討伐隊は近づいてくる巨人の部隊に攻撃を始めた。
小隊長は近づいてくる丘巨人に槍を突きあげた。その槍は見事に腿にささり、ギャヒーと大きな叫び声を上げさせる。だが、巨人もやられっぱなしという訳では当然ない。
「ギャヒヒッ ギャ……(おのれ、虫けらめ、これでも受けてみよ)」
巨人は手に持った棍棒を振り回す。棍棒と言っても長さ8m、太さ50㎝ほどの丸太サイズだ。そのひと薙ぎで10人ほどの蛮族討伐隊の面々が吹き飛んだ。
「1対1で巨人とは戦うな。固まらず、違う方向から3人以上で組んでかかるんだ。弓兵隊はゴブリンを先に潰せ」
ワイアットが飛行の魔道具に乗り、空中から全員に指示を出す。彼の集団戦闘スキルのおかげで蛮族討伐隊は状況に戸惑うことなく上手に立ち回って戦うことができる。だが、相手の巨人族は力が強く身体も強靭であり、情勢としては丘巨人たちが優勢だ。
<円剣> 直剣闘技 --- 全周囲攻撃
『魔法の嵐』
その状態に見かねてシェリーとジュディは正体を隠す黒いフード付きのマントを脱ぎ捨てた。蛮族討伐隊と共に戦い始める。彼女たちの活躍で近くに居た丘巨人が3体、続けざまに悲鳴を上げて倒れた。
一方マートは乱戦となった戦場でいつの間にか姿を隠したクローディアとブライアンを探していた。2人はリオーダンを出るときには火の巨人の傍で共に進軍していたはずだが、今は姿が見えない。あの2人を自由にさせるのはかなり不安だった。
“くそ、ニーナ、2人はどこに行ったんだ?”
“知らないよ。ブライアンは転移呪文が使えるし、クローディアは変身呪文が使えるからね。本気で隠れようと思ったら誰もわからないさ”
【毒針】 - 致死毒
ニーナの飛ばした毒針で空を飛んでいたゴブリンメイジが9体、力を失って落下した。残ったゴブリンメイジが何が起こったのだと言わんばかりにきょろきょろと周りを見回していた。
一方でアマンダと火の巨人との戦いは火の粉が散るような激戦だった。
<岩破> 格闘闘技 --- 装甲無効技
<溜突> 槍闘技 --- ダメージアップ
お互いがカウンター気味に攻撃を繰り出し、双方とも後ろに跳ね飛ぶ。どちらも力が強く、強靭で我慢強いという点ではよく似ていた。マートが懸念していた魔法を火の巨人はつかってきていないようだった。
アマンダは両足をひょんと伸ばし跳ねるようにして立ち上がる。まだアマンダは元気そうだ。
「ギャギャイギャ ギャ……(そろそろ観念しな)」
頭をぶるぶると振りながら遅れて火の巨人は立ち上がる。、
「ギャヒヒッ ギャ……(うるさい)」
【潜地】
なんと火の巨人は、まるで地面が水であるかのように飛び込んだ。土煙が舞い上がり巨体が地中に沈み、姿が全く見えなくなる。
“あれは、ジャイアントワームなど主に砂漠などの地中に住む巨大な虫が使う技じゃ。急に足元から襲ってくるぞ”
アマンダもジャイアントワームを知っているのか、周囲を見回しどこから出てくるのか警戒している。
<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る
火の巨人がアマンダの居る真下から、急に飛び出し拳で突き上げた。彼女は咄嗟に後ろに跳ぶが流石に勢いを殺しきれず、仰向けにそのまま吹っ飛んだ。火の巨人はそのままの勢いで5m程跳ねて地上に降り立った。
「ギャヒヒッ ギャ……(観念するのは、貴様の方だ)」
「ギャギャイギャ ギャ……(ふん、効かないねぇっ)」
巨人の勝ち誇った言葉にアマンダは苦痛に身をよじらせつつもそう言い返し、矛を杖替わりにしてよろよろと立ち上がる。
「ギャヒヒッ ギャ……(とどめを刺してやる)」
【潜地】
火の巨人は再び地に潜った。
「ワイアット、俺とアマンダも繋げ」
ワイアットの集団戦闘スキルが2人の感覚を繋いだ。マートは持ち前の鋭敏感覚スキルで地中を移動する火の巨人の移動する振動を感知し、位置がおおよそつかめていた。その感覚を共有する。
<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る
巨人が飛び出してくるタイミングでアマンダは大きくジャンプした。
<撓突> 槍闘技 --- カウンター攻撃
飛び上がった火の巨人は相手がそこにいない事に驚愕の表情を浮かべた。相手の飛びあがってくる勢いを利用し、アマンダの全体重をかけた突きがその喉を貫く。
「ギャヒ!!!」
火の巨人は後ろに倒れ、アマンダ本人はその横にドシンと大きな音を立てて着地した。
アマンダの矛は火の巨人の首を貫きそのまま地面に突き立っており、火の巨人が絶命しているのは明らかだった。
「ギャギャイギャ ギャ……!(火の巨人はオークジェネラルのアマンダが倒した!)」
「火の巨人は蛮族討伐隊のアマンダが討ち取った!」
アマンダは蛮族と人間、両方言葉で続けて勝ち名乗りを叫んだ。
それを聞いて、目の前で戦いを見ていた第2騎士団がおおおおおっと大きな声で叫んでそれに応えた。
第1騎士団から、そしてラシュピー帝国騎士団からもそれに続く。
そして、オークやオーガの集団からほぼ同時に大きな叫び声が上がった。
「ギャギャイギャ ギャ……!(おおおおお! 新しい魔龍王、アマンダ、万歳!)」
読んで頂いてありがとうございます。
一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。そちらもよろしくお願いします。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
見直してはいるのですが、いつまでたっても間違いが無くならない……申し訳ありません。
評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。
2021.11.1 巨人の身長を6mと書いてしまいましたが、実際は5mですので訂正しました。




