303 一騎打ち 前編
リオーダン近郊の平原に蛮族、人間それぞれの大軍が向かい合うようにして陣を敷いた。
蛮族側は中心に火の巨人たちの1千とその前方に魔龍王国の旗を掲げた2千、これら2部隊の周囲にゴブリンが6万、その右側にはオーガ1万とゴブリンが2万、左側にはオーク1万とゴブリン2万という形であった。
それに対する人間側は、中央は第2騎士団。オーガたちと対峙する左翼は第1騎士団、オークたちと対峙する右翼にはラシュピー帝国騎士団が陣を敷き、いつ戦端が開かれるかと従士たちは弓を構え、騎士たちは突撃のために身構え、その時を待っていた。
その緊張している中に、アマンダを先頭にした蛮族討伐隊が中央の第2騎士団を割るようにして姿を見せると、両軍はすわ開戦かと、その姿をじっと注目した。蛮族討伐隊は千にも満たぬ兵数だが堂々とした姿でゆっくりと前に進む。そして、蛮族側の中央部分、魔龍王国の旗を掲げた人間の集団のすぐ目の前まで近づいた。
「アマンダよ、おめおめと俺たちの前に良く戻ってこれたものだ。この恥知らずめが」
先頭に立っていた男がそう叫んだ。身長はアマンダと同じほど、角を生やし顔は赤のまだら模様であるので前世記憶はオーガなのだろう。身長からするとオーガナイトか。
「うるさいね。アスティン、本来の魔龍王国であるあんたらがどうして巨人の露払いをさせられてんだよ。そんな根性ナシは黙ってな。私は火の巨人から魔龍王国の王座を返してもらうために戻ってきたんだ」
「なんだと?そなたは一度敗れたはずだ。諦めが悪いぞ。魔人の国を作るにはあの火の巨人に従うのが一番良いのだ」
「蘇生したばかりでオークウォーリヤーでしかなかった私を火の巨人が倒したからってあいつの汚い足を舐めるんじゃないよ」
アマンダはマートから譲り受けた拡声の魔道具を手に持った。蛮族語の大音響が戦場に響き渡る。
「ウギャギャ ウギャ!……(くそ火の巨人め、聞こえるか。オークジェネラルのアマンダがテシウスの正当なる後継者として魔龍王国の王座を要求しに戻ってきた。輝かしきオーガとオークが支配すべきこの西部で東部の巨人連中が大きな顔をするのはこれで最後だ。ゴブリンの臭いケツに隠れてないで私と戦いな!)」
ブンッ
大きな風を切る音と共に直径2メートルはある巨大な岩がアマンダの立っていたところに飛んできた。だが、アマンダは右手に持った矛を脇に抱え左手でがっしりと握るとその飛んできた岩を下に叩き落した。ガツッと大きな音がして、岩は地面にめり込み、アマンダの手前で止まる。
「ギャイギャ ギャ!……(殴り合いじゃかなわないからって、遠くから小石を投げて誤魔化そうたって、それは無理ってもんだ。出てくる根性がないんだったらさっさと東部に帰りやがれ)」
「ギャヒヒッ ギャ……(この雌豚めが。のこのことやってきたことを後悔させてやろう)」
火の巨人が大声で叫ぶと立ち上がった。身長はおよそ6m。距離は1キロ程離れているがその光り輝く真っ赤な肌は遠くから見ても非常に目立つ。身体はかなり熱を持っているのか身体の周りの空気が揺らいで見えた。 火の巨人は最初はゆっくりと、そして徐々に速度を上げてアマンダの居る方に向かって突進しはじめた。
アマンダは手前に止まった岩塊の上に跳びあがり矛を天に突き上げ、ぐるぐると回転させて待ち構える。ゴブリンたちは一斉に道を空けた。丘巨人や森巨人、ヴィヴィッドラミア、キロリザードマンたちは火の巨人の後ろを追いかけるように走り始めた。
「来るぞっ、火の巨人はアマンダに任せて他の連中を足止めするぞ」
魔龍討伐隊を指揮するワイアットは背中のマジックバッグから半球型の飛行の魔道具を取り出し飛び乗る。
「アスティンよ、そして、魔龍王国に残っているものたちよ。私はワイアット、見た通り巨大アリの前世記憶を持つ元は魔龍同盟の者だ。だが、今ではマート様の下で見いだされ蛮族討伐隊に居る。この戦いが魔龍王国が魔龍王国として生き残る最後のチャンスだ。皆、どうして魔龍王国、いや魔龍同盟に参加したのか思い出してほしい。蛮族に阿らず、魔人のために生きたいと思うのなら、我々に協力してくれないか」
ワイアットの言葉に魔龍王国の旗を持つ人間たちが顔を見合わせた。火の巨人、そして彼の手勢がすぐ後ろに迫ってきていた。魔龍王国の旗を持つ人間たちはとっさに左右に分かれ道を作る。
<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る
火の巨人がアマンダとの距離を一気に詰めた。こぶしを握って下段に構えたまま、アマンダに体当たりをする。身長だけでも2倍以上の差だ。アマンダは矛を構えて耐えようとするが、その圧力には耐えられずそのまま後ろに吹っ飛んだ。
マートとジュディ、シェリーの3人は実はその時、蛮族討伐隊に紛れてすぐ近くに居た。だが、マートは飛び出そうとするシェリーを抑え、まだだとばかりに首を振る。
アマンダに囮になってほしいという依頼を受け、マートは彼女とどのような展開になるだろうかと予想を話し合った。
魔龍王テシウスが死んだ時、当然次の後継者は決められていなかった。だが当時、魔龍王国でテシウスに次ぐ武名を持っていたのはアマンダであり、強い者が後継者となるのが掟の蛮族にとっては彼女が次の魔龍王になるのが当然だった。それを大陸の東部からクローディアが火の巨人を後継者として連れて来て、魔龍王としたのだ。
大陸西部の蛮族であるオーガやオークは果たして東部出身である巨人族をどのように思っているのか。アマンダはオークやオーガにも熊や狼と同じように縄張り意識があると考えていた。そのため、それを意識させるような挑発をしたほうが、巨人の危機意識は高まり、余計に出て来ざるを得ないだろうと考えたのだ。
結果はアマンダが思ったより劇的だった。巨人はアマンダの言葉になりふり構わずアマンダに突撃してきた。そして周囲のオークやオーガは驚くべきことに、目の前の戦いを忘れたように2人の一騎打ちの結果をじっと注視しはじめたのだ。
ゲホゲホと腹を押さえながらアマンダは立ち上がった。赤い血をぺっと吐きにやりと笑う。
「ギャギャギャ ギャ……(なかなかいい拳じゃないか、人間蛮族併せて15万近くが見ている中での一騎打ちとは、なかなか昂るね」
<崩撃> 格闘闘技 --- ダメージアップ
火の巨人はさらに踏み込んだ。立ち上がったばかりのアマンダにさらに追い打ちをかけるように左手の拳で殴りかかる。
<足払> 槍闘技 --- 行動キャンセル技
<地撃> 斧闘技 --- 下段薙ぎ払い
その踏み込んだ足をアマンダは矛の柄を使って払った。続けて矛を回転させて薙ぐ。槍と斧の連続闘技だ。矛は巨大だが両方の特性を持つのだ。
ガッ 火の巨人の脛にアマンダの矛が叩き込まれた。巨人もアマンダと同じように要所には装甲をつけているがそれでも耐えきれずギャヒーと声を上げた。
「ギャギャイギャ ギャ……(ふふん、前はだめだったけど、少しは効くようだね)」
「ギャヒヒッ ギャ……(おのれ、これでも受けてみよ)」
【炎の息】
周囲は炎に包まれた。近くに居た蛮族討伐隊、魔龍王国の魔人たちは慌てて離れる。だがアマンダは涼しい顔だ。火の巨人というからには火を使ってくるのは当然だった。マートは事前に耐火呪文をアマンダにかけていたのだ。
そこに丘巨人や森巨人、ヴィヴィッドラミア、キロリザードマンたちが火の巨人に追いついてきた。蛮族討伐隊の面々は火の巨人とアマンダが戦う場所の前に立ちふさがろうと動き出す。そして、アスティンたち魔龍王国の魔人はオーガやオークたちと同じように戦うことをせずじっと戦いを見つめているだけだった。
読んで頂いてありがとうございます。
一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。そちらもよろしくお願いします。
火の巨人、丘巨人、森巨人は表記が揺れていました。統一します。過去分の訂正は少しお待ちください。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
見直してはいるのですが、いつまでたっても間違いが無くならない……申し訳ありません。
評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。




