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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第39話 芸術都市リオーダン 包囲作戦

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302/411

301 事前相談


 予言に言う邪悪な竜、直接はドラゴンの前世記憶を持つ霜の巨人のことを指すことになるのだろうが、現実的には前世記憶を持つことによって強大な力を得た蛮族すべてを人間にとっては邪悪な竜と言ってもいいだろう。

  火の巨人ファイヤージャイアント霜の巨人(フロストジャイアント)嵐の巨人(ストームジャイアント)といった巨人の最上位種は本来伝説的な存在でしかなかった。それに至るまで進化できたのは、おそらくいずれも強大な力の前世記憶を得た結果だろう。

 

  火の巨人ファイヤージャイアントがどのような力を持つのか知らないが、当時オークウォーリヤーになっていたにせよ、あのアマンダが歯が立たずに敗れたと言っていた位だ。かなりの力をもつに違いない。それを倒すことに巻き込まれるのはシェリーが聖剣の騎士となった時点で想定済だった。

 

「俺たち3人はわかった。ジュディもシェリーも頷いてくれるだろう。だが、アマンダと蛮族討伐隊はどうしてだ?」


「作戦はいろいろ考えた。そしてこれが一番勝率が高いと思うものが1つある。だが、自分でも酷い話だと思うので無理なら断ってほしい……」


 そこでエミリア伯爵は一旦ことばを切った。軽く目を瞑ってゆっくりと息を吸い、そして目を開く。


「アマンダ殿を囮にしたいのだ」


 アマンダを囮に?たしかに非情ではあるがもちろん作戦として敵を誘導するのに囮役を作る事はある。それをわざわざ酷い話だというのはどういうことだ?何か意図があるのだろう。


「囮というだけじゃわからねぇ、どういう作戦なんだ?」


「蛮族は力がすべてなのだというのは我が(つま)殿も知っているだろう。アマンダ殿はかつて魔龍王国で魔龍王テシウスの次に力があると言われていた。彼女が戦場で魔龍王国の王座を要求すれば、 火の巨人ファイヤージャイアントは決して彼女を無視できないだろう」


「そいつは……」


 エミリア伯爵の説明にマートは思わず言葉を失った。アマンダが囮になるというのはそういうことか。アマンダの力比べの要求に応じて 火の巨人ファイヤージャイアントがでてきたところを聖剣の騎士が討つ。敵の中には、かつてアマンダと一緒に戦った魔龍王国の生き残りも居るだろう。そういった中でそのような謀略をするということはアマンダにとっては武人の誇りを捨ててもう一度裏切りなおせと言っているようなものだ。マートとしては彼女は十分に罪滅ぼしをしてきていると考えていた。それを要求するのはあまりにも酷だ。だが、その時ふとマートの頭の中に一つの可能性が浮かんだ。


「ラシュピー帝国の騎士たちはまだアマンダを恨んでるってことか」


 アマンダはかつてラシュピー帝国を相手に魔龍王国の将軍として先頭に立って戦い、多くの騎士たちを蹂躙した。親兄弟を殺された者も多いだろう。味方になり蛮族を討伐しハドリー王国相手に功績を積んだといっても、ラシュピー帝国の騎士たちはまだ心情的に彼女を許せていないのかもしれない。エミリア伯爵はラシュピー帝国の騎士たちの前でアマンダを囮にして見せて彼らを納得させようとしているのではないか。

 

 マートの言葉にエミリア伯爵はすこし苦い微笑みを浮かべて首を振る。

 

「それは今回の作戦とは別の事だ。確実に 火の巨人ファイヤージャイアントをおびき寄せたいだけだ。それを考えると聖剣の騎士や我が(つま)殿であってもまだ囮としては弱い。アマンダ殿が自らが魔龍王国の王だと宣言して戦えと叫んだ場合、 火の巨人ファイヤージャイアントは戦う以外に選択肢はないだろう」


 マートはライラ姫の方をちらりと見た。彼女も悲し気な顔をしており視線が合うとすこし目を伏せた。

 

「成程な、ワイズ聖王国及びラシュピー帝国はアマンダがそう主張したとしてどういう立場をとるんだ?それともいきなり戦場でそう言わせるのか?」


「おそらく 火の巨人ファイヤージャイアントは芸術都市リオーダンに居ると思われる。リオーダン近郊の決戦まではアマンダ殿の存在は隠しておき、その宣言はそのリオーダンの包囲戦或いはその近郊での決戦の場でいきなり行うのが良いだろう。そうでなければ、何らかの対応策をとられておびき出しが成功しない可能性が高くなる」


「確かにな。意図はわかった。だが、そいつはアマンダ次第だ。少し時間をくれないか。もしアマンダが無理だというのなら、俺が囮になってなんとか引っ張り出せるよう努力しよう」


「すまぬな。だが、この悲惨な戦争を早く終わらせたいのだ。極力蛮族討伐隊に被害が集中するような形にはしない。よろしく頼む」


 マートは頷いた。エミリア伯爵はわざとアマンダや蛮族討伐隊に被害を強いるような事を考えないだろう。


「もし、戦いの場で今の魔龍王国を裏切りアマンダに従うという者が出てきた場合、その連中はどうする?」


「それはもちろん蛮族討伐隊に組み入れてもらって構わない。それと、もし蛮族討伐隊が戦いに参加してくれるのなら、騎士団のほうの参加はなしで良い。両方はさすがに無理だろう」


 マートはふたたびライラ姫をちらりと見た。彼女もそれには頷く。

 

「わかった、少し待ってくれ」


 マートはそう言って、席を立ったのだった。


-----


 すぐさま、マートはアマンダの許に向かった。海辺の家から中央転移公共地点を使って倉庫棟、研究棟、一般棟と経由し、リリーの街の南東にあたるウィシャート渓谷に出ると、港街グラスゴーへはすぐに着く。そこからライトニングに乗って真っすぐ南に移動すれば人魚の岩礁、さらに半島沿いにぐるっと移動すれば、グラスゴー領での蛮族討伐の最前線に出る。

 

 ウィードの街から南の地域は蛮族討伐隊の活躍によりすこし沖に浮かぶ大きな島も含めてほぼ完全に蛮族は駆逐されて開拓が進んでおり、現在のところマート領で蛮族の多い荒野に面しているのはもうここだけだ。

 

 叙爵の話も一笑に付し、アマンダは蛮族討伐隊を率いて以来、ずっと荒野で蛮族との戦いの日々を続けていたのだ。今まで彼女たちが蛮族から解放した土地はかなりの広さで、面積でいうとウィード領は倍以上になっているだろう。

 

「やぁ、マート。この間くれた魔道具はどれもすごく役に立ってるよ。一番は水のでる魔道具だね。ここらじゃまともな水が手に入らないからね。でも、どうしたんだい?あれからはあんまり期間は経ってないはずだけど?」


 決して快適ではないであろう湿った砂だらけの天幕の中でアマンダはマートを迎えた。

 

「ああ、少し困った話があってな。だが、アマンダに黙ってるわけにもいかない。とりあえず2人だけにしてくれないか」


 アマンダはマートの言葉に頷き、周りに居た補佐官や副官たちに合図した。彼らはあわてて天幕から出ていく。

 

「で、なんだい?」


 マートはエミリア伯爵から聞いた話をそのまま伝えた。アマンダはそれを聞くとなるほどねぇと呟くと、にやりと笑う。

 

「いいよ。蛮族の言葉で 火の巨人ファイヤージャイアントに戦いを挑めばいいんだろう? マートが心配するような卑怯や裏切り、誇りなんて言葉は蛮族の中では何の意味も持たないね。でも、一つだけ条件がある」


「条件?」


(あたい)にも戦わせな」



読んで頂いてありがとうございます。


一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。できればよろしくお願いします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

見直してはいるのですが、いつまでたっても間違いが無くならない……申し訳ありません。


評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


2021.10.27 勘違いしていたところを訂正

 オークジェネラルのアマンダ →

  当時オークウォーリヤーになっていたにせよ、あのアマンダ

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 火の巨人がどのような力を持つのか知らないが、オークジェネラルであるアマンダが歯が立たずに敗れたと言っていた位だ。 火の巨人とやり合った時は、蘇生の代償で前世記憶退化していて、オークウ…
[良い点] アマンダのリベンジ戦が楽しみです。 前回は前世記憶がオークウォーリヤーだったけど今回はオークジェネラルに戻ってるし、装備はドワーフの特別製の武具に魔道具各種がそろってとても充実している。 …
[一言] アマンダを王にして、そのまま建国してしまえばいいんじゃ
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