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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第37話 収穫祭と探索

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295 収穫祭と探索の結末

 

 皆が一息ついたところで、マートが空を飛んでみた。付近は見渡す限り荒野が広がりところどころに林や川があるぐらいで特徴らしきものはなく、ローレライよりは北であろうとは推測できたもののそれ以上ここが何処かはわからなかった。夜になって星が出ればある程度場所は特定できるだろうが、これでは救援を呼ぶにも時間がかかりそうだった。

 

 チャールズ王子はまだ幼いと言っても良いぐらいであるし、ワーナー侯爵夫妻も高位貴族であるので野営などしたことはないだろう。そろそろ秋が深くなってきたので寒いかもしれない。マートは以前ジュディたちと探索に行ったときにつかったテントを海辺の家にとりに行くことにした。最近使っていない荷物はそちらに預けていたのだ。

 

 魔法のドアノブを開け、海辺の家に入ると、そこには2人の人影があった。ジュディとシェリーの2人である。彼女たちはマートを見つけると飛びついてきた。

 

(キャット)、無事でよかった」

「マート殿、大丈夫だったか。よかった。よかった」


「お嬢にシェリー、心配かけたな。研究所じゃなくこっちに来てたのか」


 マートも二人の肩を抱いて大丈夫だとばかりにぽんぽんと頭をなでる。王城での戦いからはまだ3時間も経っていないはずだが、まるでかなり時間が経ったようだ。

 

「そっちに飛ぼうと思ったんだけどうまく飛べないの。部屋の中しか見ていないからかもしれないけど、転移先として思い浮かべようとしてもうまく像が結べないというか、ぼんやりとしてしまって転移できないのよね。仕方ないからこっちで待ってた」


「成程な、俺の方は無事に4人は救出して今はその近くの林に潜んでいるところだ。場所が判ったら連絡しようと思ってたんだが、今は荒野ってだけではっきりしない」


「もう救出自体は終わったのね。さすが(キャット)


 横でシェリーもうんうんと頷いている。

 

「今はその近くに魔法のドアノブがつながってるって訳ね。とはいってもすぐに私が宰相や王子と会うのはちょっと不自然すぎる?」


「そうだな。夜に星が見れるようになれば場所を予想してライラ姫に伝えるから、それを聞いて飛んでくるってのが自然だろうな」


「わかったわ、そうする。でもよかったわ。会う事が出来て。あとは簡単に合流できるように一度魔法のドアノブを抜けてそちらを見ておくわね」


「ああ、そうだな。助かる。ふたりともありがとな」


 マートはその後、テントなどの他、食料品などもマジックバッグに詰め込みなおすと、4人が潜む林に戻ったのだった。


-----


 結局、4人が拉致されていたのはヘイクス城塞都市からさらに北東に200キロほど離れた荒野にある集落だった。テントを広げ、3人にはそちらで寝てもらうように用意をする。2等騎士のオディリアはマートと一緒に夜営である。調理をするとゴブリンたちに気づかれる恐れがあるので火は焚けない。灯りは以前に手に入れていた灯りの魔道具に布をかぶせて遠くからはみえないように工夫をし、食事にはマートが用意したパンと燻製肉、チーズをマジックバッグから出した。

 

「この肉は干し肉……ではないな。旨味があって柔らかい。パンもしっとりしていてなかなか良い味だ。どちらも貴族の食卓に乗っていても不思議ではない」


 受け取った食事を食べながらワーナー侯爵は感嘆の声を上げた。


「ああ、メシは旨いのを食わねぇとな。パンはうちのメイド長が焼いたやつなんだが、これが結構上手なんだよ。それとこっちの肉は俺が燻製にしたんだが、昔行った村で作り方を教えてもらってな。作るのには結構手間がかかるんだ」


「ほう、伯爵自身が作られたのか。戦いだけではなく、そのような事も出来るとはすごいな、レイラもそう思わないか」


 レイラというのは、ワーナー侯爵夫人の名前だ。妹のライラ姫とは2つだけ年上なだけだが、すでに3人の子供がいるのだという。


「ええ、驚きですわ。ほら、チャールズもたべなさいよ。美味しいわよ」


 彼女はその横で横を向き、じっとすわっているチャールズ王子に話しかけた。チャールズ王子とワーナー侯爵夫人は姉弟の間柄であり、口調は親しげだ。


「食べたくない。お腹は空いてない」


 チャールズ王子はぶっきらぼうにそう答えた。 

 

「食べないとダメよ。明日はどうなるかまだ判らない。ずっと歩き続けないといけないかもしれないのよ。そのためにも体力はつけないと」


「嫌だと言ったら嫌なんだ」


 チャールズ王子は大声を上げた。マートは苦笑を浮かべた。

 

「んー、良く判らねぇが、何か機嫌が悪いのかな。嫌ならまぁ、別に食わなくてもいいさ。無理にとは言わねぇ。ただし、できれば大声は上げないでくれ。蛮族に気づかれる」


「ごめんなさいね、ローレライ伯爵様。チャールズはライラがあなた様に夢中なので嫉妬しているのです」


 ワーナー侯爵夫人がチャールズ王子の頭を撫でながらそう言った。チャールズ王子はぶんぶんと頭を振ってその手をふり払う。

 

「へぇ、そうか。じゃぁ、頑張らねぇとダメじゃねぇか。ライラ姫を自分に向かせたいんだろ。それにはまずはしっかり食ってちゃんと脱出についてこないとな」


 そういってマートはにやにやと笑った。

 

「!」


 チャールズ王子は、なにかにハッと気付いたようだった。一瞬、拗ねたように口を尖らせると、目の前のパンに手を出し齧りつく。

 

「そう、それが良いな」


 その様子をワーナー侯爵夫妻は見てホウと感心した。

 

「どうかな、ローレライ伯爵はそろそろ貴族としての生活には慣れたか?」


 食事は進み、ワーナー侯爵は話題を変えてマートにそんなことを尋ねた。

 

「いや、難しい事はわからねぇし、何をしていいのかも相変わらず全然だ」


「それにしては、ローレライ、ウィード共に順調だときいているよ」


「それは、うちの内政官たちが頑張ってるからさ。俺は話を聞いてるだけさ」


「話を?」


「ああ、困ってることとか、したい事を聞いてるだけだよ。意外と連中は俺に話をしてる間に自分でなにか解決策を思いついてくれることが多いんだ。結局聞いてるだけってことがほとんどさ」


「ふむ、そうか。なかなかやるな」


 ワーナー侯爵はうんうんと頷いた。


「そうだろ?」


「いや、そなたがだ。十分貴族としてやっていると思う」


「んー、そうなのかな?」


 マートは不思議そうにそう答えた。ワーナー侯爵は今まで知らなかったマートの側面を見たような気がして思わず微笑んだのだった。

 

----- 

 

 翌日の昼には夜を徹して飛行してきたジュディとシェリーが合流することによって、無事チャールズ王子とワーナー侯爵夫婦はワイズ聖王国の王都に帰る事が出来た。

 

 予定を変更していたパレードはその2日後の夕方に改めて行われ、マートは領地の収穫祭も含めてエリオットの力をかりて転移して回りながらなんとか無事すませた。そしてクローディアの要求した騎士団のラシュピー帝国からの撤退はもちろん行われることはなかったのである。


 後日になって、マートは国王に召喚され、王城でライラ姫、ワーナー侯爵と共に謁見をした。

 

「マート・ローレライ伯爵。またそなたに助けられた。一国の王としては情けない限りだ。何か褒美として欲しいものはあるか?」


 マートは少し考え、口を開いた。

 

「では、一つだけ。巻き込まれた女性衛兵。2等騎士オディリアは救出の際にかなり頑張ってくれました。彼女には十分な恩賞をお願いいたします」


「ああ、彼女にはもちろん1等騎士に昇爵を予定している。彼女ではなく、そなただ」


「ありがとうございます。私は特にはございません。しばらくはローレライかウィードでのんびり過ごそうと思っております」


「ふむ、そうか。少し衛兵隊を鍛えてもらいたいとおもっていたのだが、それは無理か」


「私はすこし働き過ぎているようです」


 その答えを聞いてワーナー侯爵はクククと笑った。


「ダメなようですな。しばらくはのんびりさせるしか仕方ないのでは」


「むむ、そうか。仕方ないの。ではしばらくゆっくりしているがよい。褒賞は改めて考える。年始の儀式までにはまた王都にもどってくれよ」


 こうして、収穫祭と急に発生したマートの探索行は終わったのだった。

  


読んで頂いてありがとうございます。


一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。できればよろしくお願いします。


ここで37話は終了で、次は新しいお話です。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

見直してはいるのですが、いつまでたっても間違いが無くならない……申し訳ありません。


評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「ふむ、そうか。少し衛兵隊を鍛えてもらいたいとおもっていたのだが、それは無理か」「私はすこし働き過ぎているようです」 王が伯爵にこんな細かいこと言い出すね。
[良い点] マート、まさに過労死しても、おかしくない過重労働。国王など他の人は頑張ってマートを休ませてほしい。
[気になる点] クローディアの要求した騎士団のラシュピー帝国への撤退はもちろん行われることはなかったのである。 ラシュピー帝国からの撤退じゃないですかね?へのだとラシュピー帝国に撤退する事になります…
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