表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第37話 収穫祭と探索

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

292/411

291 王城襲撃


 マートたち3人が王城に向かい始めたのと同じ頃、王城前の広場では、王都の衛兵隊隊長であるローレンス伯爵が警備の指揮をとっていた。彼は30代前半の武人らしいがっしりした体格を持ち、宰相であるワーナー侯爵の信任も厚い。王城前の広場にはかなりの人々が集まっており、王城の城壁の上から手を振る国王陛下たちに歓喜の声を上げている。そこにマートが慌てた様子で一人で走り込んで来たのだ。

 

「ローレンス伯爵、パレードが襲撃された! 急に蛮族が王都の中に現れたんだ。その数はおよそ200体。聖剣の騎士たちは沿道警備の衛兵たちと共に戦っているが、街の人々が巻き込まれて大量に怪我人がでている。至急そちらに衛兵隊を回してくれ」


 ローレンス伯爵自身はマートと直接話したことはないものの、パーティなどでは何度も顔は見ている。領地の名前もローレンスとローレライでよく似ており逆に親近感を持っていた。彼はマートの言葉をそのまま信じた。

 

「なんと、200体も? わかった。襲撃地点はどこだ? 第5から第16隊に伝令をだせ。緊急事態だ」


 マートは内務庁のすぐ傍が襲撃場所だと言った。王城からは少し遠い。

 

「俺は、陛下に報告してくる。あとは頼む」


 マートは慌ただしくそう告げると王城に入る通用門に向かって走り出した。 

 

 王城前の広場に手を振るワイズ聖国王たちが居るのは、王城の中でも一番広い正面広場に突き出した形になっている胸壁部分であった。隣には娘のライラ姫と唯一の男子であるチャールズ王太子、宰相であるワーナー侯爵とライラ姫の姉、第3王女であるワーナー侯爵夫人が並んで立っていた。

 

「皆、喜んでおるな。誠に喜ばしい事じゃ」


 国王は、隣に立つワーナー侯爵に上機嫌でそう話しかけた。

 

「はい、王城と騎士団の食糧庫に大量の穀物が運び込まれたという情報が王都内の食料を扱う商売人の間でやりとりされ、高騰していた食料品、特に大麦やライ麦の値段が急に下がり始めました。おそらく買い占めをして利益を貪っていた商人など居て慌てて放出しはじめたのでしょう。このままゆけば小麦や豆なども下がりそうな気配です。その商人については現在調査中です。人々は国王陛下がどこかから大量に穀物を入手してくれたおかげで一息つけると安堵しているようです」


「なるほどの。今回のパレードでローレライ伯爵がこちらに着いたときに良くやってくれたと褒め、なにかしらの物を与えておくべきではないか?」


「そうですわ、父上。マート様には何か褒賞をお与えください」


 国王の言葉を横で聞いていたライラ姫は嬉しそうに頷いた。

 

「僕はローレライ伯爵は嫌いだ。ライラ姉上はいつもあいつを特別扱いする」


「チャールズ?」


 チャールズ王子のいきなりの発言にライラ姫は困ったような顔をした。

 

「チャールズ殿下、ローレライ伯爵は聖剣の救護者であり、そしてまた、ほんの数年の間に冒険者から国を何度も助けるような功績を上げて伯爵となった我が国の英雄です。ライラ姫が特別扱いをしてもしかたありますまい」


 ワーナー侯爵が諭すように言う。だが、まだ幼いチャールズ王子は、頬を膨らませ、口を尖らせて納得していない様子であった。

 

 その時、ライラ姫は彼女たちのいる胸壁から50m程離れた空中で彼女たちを見下ろすようにしている3人に気が付いた。姿はぼんやりとしているので幻覚呪文で身を隠しているのだろう。

 

「衛兵!」


 ライラ姫は声を上げ姿を隠している者を指さした。前世記憶の羽根を広げて飛ぶ人間が1人、左右にオークウォーリヤーとハイオークを連れている。ライラ姫は知らないが、羽根を広げて飛んでいる男はワイバーンの前世記憶を持つ男、ブライアンだった。ライラ姫の指示を受けて胸壁のすぐ傍で警備をおこなっていた衛兵たちがライラ姫の指さす方向を見たが、何も見つけられない様子だった。

 

「何も見えません、何か居るのでしょうか?」


 そう言いつつも、彼らは持っていた槍を構える。だが、姿が見えていない彼らはバラバラの方向を警戒している。

 

「つっ、やはり幻覚呪文ですか。ここは危険です。皆王城の中に。ローレンス伯に連絡して王城の守りを固めよと伝えなさい」


 だが、その胸壁の真下では、丁度ローレンス伯爵が王城警備の衛兵隊の半数以上を率いて、内務庁の近くで発生しているという蛮族の襲撃を鎮圧するために出撃しようとしているところであった。

 

魔法の嵐(マジックブリザード)

 

 ブライアンたちは急降下して王たちも居る城壁の上に立った。それとほぼ同時に彼の唱えた呪文が胸壁の上に居た国王、ライラ姫、チャールズ王子、ワーナー侯爵とワーナー侯爵夫人、そしてその周囲に立ち、彼らを守っていた衛兵たちを巻き込んで吹き荒れた。

 

「父上、チャールズ」 

 

 ライラ姫はあわてて2人を抱えるようにして庇った。そして彼女の周囲半径3mほどの球状のエリアだけが魔法の嵐(マジックブリザード)の影響を受けなかった。おそらく魔法無効化の魔道具だろう。ワーナー侯爵は夫人を庇いつつ魔法の嵐(マジックブリザード)を受けて2人ともその場に倒れた。周囲の衛兵たちも倒され、嵐が収まった後に立っていたのは、国王、ライラ姫、チャールズ王子の3人だけであった。

 

「3人を確保せよ」


 ブライアンたちは左右にいる、オークウォーリヤーとハイオークに指示をした。ハイオークが頷き、オークウォーリヤーに指示しているところを見ると、人間の言葉を理解できるのはハイオークだけなのかもしれない。2体はそれぞれ武器を構え、国王たちに近づいた。

 

「そうはいきませんよ」

人造兵士生成(クリエイトゴーレム)』 -岩-


 ライラ姫が呪文を唱え、何か丸い石の塊のようなものを前に投げた。その石の塊はその場でまばゆい光を放つ。そして城壁の床部分がその光の中に吸い込まれていく。光が消えたときには身長2m程の岩のゴーレムがライラ姫たちをかばうようにオークウォーリヤーとハイオークの前に立っていた。

 

読んで頂いてありがとうございます。


念のために書いておきますが、ローレンス伯爵のところに現れたマートというのは書き間違いではありません。


一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。できればよろしくお願いします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

見直してはいるのですが、いつまでたっても間違いが無くならない……申し訳ありません。


評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ライラ姫達には悪いけれど、マート達が防衛する側になる話は新鮮で良いですね。 マートがいつもやっている潜入工作は、敵からしたら本当に厄介なのだと改めて実感させられました。
[良い点] 魔法か魔道具かはわからないけど面白そうなものが出てきた。 [気になる点] 確保せよってことは殺すつもりはなさそう。王族を人質にとることが目的かな。 そういえば王妃様は出てきたことがないと思…
[一言] 最近反撃しまくったからこちらの勢いを殺すために王族を狙ったのかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ