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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第37話 収穫祭と探索

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289 王都収穫祭の前に


 ローレライに帰還した翌日、マートは王都の魔術庁長官室で、魔術庁長官であるライラ姫に報告をおこなった。王都での収穫祭まであと3日しかないというのがわかったので、早くニーナの顕現を解き、探索に向かいたいと考えて、報告を急がないとという名目で後処理をパウルとワイアットに任せ、エリオットに自分とアレクシアを王都に転移させてもらったのだった。

 

 内海を一周し蛮族の拠点がどのようになっているか、そして蛮族の巨大な拠点を焼き払い、 霜の巨人(フロストジャイアント)と戦って逃げられたことなどの話を聞いて、ライラ姫は驚嘆の声を上げ、大きく頷いたのだった。


「わかりました、さすがマート様です。ジュディ様からも簡単には伺っておりましたが、ご本人から改めて伺うと、本当にすごさが伝わって参ります。巨人のそれほど大きな拠点を壊滅されて来られるとは……。国からの報奨を出せないと申上げたのを恥じ入るばかりです」


「それはいいさ。蛮族の拠点からそれ以上のものを頂いてきたからな」


「そうなのですか? マート様の配下の方に不満が出ない程の戦利品があったのならば良いのですが」


「ああ、捕まってた連中ってのは蛮族にとっては奴隷扱い、つまり財産みたいなものだったらしくてな。捕まってた場所には山のように他にも物資が山積みだった。なので、人間を救出するときに、一緒に山の様な食料を頂いてこれたんだ。その蛮族の集落で消費される数カ月分の食料さ。もちろん蛮族の物なので品質は全然良くないが、馬鹿に出来ない量なんだ」


 マートはあえて戦利品として食料だけを報告した。実際には地下空洞から回収したものには金銀財宝や武器防具などもあったのだが、その量はかなり大量でパウルに言わせると、おそらくワイズ聖王国全体の税収で言っても数年分以上にあたるだろうという量だったのだ。もちろん蛮族がダービー王国、ラシュピー帝国で強奪した財宝には違いないが、国の支援を受けない出兵であるので、戦利品はローレライ伯爵領のものとして正当な権利がある。だが、こちらを報告すると他の貴族からの妬みを買う結果にしかならないと判断し報告はしなかったのだった。


 だが、それを相談していると、ネストルはその上で、食料品などは格安でワイズ聖王国に譲り、恩を売ったほうが良いと提案した。パウルに聞いても、王都の物価は戦争続きでかなり高騰しているらしいので、それが良いでしょうという話で、マートとしては大賛成だった。

 

「半分ぐらいそっちで買ってくれねぇか?格安にしておくぜ。そうだな、相場の1/3ぐらいでいいぜ」


「それほどの値段でよろしいのですか?すでに秋の収穫が始まっているにもかかわらず、長引く戦争のために食料は値上がりを続けています。普通に市場に出せばもっと儲かりますのに」


「ああ、聞いてる。王都ではパンの値段が2倍ぐらいになってるらしいな」


「2倍どころではありません。今日の市場では5倍だそうです」


「5倍か、すごいな。どっちにしても、上がり過ぎだろ。割を食うのは力のない連中だ。1/3ぐらいでも、元の値からしたらまだ高いんじゃねぇのか。それなら1/5まで下げよう。そういう話が広まったら少しは値下がりするだろうって、うちの補佐官の一人が言ってたんだ。第一、こっちは余ってるから下手したら腐らせちまうかもしれねぇ。それよりはよっぽどいいさ」


「なるほど、わかりました。助かります」


 ライラ姫は深く頭を下げた。


「あと、一つ困ったことがあるんだ。救助してきた人間は3万人ぐらいになってる。その大半はラシュピー帝国かダービー王国出身のはずだ。それですでにどこから攫われて来たのかっていうのを確認し始めてるんだが、自分がどこから攫われたのかよくわからないっていう連中が結構いるんだよ」


「自分の国の名前が?」


「ああ、村の名前を聞いても、うちの村とかしか言ったことがねぇとかさ。大きい山のふもとでしたとか言われても、どこの山かわからねぇ」


「そうなのですか。たしかにそれは困りましたね……。それはどれぐらいの割合なのでしょうか」


「まだ1割ほどしか聞けてねぇんだが、その範囲でいうと、ダービー王国だというのがそのうちの3割ぐらいだ。ラシュピー帝国は1割ほどだな、残る6割はよくわからねぇって言ってるらしい。国がわかるっていう4割も、すぐに戻されるのは怖いから、もっと平和になってから戻りたいっていうのが大半だ」


「なるほど。平和になってから戻りたいという気持ちもわかりますが、それぞれの所領の住民たちはそれぞれの所領にもどるべきだと思います。元から耕している土地もあるでしょうし、先祖代々の家もあるでしょう。それが一番幸せだと思うのですが」


「理屈ではそうなんだろうけどな。今、安心して暮らせる土地なのかっていう所だろう。蛮族に攫われてかなり酷い扱いをされてきたようだからよ。二度とそんな目に会いたくないんだろう」


「そうですか……」


 ライラ姫は目を閉じ、じっと考え込んだ。マートは何を考えこんでるのかよくわからず、肩をすくめる。

 

「帰りたくないと伝えると、その領主の面目を潰してしまうことになりかねない難しい話です。少し預からせていただけませんか?宰相閣下と相談させてください。それまでは、ほとんどの出身がまだ判らないということにしておいて下さると助かります」


「そういうもんか。帰りたくねぇ連中は帰らなくていいだろ? 当たり前のことだと思うんだが……。まぁいい、判明するまではうちで難民として預かるが構わないか?」


「はい。それで結構です。それと、王都での収穫祭は3日後となっております。当日の段取りと演説で言っていただきたいことは、補佐官のアレクシア様に先程お渡ししておきましたので、後でご確認ください。それまでは王都に滞在されるのですか?」


「ああ、一応な。王都にも人がだいぶ集まって賑やかになっているみたいじゃねぇか」


「はい、しばらく戦争が続いており、不満もたまっていますので、楽団を呼んで街角で演奏させたり、少し物資を格安で払い下げをしたりしてムードを盛り上げております。先程アレクシア様にお渡ししました資料にも書きましたが、今回の一番の目玉は聖剣の騎士シェリー様とジュディ様、マート様の御三人の王都の内務庁から王城に至るパレードです。それを目当てに王都に来ているものも多いと聞いております」


「パレード? 目立っちまうと飲みに行きにくくなるなぁ」


「そんなことはおっしゃらずに……国王陛下()王太子()、私は王城の胸壁から皆さんをお迎えさせていただきますのでよろしくお願いします」


「わかったよ、仕方ねぇな。よろしく頼まぁ」


 そう言ってマートは魔術庁のライラ姫の部屋を退出したのだった。


-----


「いつものことですが、同席しているとライラ姫にいつ怒り出されないかひやひやしますね」


 帰り道の馬車でアレクシアはマートにそう呟いた。

 

「そうか? 大したことは言ってないつもりなんだが」


「帰りたくない領民は帰らなくても良いとか、貴族制度の根幹にかかわることです」


「そういうもんか? でも土地の連中の事を考えれない貴族なんてとっとと交代させりゃあいいじゃねぇか。特にヘイクス城塞都市近辺の一般民衆への扱いが酷かったみたいだからな。まぁ、自分の領地を大事にしなかったツケが回ってきたってことだろ。ワイズ聖王国じゃなくラシュピー帝国だから国が違うからうまくいかないのだろうけどよ。しかし、食料品の件はライラ姫は本当に嬉しそうだったな。あれはよかったぜ」


「そうですね、ネストル様が想定されたとおりでした」


「それのほうが物価が下がることになるとか、そのあたりはよくわからねぇけどな」


「そのあたりは私も勉強が不十分でよくわかっていません。ネストル様は今までマート様の周りには居なかった考え方をする人物ですね。ただ、ドルフ様の影響か、最近よく酒場や娼館に出入りされているようで、2人して昼過ぎになってから酒臭い息で登城してこられるとあまり評判がよくありません……」


(スネーク)と一緒に飲み歩いてるのか。俺も行きてぇな」


「マート様っ」


「わかったわかった。まぁ仕事だけはちゃんとしろって言っとくさ」


「よろしくお願いします。あと、パウル様が気にしてらっしゃったことは、ライラ姫の了解をとらなくてもよかったのですか?」


「ああ、暦とかいうやつか。あれは別にしなくていいだろ。領内の連中に農業の手引を配るのに了解をとった方がいいというのかさっぱりわからねぇんだよな」


「たしかに、内容はいつに何の種を植えるとか、収穫の時期はいつ頃だという話ではありますが、これもネストル様がおっしゃったお話ですが、昔、暦を制定していたのは国王だったとか。その前例があるので了解をとるべきかもしれないということでした」


「雨がいつ降るとか言っても確実に予測できるわけじゃねぇしよ。単純にそれを見て農作業ができるようなものってことだろ。それに併せてちゃんとそれが見れるように字や計算を教える。別にこっちでやっても悪いことじゃねぇだろうよ」


 アレクシアは頷いた。マートは言葉を続けた。


「今だとみんな長年の経験を頼りに作物を植えてるが、それでも時期を間違えたりってのがあるらしいし、今は土地の経験がない人間が増えて、農作物の種類も増えたからな。全部がわかってる人間なんて村でもほんの一握り。内政官がすべての村を一つ一つ説明して回るより、時期や特性を書いた手引書があって、みんながそれを見れるっていうのは大事な事さ。大事な事なんだからさっさとやろう」


「確かにその通りですね。マート様、これがライラ姫からお預かりした収穫祭でお願いしたい大事な事だそうです」


 マートはアレクシアから分厚い羊皮紙の束を受け取った。顔が少しひきつる。

 

「なんかいっぱいあるな、まぁみとく」


「あと3日ですが、王都の執事長は一度お話をしたいという貴族や商人たちからのお手紙を山のように預かっているようです。彼曰くこれでも厳選したのだと言っておりました。あと、私からもできれば王都で働いている者からお話を聞いていただいたり、一緒に食事をしていただきたい者が何人かおります」


 マートはうんざりしたような顔をした。彼自身が考えていた予定では、ニーナの顕現を解除した際に意識不明が2日、そしてそのあと1日余るはずだから、そこで古代港湾都市遺跡の宝探しができるはずだったのだ。そのためにライラ姫の報告を急いだのだったが、アレクシアの話を聞くとなかなかそうもいかないようである。

 

「その後はローレライとウィードの収穫祭だよな?」


「はい、1日おきにその予定となっています。ここ1ヶ月ほど内海一周の旅に出られておりましたので、それぞれの街での面会の予定なども多く溜まっています」


「エリオットが転移を覚えたおかげで効率的になったはずなんだがな……おかしいな……」

 


読んで頂いてありがとうございます。


一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。できればよろしくお願いします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

見直してはいるのですが、いつまでたっても間違いが無くならない……申し訳ありません。


評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アレクシアが有能な秘書になってる。マートが丸投げしてるからかまわりがどんどん優秀になってるような。 [一言] 王族として対応するライラ姫と貴族がよくわかってないマートが不安を覚えるほど嚙み…
[良い点] 王族が出迎えるパレード。否応なしに英雄に祭り上げられますねw 「鱗スネークと一緒に飲み歩いてるのか。俺も行きてぇな」 「マート様っ」  アレクシアが怒ったのは、酒場ではなく娼館の事だろう…
[良い点] 伯爵として頑張りながらも隙あらば遊びに出掛けたいマートが良いです。 [一言] パレードをして王族が迎える。こうした既成事実により少しずつマート包囲網が出来つつありながらも、それを本人には気…
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