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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第36話 エルフの森の異変

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287 開放


 上空で行われた戦いは 霜の巨人(フロストジャイアント)、ギガリザードマン、レインボウラミアの3体が倒され、或いは逃げ出すという結果となり、それを見た蛮族たちは大混乱に陥った。マートとしては人間の前世記憶を持つ者たちがどうしたのか気になったのだが、大火災も起こっている中でもう区別はつかなかった。

 

-またマート様が王になることも可能でしょう。


 ネストルが言っていたのはこういう状況だったのかもしれない。たしかに、この状況で蛮族討伐隊と騎馬隊を突撃させればこの巨大集落を制圧することも可能だろう。だが、マートはやろうとは思わない。そんなことをすれば蛮族討伐隊や騎馬隊の損害も馬鹿にはならない。たとえ、数万の損害を相手に与えることができるとしても、こちらに数百の損害がでては全く本末転倒だ。マートとしては、自分の知る者の命とは比べ物にならないのだ。それにゴブリンが増える速度を考えると、実質的にはあまり意味もないだろうとも思えた。

 

 巨大集落も港も、港に停泊していた船もすべてが大きな炎を上げて燃え、夜空を黒い煙が天を覆っていた。これで蛮族の勢いもすこしは鈍るに違いない。それだけでも十分だろう。その様子をしばらく見た後、マートたち3人は他の連中を追ってウィードの街に戻ったのだった。

 

----- 

 

 ウィードの街では夜中であるにもかかわらず、街の中には大きな篝火がいたるところで焚かれ、街全体がまるでお祭りをやっているかのような大騒ぎになっていた。

 

 マートたちが転移した政務館の前の大きな広場には、食糧や燃料となる薪の箱が山積みにされ、その回りに多くの人々が焚火をして料理をしたり、屋台のようなものを並べたりして、皆でなにかおいしそうに分け合って食べていた。酒も振舞われているようで、楽しそうに騒ぎ、中には楽器などを取り出して大声で歌っているものもいた。

 

「なんだなんだ、すげぇな」


 3人をみつけて、ウィードの街の内政長官であり、家令の一人でもあるケルシーが急いで駆け寄ってきた。

 

「おかえりなさいませ。伯爵様。よくぞご無事で」


「ああ、ただいま。楽しそうだな」


「伯爵様の安否を確認できないままでこのような騒ぎになってしまい申し訳ありません。2万人を街で引き受けるのに、十分に食事も摂れていないものが多いと伺っておりましたので、主要な街の広場に食料や燃料などを提供するので炊き出しをしてほしいと街の者たちに依頼したところ、結局このような騒ぎとなってしまいました」


「炊き出しが祭りとはな。まぁ、こっちで食材や燃料、酒を提供したら、こうなったってことか。まぁいいさ。こっちにきた連中も嬉しいだろ」


「はい。雨が降ったらどうしようかと心配しておりましたが、晴天に恵まれました。それにまだ秋といっても初秋。それほど寒くもありません。羽目を外して路上で寝ているものも居るようですが、浮浪児なども減ったことから犯罪などはかなり減少しております。大丈夫でしょう。念のため衛兵隊は巡回してもらっております」


「いいな。ありがとよ。メイスンの町の経営手腕はすごかったが、こっちでもすげぇ頑張ってくれてるみたいだな。最初に会ったとき、干した小魚を肥料にして菜の花を植えて油を採り、他の街にもっていって金を稼いでいるって聞いて驚いたのを思い出すぜ。おまえさんみたいなのが居てくれるから俺も助かっている。今後もよろしく頼むな」


「貴族ではないただの内政官である私のようなものに信頼を寄せていただきありがとうございます。これからも支えてまいります」


「貴族だとかそんなのは全く関係ねぇさ、こちらこそ引き続きよろしく頼む。ただし、働きすぎねぇようにな。おまえさんの他にも折角のお祭り騒ぎなのに働いている衛兵隊や他の連中もたくさんいるだろう。後で十分に労ってやってくれ」


「はい、心得ております」


 マートはそう言って、ケルシーを労い、政務館の3階のバルコニーに顔を出した。広場が良く見える。マートが顔出したのに気付いた街の者たちが、マート様と手を振っている。マートも拡声の魔道具を片手に手を振って応えた。

 

「街のみんな、ありがとな。そして、蛮族に捕まっていた連中は無事でよかった。今日は楽しんでくれ。明日から順番に名前や出身などを聞いていく。脱出してきた者の多くの土地のほとんどは、まだ蛮族から取り戻せていないところだろう。どうやって生きていくのか心配なのも多いだろ。だが、安心してくれ」


 そこでマートは一息空けて皆を見回した。

 

「うちの領地にはまだまだ未開拓の土地がいっぱいある。蛮族を討伐して手に入れた土地だ。決して楽な土地ではないと思うが、冬を越す間の食料や作物の種、土を耕す道具、肥料などは用意するので、なんとか生きてゆけるようにしたいと思ってる。もし、農業じゃなく他に技能があるものについては名前などを聞くときに内政官に話を聞かせてくれ。それはそれで配慮しよう。ウィードの街でもまだまだ人手不足だからな。みんな蛮族の地で苦労し、疲れ切っているだろう。だが、この地でもう一度生きてゆくために努力をしてくれないか」

 

 広場ではうぉーという声が幾つも上がった。全般的には好意的に受け止められているようだ。マートも少し安心した。しばらく内政官たちは忙しいだろうが頑張ってもらおう。


-----

 

(キャット)、どうしてまだ、航海をつづけるの?これほどの大戦果なのよ。ライラ姫も喜ばれるでしょう。船はあそこに泊めたままでもいいでしょう? 一旦打ち切って王都に報告すればいいのに」


 軽く腹ごしらえをしながら、ジュディはマートにそう尋ねた。ライラ姫に今回の顛末については詳細な報告が必要だと彼女は考えているようだった。だが、マートはワイアットたちの乗る3隻の船と共にまだ内海の航海を続け、ぐるっと北を回ってローレライの港まで戻るつもりだった。

 

「今回の件は、俺が勝手にしてることだからな、別に報告を急ぐ必要はないだろ。それに、まだ北側の航路に蛮族の拠点があるかもしれないし、それだと輸送中の人間が居るだろうから、その救出を先にしないといけない。それにまだ、最初に見つけた蛮族の拠点にも手つかずなんだ。報告よりも救出が優先。悪いけど、お嬢から軽くしておいてくれねぇか?」


「救出が優先かぁ……やっぱりマートは根っからの救護人(レスキュー)なのね。仕方ないわねぇ」


 ジュディはしぶしぶ納得した様子だった。


「そういえば、お嬢には今回の助力について礼を出す。何か欲しいものはあるか?」


 今回動員したのはマートの領地の者なので、論功褒賞は後でおこなうことになるが、ジュディだけは独立した男爵だ。


「蛮族を倒すっていうから私はついてきただけよ。聖剣の騎士を助ける魔法使いとしてね。来たのも私一人だし……。でもまぁ、お礼をくれるっていうのなら、そうね、王都で流行のデザートを奢ってもらおうかしら。もちろんシェリーも一緒でいいわよ」


 ジュディはにっこりと笑った。


「んー、そんな事で良いのか?わかった。でも、それは帰るまで待ってくれよ」


「それはわかってるわ。それとあと、あの 霜の巨人(フロストジャイアント)と戦ってた女の子について教えなさいよ。本当に精霊なの?あの時、あとで教えてくれるって言ったでしょ」


 マートはんーと言いにくそうにつぶやき、頭を掻いた。それに第一、ニーナはタイミングがなくて実は顕現を解除できず、しかたなく彼女にだけ通じる念話で良い感じにやってくれとだけやり取りして向こうに置いてきてしまっており、姿を見たいと言われても見せることはできない。

 

「んー、以前古代遺跡で俺が呪われて、ウルフガング教授にその呪いを人形に移したのは憶えているか」


「うん、そういうことがあったわね。ライラ姫にそっくりになっちゃって、みんなで大騒ぎしてた……たしか感情の精霊がどうこうって言ってたわね」


「あれさ。精霊によっては格闘が得意なのも居るんだ。姿形はあの当時のライラ姫にそっくりのままだから、ばれちゃまずいと思って仮面をかぶらせてる」


 真実ではないが、これで通そうと考えて、マートはそう説明した。

 

「へぇ、そういうのもあるの? 精霊魔法についてはよくわからないけど……」


 ジュディはいまいち納得していない様子だ。

 

「あの格闘能力はすばらしかった。一度手合わせしたい」


 逆にシェリーは身を乗り出している。

 

「ああ、おちついたらな。ただし、あれは俺の奥の手の一つだ。姿形がライラ姫の若い頃にそっくりというのもある。他言無用で頼むぜ」


「わかったわよ」「わかった」


「そういえば、あの 霜の巨人(フロストジャイアント)は人間の言葉を喋っていたわね。人間の前世記憶があったのかしら?でも、それにしては龍鱗も使っていた」


 ジュディは不思議そうに呟いた。

 

「んー、ドラゴンは進化すると最終的にはエンシェントドラゴンになる。そのエンシェントドラゴンってのは人間の言葉を話し、魔法も使えるようになったはずだ。あの 霜の巨人(フロストジャイアント)は自分自身が進化したのとは別に前世記憶もそこまで進化してたんじゃねぇかって俺は思ってる」


「ああ、なるほどね。種族としても進化し、前世記憶も進化したってわけね。ということは邪悪なる龍はやっぱりあいつだったって事? やっぱりとどめを刺したかったなぁ。転移呪文で逃げられるのは厄介ね」


「そうだな。今わかってるやり方だと、魔法無効化の魔道具を使うことぐらいしか思いつかないけど、それをすると魔法でダメージも与える事も出来なくなっちまう。下手すると聖剣の蛮族への特効効果もなくなるかもしれねぇからなぁ」


「そうね。そのあたりはもうちょっといいやり方がないか調べたほうが良いわね。収穫祭が終わったら研究所にお邪魔しようかしら」


「ああ、頼む。そのときはついでにシェリーやアレクシアの魔法の勉強をみてやってくれ」



読んで頂いてありがとうございます。


この36話は少し長くなっています。一応、一回分のお話は増量はしているつもりなのですが、なかなか解決まで至りません。あと少し……のはずです。もう少々お付き合いください。


一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。できればよろしくお願いします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

見直してはいるのですが、なかなか無くならない……申し訳ありません。


評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


2021.9.28 エイシェント → エンシェントです ごめんなさい うろ覚えで書いちゃいました>< 訂正します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ニーナは一人で蛮族の集落に留まってるのか… うん、嫌な予感しかしない。今がチャンスとばかりに好き放題暴れてそう。 [一言] ジュディは知らないけど蛮族の拠点がエルフの森の南にもう一つあって…
[良い点] トップのマートがめっちゃ働くから、部下は大変だな
[良い点] 救出された連中、絶望からの希望でマートに対する信仰心芽生えたりして。中には故郷に帰れてもまた同じ事あったら嫌だからって永住者出そう。 [気になる点] エイシェントドラゴン。わざとなのかもし…
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