281 巨大集落探索2
2021.9.16 14:37 ウェイヴィの口調がおかしくなってました。ごめんなさい。訂正しました。
マートはまず今潜んでいる天井近くでフラターを呼び出した。
「マートが見ていた扉の先の空間といま私たちが居る空間との間で風の通り道を探すのだな?」
フラターは宙にふわふわと浮かび、マートに尋ねた。
「ああ、それもせめて子供が通れるぐらいの広さのな」
「わかった、任せておけ」
彼女は宙に浮かんだまま、両手両足を広げ少し上を向いて目を閉じた。
……
5分程経っただろうか、フラターは両目を開けた。
「広すぎる。すぐにはわからぬ」
自信満々だった彼女は少し涙目だ。
「どうした?」
「この地下空洞と向こうの空洞とはほんの隙間程度はつながっているもののマートが言う程の幅の隙間はない。ただ、向こうの空洞には地の底にむけて大きな穴が開いている。その底はさらに広い空洞が広がっているのだ。そこから、どこかの地上へつながる道はあるかもしれぬ。だがそれを調べるには時間がかかる」
「なるほど、わかった。ありがとうフラター。気を落とすことはない」
マートはフラターの頭を撫で、往還した。マートは今度は地下空洞の中でも蛮族が居ないところで水のある場所を探す。地下水で削られてできた鍾乳洞というだけあって、水が溜まっているようなところは数多くある。
「ウェイヴィ」
ウェイヴィが姿を現した。服を着ておらず裸だ。色っぽく身体をくねらせている。
「どうした?ウェイヴィ。服は?」
「ねこはフラターだけ頭を撫でた。私はずっと長い間ねこと契約をしてるのにその様な事をしてくれたことない。魅力足りなかった? いまは誰もいない2人きり、なら服を着ていなくてもいいのでしょ?」
……マートは少し考え込んだあと、ウェイヴィの顔をじっと見た。ゆっくりと近づいていくと、軽く抱きしめた。
「いつもありがとう、ウェイヴィ」
ウェイヴィは急に明るい顔になった。その反応にマートは苦笑し、それをみてウェイヴィも同じように苦笑いを浮かべた。
「ありがと、ねこ。今回はこれでごまかされておく。ねこは罪なオトコ。気を付けたほうがいい」
「そうか……そうだな」
「じゃ、ちょっと調べてみる」
ウェイヴィは、手を振っていつもの服を身にまとうと溜まった地下水に手を触れた。ゆっくりと目を瞑る。
……
「わかった。ここから少し離れたところに地下水湖がある。そこから向こうの洞窟の中にある地下水湖に地中で水脈がつながってる。そこなら通り抜けられる」
ウェイヴィはそう言って微笑んだ。
「わかった、ありがとう ウェイヴィ」
マートはウェイヴィに水中呼吸、水中行動の呪文、そして道案内もしてもらって、人間たちが収容されている洞窟の一つに移動したのだった。
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その洞窟の中は篝火も焚かれていなかったが、先ほど収容された人間の男たちに1本だけ松明を渡されており、その明かりでゆらゆらと照らされている。何かが腐ったような饐えたにおいが漂っていた。中は入り組んでいるがかなり広い。人間の男たちは10人程だったがお互い顔見知りなようで、何か話し合いながら洞窟の中がどのようなものかおそるおそる調べ始めていた。
マートの見たところ、彼らの他に中に人間が数人居た。だが、彼らはみな弱り、洞窟の隅のほうでばらばらに分かれ、壁にもたれて座ったり、寝転んだりしていた。その中の一人が、新しく入ってきた10人程の男たちに弱弱しい声で話しかけた。
「新入りさんたちよ、何か食べ物はもってねぇか?」
男たちは急に話しかけられたことに驚き、ゆっくりと松明を近づけ壁際に座っている男を見つけると、その周りに群がるように集まった。
「おまえさんは何者だ? 人間か? 人間だな? ここはいったいどこなんだ」
10人程の男たちが口々にその男に質問した。だが、座ったままの男は松明の明かりが眩しそうに手で目を覆い、苦しそうに咳をしながら首を振った。
「ダービー王国の北の蛮族の街というぐらいしかわからねぇ。俺はダービー王国、グランヴェルちかくの村の農夫だ。ここに連れてこられて半年程経つ。悪いが、もうちょっと行ったところに水たまりがあるから、そこに行って水をいっぱいとってきて飲ませてくれねぇか?」
「汲んでくるのはいいが、何か入れ物は?」
「そんなものはねえんだ。掌ですくってきてくれ」
男たちは色々とその男に話を聞いた。彼の話によると、ここは働き盛りの男が入れられる洞窟の1つで、今は昼間なので彼のように動けないものを除いて皆、外の畑に連れていかれて農作業をしているということだった。水は地下水がいろんなところに染み出てきているので飲めるが、食事は農作業の行きと帰りに1回ずつ、決して十分な量ではないが与えられるらしい。彼は体調を崩していて農作業に行けず、空腹を堪えてここで座っているという。
同じような洞窟があわせて30個ほどあり、性別やおおよその年齢で分けられているというのはマートが見た通りだった。この洞窟には夜には500人ほどの人間が帰ってきて、地面に直接寝転がって寝るのだという。かなりの頻度で、さまざまな蛮族が現れ、収容されている人間が連れていかれるらしい。
「まるで家畜だよ。畑を耕して、飯を食わされ、家畜商人みたいなのが必要に応じて連れていっちまう。俺はそれが嫌で目立たないようにしていたんで連れていかれることはなかったが、そうしているとどんどんと体力が落ちてきた。この洞窟は結構冷えて寝れないんだよ。結局長いこと生き残るのは難しそうだ。俺みたいに体力の落ちたのはそのうち蛮族に食われるか、畑の肥料さ」
もうすぐ、死んだ者が居ないか見回りの蛮族が来るはずだと座ったままの男は言った。死体や極端に弱った者が居れば回収されるのだという。回収された後、どうなるかは誰も知らない。それが怖くて奥にある深い縦穴に飛び込んで自殺するのも居るらしかった。
なるほどな、マートも彼らの会話を聞いて状況を理解した。30個ある洞窟が同じような状況であれば、かなりの人数だ。そして、ここに運び込まれている食料、物資も膨大な量になるだろう。マートは地下空洞の調査はここまでにして、来た水路を使い地下空洞に戻ることにしたのだった。
“捕まってる人間のことはわかったぞ。あとはこの巨大集落の地図が欲しいと言われるんだろうな”
“よくわかっておるではないか。人間の都市であれば、他に騎士団や衛兵隊の詰所の情報となるが、蛮族は全員が兵士じゃからのう。後はこの集落の主が何者か調べておきたいところじゃの”
マートが呟くと魔剣がそう答えてきた。そうだな、この巨大集落の主か。おそらくかなり手ごわい相手だろう。
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