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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第36話 エルフの森の異変

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279 撤退?

 

「すげぇ広いな。こりゃぁ、ワイズ聖王国の王都より広いんじゃねぇか?」


 山影から急に展開された光景にマートたちが感嘆の声を上げていると、マートの目に1体の蛮族が空中に飛びあがったのが見えた。他のメンバーはまだ気づいていないが、おそらく向こうでもマート達の船に気が付いたものが居るのだろう。


「もうみつかっちまった。1体、空に飛びあがったのが見えた。他にもまだ居るかもしれねえ」


“あんなおっきい集落のボスだからすごいのが居るんだろうなぁ、戦ってみたいなぁ。でてこないかな”


 ニーナの戦闘狂(バトルホリック)ぶりはいつも通りだが、ワイアットの顔は一気に青ざめている。


「マート様、いったん逃げましょう。これほどの集落です。蛮族が、いったいどれほど居るのか」


「そうだな、とりあえず逃げるぞ。風よ!」


風制御(ウィンドコントロール)


 マートたちの船はあわてて旋回し、元来た海峡を急いで戻り始めた。マートが気付いた空を飛ぶ蛮族はマートたちの船を追いかけてきた。さらにもう1体、後ろを追って来ていた。合計2体、両方ともゴブリンだ。真理魔法が使えるゴブリンメイジか。魔法で飛んでいるのだろう。

 

「とりあえず、撃ち落とすで良いか?」


「はい、お願いします」


 ワイアットが間髪入れず答えた。マートはワイバーン殺しの魔弓を取り出して、キリキリと引く。矢が生成された。マートがひょうと放つと、矢は手前のほうのゴブリンの額の真ん中に命中した。声を上げる暇もなく回転しながら海面に落下していく。

 

 2体目のゴブリンはあわてて高度を落としつつ離れていった。

 

風飛行(ウィンドフライ)

 

 マートのほうが逆に精霊の力を使って上空に移動する。ゴブリンは波しぶきにまぎれるようにしながら水面ぎりぎりに飛行して港のほうに逃走を始めていた。マートはそのゴブリンを狙って続けざまに矢を放つ。2本命中。そのゴブリンは崩れ落ちて海に落ち波にのまれた。

 

 マートはしばらく見回して他に追跡してきている蛮族が居ないかを確認していたが、他に追っ手は見当たらなかった。船はそこで進路を北側の島らしきものがある方向に変更し、蛮族の目をくらまして潜めそうな場所を探すことにした。しばらくして、小さな入り江をみつけたマートたちは、3隻の船を停泊させたのだった。

 

「とりあえず追っ手は撒いたようだな、どうする?」


 マートは、同じ船に乗っているワイアット、アレクシア、エリオットに尋ねた。


「そうですね。これでエリオットさんは再び転移して来れるのでしょう。敵の集落の位置は判りました。それで十分目的は果たしたと考えます。一旦撤退しましょう。改めて間諜を潜り込ませる手段を考えましょう」


「うむ、そうだな、ここの場所はわかった。転移できるぞ」


 ワイアットとエリオットの会話を、マートがあわてて両手を出して2人を制した。


「いや、ちょっと待ってくれよ。たぶん、あの集落が人間の運び先の可能性が高いんじゃねぇか? 放り出して帰るわけには行かねぇだろ」


「マート様? あの集落からまさか……人間を救出したいと……お考えですか?」


 ワイアットは驚いて目を見開いた。


「ああ、そうだ。途中で拿捕した船を合計しただけで3千人近い人数なんだ。あの集落には、もっと居るんじゃねぇかと思うんだよ」


「そう……かもしれませんが」


「エリオットが転移してお嬢をこっちに連れてくりゃぁ転移門を繋ぐことができるようになる。そうすりゃ騎馬隊にしても蛮族討伐隊も準備し放題だ。人間を連れて帰る事もできる。そりゃあ犠牲を厭わずに何が何でも救出なんて気はさらさらねぇが、なんとか努力してみたいと思う。どうだ?」


「それは……」


 ワイアットは返答に困窮して考え込んだ。アレクシアが口を挟む。

 

「マート様、少しお待ちください。マート様の思いは判りました。ですが、あの巨大集落に人間がいるかどうかもわかっていません。まずはそこからではないでしょうか?長距離通信用の魔道具で皆にも状況を連絡しましょう」


「そうか、たしかにそうだな。よし、皆は他の連中と連絡をとって、どういう事をするのがいいか相談してみてくれ。俺はとりあえず、集落の様子を見てくる。まずは3時間ぐらいだな」


「マートさま、一人で行かれるおつもりですか?ぜひ私もお連れください」


 アレクシアがとんでもないとばかりに声を出した。だが、マートは少し暗い顔をして首を振る。


「悪いが、それは無理だ。あの集落の規模からすると、かなりやばいやつが居る可能性が高い。悪いが見つかった時に庇いきれる自信がねぇ。そんなところに連れてはいけねぇよ」


「私も斥候です。マート様のなんとか手助けになりたいと努力してきたのですが……」


 アレクシアは唇を噛み締め、それ以上の言葉は言えずに飲み込んだ。

 

「頑張ってくれてるのは知ってる。だが、申し訳ねぇ」


「わかり……ました。力の差は前から判りきっていた事でした。しかし、あれほどの規模の蛮族の集落に一人忍び込んで誰かを助けようとされるとは……。そして、こういう時に止めても無駄な事なのでしょうね……。私達を助けてくださったときも、ごく簡単な事のように転移トラップに乗られたのだと聞きました。わかりました。ですが、くれぐれも無理はなさらぬようにしてください」


「あいよ、わかった。ほんと、わりいな」



読んで頂いてありがとうございます。


一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。できればよろしくお願いします。



誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここで足手纏い(言い方悪いですが)になるからとしっかり断れるのがマートの良いところですね。 他の物語ならしっかり相手に捕まって足を引っ張るか良くて能力覚醒パターンのどちらか笑
[良い点] 真理魔法を使うゴブリン! 魔術学校で机を並べてゴブゴブ言いながら魔術の勉強をするゴブリンたちの姿がふっと頭に思い浮かんで不覚にも笑ってしまった。 実際には学校ではなく師弟関係を結んで魔法を…
[気になる点] 助けた後の人等も問題ですね。 マートの推測通り万前後位いたら、流石にセドリック達も管理が大変そう。まぁ、それはマートが一時的にまた開拓民にすればいいのかな? [一言] 王都より広い大規…
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