278 旧ダービー王国沿岸の航海
訂正 商船を帆船としました。
ガレー船にも帆があるので商船のほうが適切かと考えていたのですが、商船といっても荷を運ぶ帆が主動力の船というだけで蛮族の場合、戦いに参加する事もありそうですので、帆船のほうがわかりやすいのかなぁと考えたためです。
以前の話も徐々に訂正します。
「沈めてしまわないのですか?」
戦いが終わりマートは残った蛮族たちの死骸を海に蹴り落とし、海の水をつかって血などを洗い流すよう皆に指示を始めたのを見て、ワイアットは不思議そうに尋ねた。蛮族が使っていた船はあまり手入れもされていなさそうであるし、変な装飾も施されていている上、非常に汚い。
「そういうなよ。これでも貴重な戦力になる。1隻作るのには材木から用意しないといけないんだ。せっかくだから利用しようぜ。試験航海だからって船員は多めに連れてきてる。帆を利用し半分は曳航ってすれば、乗り手は少なくてもオランプまでなら何とかなるだろ」
「それはそうですが……」
「セドリック王子はファクラ奪回にもっと船が必要なはずだ。いくらハドリー王国に魔法の絨毯があるって言ってもな。少し手間だがこのガレー船を引っ張って一旦オランプに引き返す。オランプの突堤はかなり空きがあった。9隻のうち半分の4隻はダービー王国にわけてやって、残りは突堤を借りて帰るときまでつないでおく。あと手の空いてる船員を探して連れてくるんだ。少しぐらいは鹵獲できるかと期待してた程度だったが、このペースならもっと手に入りそうだからな。そうすりゃ、内海での海上の戦力バランスも早く変わるってもんだ」
マートの言葉にワイアットは少し考え込んだ。
「わかりました。ダービー王国の海軍が強くなれば、蛮族はもっと圧迫されます。わかりました。そうしましょう」
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マートたちはフラターの力も借り、蛮族の鹵獲したガレー船をなんとか白き港都オランプにまで運び込むことができた。港の人々はまず、蛮族特有の装飾がされたガレー船が入港してきたことに驚き、そして、それを曳航しているのが朝に出航していったマートたちであることを知るとさらなる驚きと不思議そうな顔で見た。
そして、注目されながら、港の内政官に、ナフラテ河の河口で、11隻ものガレー船に遭遇し、さらに9隻を拿捕して帰ってきたと説明すると大いに驚嘆されたのだった。
その話を聞くと、セドリック王子はカルヴァンと複数の騎士を伴い港にやってきた。
「ナフラテ河の河口で蛮族と遭遇したそうだな。それもかなりの数を簡単に撃退したと聞いた。さすがマート殿だ」
王子が港までやってきたことに、港に居た一般の民衆は驚いた。だが、入港してきた相手も、普通の恰好をしており、話す言葉も同じなので特別に意識していなかったが実はワイズ聖王国の伯爵であり英雄であることに気づくと不思議と納得したのだった。
「あれぐらいは大したことねぇさ」
「河口を守る11隻のガレー船であろう。河口からは水の流れもある。我々がファクラに侵攻するのに重大な脅威になったはずだ」
マートは不思議そうな顔をしていたが、横で聞いていたワイアットやアレクシアは頷いていた。
「まぁ、いいさ。とりあえず半分の4隻はやるよ。代りに残りの5隻、そしてうまくいけばもうちょっと鹵獲してこれると思ってっから、それらもしばらくこっちで預かってくれ。それと、そのうまくいけばだが、鹵獲した船をこっちに連れて帰るための船員をここの港で雇いたいと思ってるんでそれの許可を頼む」
「4隻もか?」
セドリック王子は驚き、一緒に出てきたカルヴァンと顔を見合わせた。そして喜びの表情を浮かべた。
「わかった。助かる。これで単独ででも……」
その様子を見て何かを察したようにアレクシアが念話を送ってきた。アレクシアは真理魔法の素質があるのがわかってから特に熱心に訓練をしていた。そしていくつかの魔法を習得していたが、念話呪文もその一つだ。
“マート様、セドリック王子をお止め下さい。彼は単独でファクラ攻略を検討しているかもしれません。カルヴァン殿とよく相談したうえで慎重にするようにと説明を……”
“ああ、そういうことか。わかった言っとく。ありがとな”
マートはセドリック王子の顔をじっと見ると、かるく首を振った。
「蛮族は強いぜ。ちゃんとカルヴァンと相談しなよ」
マートにそう言われ、セドリックは驚きつつもしぶしぶといった様子で頷く。
「船を預かる件と、人を募集する件はわかった。カルヴァン、城に戻って作戦会議だ」
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船と船員の調達に手間がかかり、マートたちが再びナフラテ河の河口に姿を見せたのは3日後だった。だが、今回蛮族側は前回の戦いに懲りたのか姿を見せなかった。もしかしたら、河口を守る船はあれがすべてだったのかもしれない。リザードマンが水中に現れないかと警戒は怠らない。船は進路を東北東に変え陸地を右に見ながら進んだ。さらに行くと左手にも陸地が見えてきた。中央には山がそびえるアワテ島である。この島も対岸の陸地と同様に、かつてはダービー王国の版図であったが、今は廃墟らしきものは見えるものの人間の姿は無かった。
しばらく航行しているとその海峡に5隻の帆船が見えた。例によって所属の旗がないのでおそらく蛮族の船だろう。護衛のガレー船の姿は見えない。
「蛮族の帆船だ。人間が積まれてるかもしれねぇ。捕まえるぞ」
マートはフラターを召喚し、ライトニングを海上に出すとその背に飛び乗った。
「わかりました。帆船は後ろに退避、ガレー船2隻は蛮族の帆船を追跡!」
発見されたことに気が付いた帆船の舷側から、つぎつぎとリザードマンたちが海に飛び込んだ。護衛のガレー船はいなくとも、リザードマンが護衛ということなのだろう。
マートのライトニングとワイアットの率いるガレー船は蛮族の帆船にどんどんと近づいていく。途中、水上に頭を出したリザードマンを見つけるたびに船上から弓を射て倒しながら進む。それでも何体かのリザードマンが舷側に手をかけた。だが、マートのガレー船は漕ぎ手よりも戦い手のほうが多い構成であり、その戦い手も蛮族討伐隊である。十分に訓練をうけた彼らは、よじ登ってこようとするリザードマンに対して複数で立ち向かい確実に撃退してゆく。その戦い方は非常に安定していた。
蛮族の帆船が近づいてくると、船上にいたラミアやゴブリンたちが弓を放ってきた。だが、蛮族の矢はすべてフラターが途中で風を送り見当はずれの方向に飛ばしてしまう。逆にワイアットたちの放つ矢はフラターの助けを得てかなりの精度で蛮族に突き刺さった。
マートとワイアットの率いるガレー船が帆船にたどり着いた頃には、矢を放ってくる蛮族はもうほとんど残っていなかった。ガレー船からつぎつぎと帆船にとびうつった蛮族討伐隊の面々は残った蛮族を制圧して帆船を占拠したのだった。
調べてみると、帆船の積荷はほとんどがやはり人間だった。皆、身体は薄汚れ、空腹で疲労はしているものの体調に大きな問題はなく、話を聞くとダービー王国南部の人々がずっと故郷から港まで、荷馬車のようなものに乗せられたり、歩かされたりして連れてこられ、どこか知らないところに運ばれて行くところだったらしい。かれらは5隻でおよそ400人ほどであった。マートたちはとりあえず食料などを分配し、連れてきた船員のうちの一部をこの5隻に移乗させるとこの5隻をオランプに向かわせることにしたのだった。
「リザードマンが厄介だな。連中も船に乗ってるところを見ると、さすがにずっと泳いでるのは無理なんだろう。だが水中からの攻撃か。まだこういう時なら良いが、港に潜入されて朝になったら船が全部使えなくなってるとか冗談じゃねぇぞ」
「その通りですね。セドリック王子には夜間の港の警備などについても話をさせましょう。でもこれで人間がダービー王国北部に運ばれていることが確実ですね」
「そうだな。こっちはダービー王国の占領地から運ばれていってるらしい。かなり大々的かもしれねぇな」
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マートたちはその後も航海を続けた。かつてのダービー王国だった領土を越え、20数年前までは蛮族との国境であった地域も超えた。国境には長い城壁が築かれていたらしく、海上からも巨大な石が積まれ、かつては城壁だったと思われる残骸が見えた。もし平原にずっと城壁を築いていたとしたら、ダービー王国の苦労は並大抵のものではなかっただろう。途中で何度も蛮族の船と遭遇し、破壊・沈没させたガレー船は7隻、拿捕した帆船24隻、ガレー船は8隻に及んだ。拿捕した帆船には同じように人間が大量に載せられており、拿捕したガレー船と共に鹵獲した船はオランプに向かわせたのだった。ただし、ここでオランプから連れてきた2隻の帆船と船員たちもそれらの事に費やされてしまい、マートたちは再び元の3隻のみとなっていた。
旧国境らしきところを越えたマートたちの左手には、またアワテ島のような陸地が見えていた。ここから先はろくに地図もない地となる。二つの陸地の間には海峡がありまだ海は続いていそうであった。それが島であることを信じてそのまま北北東に進路を進めてゆく。やがて、マートたちは右手の大陸に巨大な港を発見したのだった。その巨大な港は、以前ニーナが発見した港湾都市遺跡とは全く違った。停泊しているのはガレー船だけでも100隻以上、帆船は大小あって数えきれないほどだ。だが、突堤のつくりはかなり原始的であった。さらにその港の先には原始的な木や布で作られた建物が見渡す限り並んでいた。そこはまさしく蛮族たちが作った巨大集落だった。
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