277 初海戦
翌朝、補給品などを十分に積載したマートたちは白き港都オランプを船出して、一路蛮族の支配地沿岸にあたる南東に向かった。すぐに現在蛮族支配地域とハドリー王国の国境となっているナフラテ河の河口にでる。川幅は1km近くもある巨大な川だ。ここを遡上すると今では蛮族の支配地となっている水都ファクラがあるはずだ。
マートたちが眺めていると、陸地のほうから何かが近づいてきた。よく見るとガレー船である。船のマストにはどこの所属という旗はなく、おそらく蛮族だろうと思われた。ガレー船は11隻。マートたちをみつけて寄ってきたのだろう。
「帆船はオランプ方面に後退、2隻で迎え撃つ。マート様、フラター様をお願いします」
「わかった。フラター」
マートの召喚にフラターが応え姿を現した。3隻が1方向に移動するだけであれば、召喚せずにマートの精霊魔法という形でも可能であったが、戦いとなると細かい制御が必要で、フラターを召喚して直接風を制御してもらわないと無理なのだ。
「アレクシア、フラターのフォローと護衛を頼むぞ。俺は先に行って減らしてくる」
マートはライトニングを海面に呼び出すとそこに飛び乗った。フラターはガレー船に残って風の制御をはじめる。帆船は弧を描いて方向転換をはじめ、2隻のガレー船は間隔を左右に散開を始めた。マートの乗るライトニングは真っすぐに蛮族のガレー船に向かって進み始めた。
「だめだ、マート、離れると召喚は解除される」
フラターが叫ぶ。
「わかった。フラター来い」
マートが叫ぶとフラターは船の甲板からライトニングの鞍のマートの後ろに飛び移った。ぎゅっとマートの背中に抱きつく。
「これで無敵だ。行くぞマート」
フラターの言葉にマートは苦笑を浮かべつつ蛮族のガレー船に進む。ワイアットの集団戦闘がつながった。マートの知覚を加えて戦場はクリアに脳裏に広がる。
<雨射>射撃闘技 --- 矢の雨
マートは立て続けに矢を放つ。山なりの軌道を描いた矢は、蛮族の先頭にいる3隻のガレー船に雨のように降り注いだ。
「ギャウ! フギャ! ガルルッ!」
悲鳴を上げガレー船の漕ぎ手であるゴブリンたちが息絶えてゆく。矢の雨の対象となったガレー船は速度を落として脱落していった。生き残った少数のリザードマンが次々と内海に飛び込んでいく。
マートの後ろで、ワイアットの指揮するガレー船は左右に散開したあと距離を開けた状態を保ちマートと平行して前に進み始めた。蛮族の残るガレー船は速度を上げ、マートにむかって進み始めた。
「まだ突っ込んでくるのか」
<雨射>射撃闘技 --- 矢の雨
マートは再び矢を放った。今度は4隻が矢の雨に襲われた。リザードマンは今度はゴブリンを矢避けに使ったようで、前回より多くのリザードマンが生き残った。その連中はまた内海に飛び込む。残った4隻がマートに突っ込んできた。フラターはライトニングごと空中に持ち上げ軽々と4隻のガレー船を飛び越える。目標を見失った4隻の蛮族の船にワイアットの指揮する2隻のガレー船が左右から突っ込んだ。それぞれ1隻ずつ船尾にぶつかって壊し、さらにそこにはとどまらずにその勢いのまま突き抜けて交差するようにして反対側に抜けてゆく。
ライトニングは着水して振り返る。ワイアットの指揮する2隻はくるっと弧を描いて回頭した。ふたたび突撃体制だ。相手はまだうまく回頭できていない。
-よし、圧勝だ。そう叫ぼうとしたマートの足に水中から何かが槍を突き出してきた。
“水の中からくるよ”
ニーナの念話を聞いてあわてて身構えたマートは辛うじてその槍を避けた。リザードマンだった。彼らは水中行動と水中呼吸のスキルを持っている。気が付けば、マートの周囲の水中には漕ぎ手を失った7隻の船から泳いできたリザードマンが大量に群がり囲んでいた。
「ちっ、そういうことか、フラター、あまり離れないから空で待ってろ、ウェイヴィ、頼む」
『水中行動』
『水中呼吸』
フラターは宙に浮かぶ。マートはライトニングをコインにし、弓もマジックバッグにしまうと水の中に飛び込んだ。リザードマンが集まってくる。腰にさした強欲の剣を抜く。
<円剣> 直剣闘技 --- 全周囲攻撃
マートは水中で剣を横に突き出すようにして上下しながら円を描くように泳ぎ回る。周囲が緑色の血で染まる。マートとリザードマンはお互いが魔法やスキルで水中を自由に行動できるが、リザードマンは相手が水中行動を持っているなど予想もつかずに虚をつかれたのだろう。ろくに抵抗できずに傷を負っていく。
「ぎゃ!ぎゃぎゃ!」
ひときわ身体の大きいリザードマンがマートに向けて槍を突き出した。キロリザードマンだ。身長は通常のリザードマンが2m程なのに対して3m程でしっぽは4m近くある。水中ではしっぽを左右にくねらせて泳ぐので、どちらかというと体長6mほどで手を持つ巨大なワニのように見える。
<五連突> 槍闘技 --- 5回攻撃
マートは辛うじて、その槍を剣で受け流した。キロリザは身体をくねらせ水中を自在に泳ぎ回り、何度も槍で突いてくる。以前陸上で戦った時に比べて圧倒的な速度でマートは防御一方になった。
『痛覚』
その時、ニーナが魔法でキロリザの行動を阻害した。しっぽを急に縮ませ泳ぐ速度が緩んだ。
“いまだよ”
マートは強欲の剣をキロリザの白い腹に向けて突き出した。ずぶりと深く突き刺さる。マートはそのまま腹を切り裂くように弧を描きながら剣を引き抜いた。深緑の血に海水が染まる。
「ギャッ、ギャギャギャ!」
キロリザとマートの戦いを水中で見ていたリザードマンたちは、恐れをなしたのか南にむかって撤退をし始めた。マートは何体かを追撃して倒したが、とてもすべては無理だ。周囲には居なくなったのを確認して空中に飛び出す。
「おかえり、マート。丁度良かった」
ワイアットたちが残る2隻へ乗込をかけ制圧し、勝鬨を上げていた。初めての海戦は無事マートたちの勝利で終わったのだった。
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2021.9.10 商船 → 帆船




