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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第36話 エルフの森の異変

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274 国への報告

 

 マートはローレライでの会議が終わるとすぐにアレクシアと共に王都に移動した。ジュディは移動のたびに呼ばれると愚痴をこぼしたが、事情を説明すると理解してくれ、夕食を共にすることで許してくれることになった。

 

 彼女にはついでにエリオットにローレライまで来るように伝言も頼んでおく。エリオットはウィードの街の政務館からすこし離れた館で夢であった研究生活をしながら自堕落な生活を送っている。彼を呼び寄せるという話は皆にしたが、実はマートから連絡する手段はなかったので、ジュディ様々である。彼も連れ出されることについてはぶつぶつと文句をいうだろうが、様々な魔法のヒントを教えてくれたジュディが呼びに来たとなれば、出てきてくれるだろう。ジュディを送り出したマートはその足で魔法庁のライラ姫を訪ねたのだった。

 

「マート様、どうなさいました? 領地に1ヶ月ほど帰ると仰っておりましたのに、まだ一週間も経っておりませんよ? アレクシアさんもお久しぶりです。お2人ともどうぞお座りください」


 魔法庁の応接の間にマートとアレクシアを迎えたライラ姫は意外そうな口ぶりながら嬉しそうな顔で自ら席を勧めた。


「いや、ちょっとすごい事が判ってな。急遽(きゅうきょ)戻ってきた。まず、話を聞いてくれよ」


 マートは慣れた様子でソファに座る。アレクシアは丁寧にお辞儀をしてその横に座った。そして2人は内海のおそらく北岸の古代港湾都市の遺跡で行われている事柄をライラ姫に話し始めた。

 

「なんと! その様な事が……。マート様からのダービー王国での報告でゴブリンが農場で働いていたという報告があったのは記憶しております。今のところ、我々がラシュピー帝国の騎士団と協力して奪還した帝国南部ではまだ人々が連れ去られていたという報告は上がってきておりませんが、もしかしたら城塞都市ヘイクスや芸術都市リオーダンの界隈ではそういうことが行われている可能性があるのですね」


「ああ、そうだろうな。人間が家畜として連れ去られ働かされているというのは、見過ごせねぇ。なんとかしてやりたいと思うんだ」


 ライラ姫はぎゅっと口を結んでじっと考え込んだ。マートはその様子を見ながら待つ。しばらくしてライラ姫は首を振った。

 

「無理です。ラシュピー帝国での魔龍王国との戦いはすでに半年を超えました。我が国の騎士団はいずれも交代しながら必死で戦っております。この間もマート様には連絡させていただいた通り、リオーダンへの侵攻作戦は何度も提案されておりますが、とても勝算は立たず、断念しているのが現状なのです。人々は助けたいですが、我々の騎士団はそこまでたどり着けません」


「すまねぇ、やっぱりそうだよな。なぁ、うちの船で蛮族や魔龍王国の船を襲うのは良いか?」


「えっ?」


 ライラ姫は意外そうな顔をした。

 

「マート様の領地の騎士団は千人にも満たぬ規模だと伺っております。もちろんローレライを治めるようになられて増えてはおられるでしょうし、マート様を初めとして、シェリー様、アマンダ様の武名は聞こえておりますが、その様な事は可能なのでしょうか? それに……」


 そこでライラ姫は言葉を切った。すこし迷った様子があり、そして意を決したようにじっとマートの顔を見て話し始めた。


「マート様ですので正直に申し上げますね。実は3個騎士団の騎士たちの糧食や褒賞が精一杯で、もし、戦果を収められたとしても我が国から褒賞はおろか糧食すら出す事も難しいのが現状なのです。ですから……」


「ああ、そうだろうなと思ってた。ハドリー王国との同盟をする際の2国間協定でラシュピー帝国およびダービー王国の領地を新たに領土に併合しないっていう事にしちまったんだろ? 俺にはよくわかんなかったが、家令長のパウルが言ってたよ。ハドリー王国の国土を拡げさせないためにそうしたんだろうが、ラシュピー帝国の国土回復でワイズ聖王国が得られるものが少なすぎる。騎士団が保てるんだろうかってな」


「それはご指摘の通りです。ラシュピー帝国の皇太子妃は私の姉ですし、ブロンソン州及びアレン侯爵家の一部が王家直轄地になると想定できたことから、なんとか乗り切れると考えていたのですが、戦争が長期化の様相を呈していることから負担が大きくのしかかってきているのです」


「戦争は大変だよなぁ」


「これが、自国土を回復する戦いというのならまだ戦意もあがるのですが、他国の救援となると難しいところです。ジュディ様より聞いていただいているでしょうが、今年の収穫祭では人間の敵の魔王を討伐するのだということを大々的に宣言し、戦意高揚を図りたいと考えております。よろしくお願いします」


「ああ、お嬢からは連絡が来てた。わかったよちゃんと行くさ。で、話は戻すけどよ、うちの船で蛮族や魔龍王国の船を襲うのは良いか? もちろん、糧食は自分でもってくし、そっちから褒賞をもらおうとは思ってねぇ」


「それは……もちろんかまいません。あ、内海で他の国の領海や港にも行かれますか?」


「ああ、そうなるな。どっちにしてもこの件を連絡はするんだろ?」


「わかりました。もしマート様のほうで動いていただけるのであればこちらの面目も立ちます。ありがとうございます」


「いや、俺が勝手にやることだからな。礼を言われる程の事でもねぇよ。じゃぁ、連絡は頼む。あと、蛮族がいる港とかを占領したらどうしたらいい?」


「我が国とハドリー王国との協定上、そこがダービー王国やラシュピー帝国の元領土であれば返還する必要があります。もちろんそれに見合う褒賞を代りに頂く前提です。とはいえ、極端に疲弊している現状からすると、その褒賞を受け取るには時間がかかることを覚悟していただかねばなりません。それ以外の領地の場合は使えぬように破壊していただいても、伯爵領に併合していただいてもどちらでも結構です。元より蛮族の土地というのは土地も痩せていることが多くあまり実入りは見込めないと思います」


 マートは頷き、立ち上がった。ライラ姫も立ち上がり丁寧にお辞儀をする。アレクシアとマートはそのまま退出していったのだった。

 

「マート様、あれでよかったのですか?」


 自宅に帰った後、アレクシアがマートに尋ねた。

 

「ああ、全然いいさ。もちろん戦争をしたいってわけじゃねぇけど、うちは統治階級である騎士が少ねぇから褒賞にする土地は逆に余ってる。戦争で活躍したいっていう連中しか騎馬隊には入れてねぇしな。蛮族討伐隊も蛮族を倒すのに異論はねえだろう。蛮族との戦いというのであれば、両方とも喜んで参加するだろうぜ。俺としてもそれで手柄を上げてたくさんの連中が1等騎士になってくれたら嬉しいしな」


 マートはニコニコとしながら言葉を続ける。


「ローレライは不作気味だったが、ウィードやグラスゴー近辺は豊作だったから食糧は十分にある。国同士の争いに引っ張り出されるのはまっぴらだが、今回みたいに蛮族に一方的に被害を受けてる人間を救うのに使うんなら悪くないだろ」


「なるほど、マート様、さすがです」


 アレクシアはうれしそうだ。


「それによ、湾岸都市遺跡だぜ? 今はオークたちが居るという話だが、きっと地下には宝物がいっぱい眠っているに違いねぇ。姐さんたちも蛮族連中の船さえなんとかすれば俺が遺跡探索に行くのも許してくれるだろ」


 マートの目はキラキラとしていた。アレクシアはその様子を見て苦笑いを浮かべたのだった。

 

読んで頂いてありがとうございます。


今回でいうとエリオットとジュディのやりとりとかそういった細かい話も書きたいなぁと思ったりしますが、あまり枝葉に入っていくと本編が進まないので止めています。需要はあるのでしょうかねー。


一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。できればよろしくお願いします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり隠していても根っこは冒険者としてのそれがガッチリ残っているなんだなって感じるひと幕でした。
[良い点] マートの融通無碍なキャラがとても魅力的です。 [気になる点] ふと思ったのですが、マートを動かしている行動原理は、冒険心と恵まれない人達に対する優しさ(自分の生い立ちから来る?)みたいな感…
[一言] これで第35話が活きてくるわけですね。内海の老人に頼んで、ウォーターサーパントや魚竜に味方してもらえれば、大きな戦力になりそうですね。今から古代遺跡の地下探索が楽しみです。
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