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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第36話 エルフの森の異変

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272 古代遺跡の拠点


 マートは結局その日ずっとパウルに捕まって様々な予定や方針、領内の問題に対する意見と言った事柄を根掘り葉掘り質問され、夜遅くにくたくたになって部屋に帰った。その時にはすでにニーナは帰ってきており、海辺の家の庭で一人でのんびりと肉を焼いて舌鼓を打っていた。

 

「帰ってたのか。向こうはどうだった?」


「人間がいっぱい居たよ。だからいったん帰ってきた。あーやっぱり新鮮なのは美味しいね。マートも食べる?」


 ニーナは薄めに切った肉を軽く火にあぶってぱくりと口に入れた。

 

「おお、うまそうだな。これは?」


「ワイルドアンガスと呼ばれる巨大な牛だよ。途中で群れを見つけたから、一匹狩ってきたんだ。顕現してる間は僕もおなかが空くしね」


 ニーナの勧めでマートも隣に座り、木に挿して遠火であぶられおいしそうに脂汁が垂れている肉塊をとると、かぶりついた。

 

「へぇ、結構柔らかくてうまいな。それで、人間が居た?一体どういうことなんだ?」

 

 あぶった肉を食べ、ウェイヴィに冷やしてもらったエールを飲みながら、マートはニーナから向こうの状況の説明を聞いた。

 

「あの海の家から転移門が繋がったところ。あそこから南に100キロほど行くと、内海に出た。そこに巨大な古代の港湾都市遺跡があってさ、そこにオーク連中が居るという話だったんだ」


 ニーナの説明によると、その都市遺跡を利用した巨大な集落が出来ており、そこにはオークやゴブリンがおよそ1万体ほど居たらしい。オークジェネラルは見つけれなかったが、オークウォーリヤーの姿はあったのだという。さらにその古代港湾都市には、多くの船が停泊していたらしい。

 

「オークが船を操っていたのか?」


「ううん、船を操っていたのは、人間の前世記憶を持つ蛮族に指揮されたリザードマンとラミアたちだったよ。たくさんの船が始終港から出入りしていた。そして、その船が運んでいたのは、オークやオーガ、ゴブリン、大量の食糧、そして鎖につながれた人間だった」


「鎖につながれた人間? そいつは……」


「ああ、魔龍王国の魔人も居たから、その連中の記憶を奪って調べたよ。元々魔龍王国っていうのは、人間を魔人が支配するという考えでいたから、従順でさえいれば人間は元々の土地を耕して生きることが出来たらしいね。もちろんヘイクス城塞都市以北の開墾のために拉致された人間は居たらしいけどさ。でも、巨人が王になってそれが変わった。ダービー王国を占領した蛮族連中と同じように、土地はゴブリンに耕させようとしてるみたいだよ。人間は開墾用の家畜として扱われているらしいんだ。それで、ヘイクスとリオーダンに近い辺りはもう人間はほとんど居ないんだってさ」


 マートはぐっとこぶしを握り締める。

 

「くそっ、すると、ラシュピー帝国に居る人間はヘイクス城塞都市の北だけでなくダービー王国の北に、開墾するために運ばれていっているってことか」


「そういうことだね。あと、ダービー王国からゴブリンたちが運ばれてきてたよ。そっちは人間の代わりに農業をさせるためだろうね。オークたちが居る港湾都市は中継基地でしかないってことさ。オークの1万ぐらいならつぶせないこともなかったけど、結局また送り込まれてくるだけだろう?というわけで、いったん戻ってきたってわけさ」


「わかった。しかし、どうすりゃいいかわからんな。秘密の情報源があって、そこから情報が入ってきたことにしてまず姐さんとアレクシアに話をするか。夜中になるけど仕方ねぇな」


「うん、わかったよ。でももうちょっとだけ食べさせて。あと冷やしたエールを1杯ね。朝から食べてなくてさ」


「ああ、それぐらい良い。このタイミングで少しぐらい時間かけても同じだろ」


-----


 

「急に呼び出して悪かった。ちょっと入ってきた情報が情報だったんで、明日の朝に緊急会議のつもりなんだが、その前に相談したかったんだ。なんとか連れていかれてる人間を救ってやりたいと思うんだが、どうしたらいいのかよくわからねぇんだ。無理かな」


 衛兵隊隊長のアニスと補佐官のアレクシアはマートの話を聞くとうーんと深く考え込んだ。


「正直言って、厳しいね。うちの最新鋭のガレー船は一隻目が昨日損傷を受けてドックに戻したばかりなのは(キャット)も知ってるだろ?次の船は1週間後の予定だよ。今使ってる船は、領地を引き継いだ際に残ってた老朽船ばっかりだ。というわけで、まず、船はろくに使えない」


 そこまで言ってアニスはマートの様子を見た。だが、マートもじっとアニスを見ているだけで何も言わない。

 

「それにラシュピー帝国から人を乗せて出港するための港湾拠点は候補は3箇所ぐらいあるけど、どこにしても陸路では芸術都市リオーダンを陥落させないとたどり着けない場所にあるんだよ。芸術都市リオーダンへの攻略はずっとラシュピー帝国の貴族からも要望がでてるけど、とてもまだ踏み切れる段階じゃない。うちから攻略の提案をしてみなよ。ライラ姫が怒り狂うだろうねぇ」


 マートはたしかにそうだなぁと頷き、肩を落とした。


「可能性があるとすれば、そのマートの部下が調べてきたっていう古代港湾都市の占領ぐらいかねぇ。ただそれをするにはジュディ様にお願いして転移門で兵力を送り込めることが前提で、食料の輸送にも協力が必要になるだろう。船を使うにも、東西は敵地で逃げるところもない。反対意見も出るだろう。そこに居た人間だけ救出して都市は使えないようにするか。あと、オークが1万という情報が正しければ、蛮族討伐隊と騎馬隊両方が出撃しても厳しいところだろうね。どちらにしても付近の地図や詳しい兵力配置図も欲しいところだねぇ」


「わかった、もう遅いから話は一旦ここまでにしよう。俺が聞いた話をもう少し詳しく整理して地図を描くのにアレクシア、ちょっと手伝ってくれねぇか?」


「はい、もちろん、わかりました」



読んで頂いてありがとうございます。


一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。できればよろしくお願いします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ラシュピー帝国の領土がある程度人の手に戻ったことであぶれた蛮族が住む場所を求めて港湾都市遺跡にきたのかなと思っていたのですが、事態は予想以上に深刻で蛮族の動きは大きかった。 このままだとラ…
[一言] ニーナはオークの1万ぐらいならつぶせないこともなかったけどって言ってるが、アマンダは蛮族討伐隊と騎馬隊両方が出撃しても厳しいところだろうねって言ってる。 ニーナ強いな。逆に言えばニーナだけ…
[良い点] 「パウルに捕まって」という一節だけで何故か笑ってしまいました。 [気になる点] 「人間の前世記憶を持つ蛮族」というのは凄まじい驚異ですね。 既に操船や開墾で生産力を上げているので、敵も本腰…
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