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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第35話 内海航路 ※章ではなく話としました

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268 見極め

 

小竜巻(リトルトルネード)


飛行(フライ)


 少女がそう唱えると、マートの足元から急に風が吹きあがり渦を巻いた。マートは持ち上げられ転びそうになったが飛行スキルを使って体勢を整える。少女はマートの様子を見て驚いた顔をした。

 

 ・・・・・・(なぜ ころば)・・・(ぬのだ?)

 

 床にたまった水面よりマートは浮かび上がった状態を保ったまま少女をじっと見た。精霊だけに魔法は得意なのだろうが、魔法の素質の高いマートにはあまり効果はないはずだ。そして接近戦能力はそれほど高いようには見えない。風相手に弓は効かないかもしれないが、それを除いてもマートに対しては相性はよくないだろう。内海の老人はなにを考えて彼女を(けしか)けたのだろうか。マートにセルキーをゆだねて大丈夫なのか見極めをしているのかもしれない。

 

 ・・・・・・(なぜけんを)・・・(ぬかぬ? )・・・(なめるな)

 

風刃(エアーブレイド)


 少女の両手から三日月の形の鋭く緑色をしたものが9枚、一気に現れてマートを襲う。マートはほぼ同時に身体を低くし、両手足で身体の急所は庇いながら宙を蹴り少女のすぐ近くにまで飛び込む。ほとんどはかわしたものの、腕と足の数か所が斬られ血しぶきが飛ぶ。だがそれにかまわずマートは少女の腕をつかんだ。脚をかけると一気に投げる。

 

<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る

肉体強化(ボディブースト)

<崩落> 格闘闘技 --- 投げ飛ばす

 

 ・・・・・・(なんと)

 

 マートは少女の腕を掴んだまま水面に身体をたたきつけた。格闘戦の経験などあまりないのだろう。少女の顔が驚愕に歪む。マートは腕を極めて少女をうつ伏せにし、背中に膝を載せて体重をかけた。

 

 ・・・・・・(どうだ こ)・・・(うさんか?)

 

 少女は抜け出そうともがいたが動けない。

 

トルネー……』


 新たに呪文を唱え始めたが、マートがマジックバッグから魔道具を取り出しスイッチを入れると、くたっと力が抜けたように水のたまった床に大の字になった。


 ・・・・・・(どうして)・・・(ちからが)


 ・・・・・・(わるいな )・・・(まほうむこ)・・・(うかの ま)・・・(どうぐだ)


 ・・・・・・(そんな、う)・・・(ごけない)


 ・・・・・・(どうだ こ)・・・(うさんか?)

 

 少女は一瞬泣きそうな顔をして唇を噛みしめた。さらにもがき続けたがどうしても逃げ出せず、しばらくして悔しそうに降参だと言った。

 戦いの様子を見ていた内海の老人はその様子を見て頷いた。可能であれば無力化するだけで命はとらない。それでよかったか。

 

 ・・・・・・(たたかいに)・・・(ならなんだ)・・・(か そなた)・・・(のかんがえ)・・・(かたはわか)・・・(った よい)・・・(だろう そ)・・・(なたのやり)・・・(かたにまか)・・・(せよう た)・・・(だしそのか)・・・(ぜをつれて)・・・(ゆくのだ)

 

 マートは少女を放し、手を貸して立たせた。

 

 ・・・・・・(かんしやく)・・・(ということか)

 

 ・・・・・・(どうかんが)・・・(えるのも)・・・(じゆうだ )・・・(はげしくう)・・・(ずをまくか)・・・(ぜよ よいな)

 

 少女はすこし頬を赤くして頷いた。

 

 ・・・・・・(マート、わ)・・・(たしとけい)・・・(やく なま)・・・(えをつけよ)

 

 マートは少し考え込むと、少女をじっと見つめる。

 

 ・・・・・・(いいだろう)・・・(おまえのな)・・・(は はため)・・・(くというい)・・・(みをもつ)・・・(ふらたー)

 

 はるか南の海で生まれた激しく渦巻く風、フラターと名付けられた少女はマートにゆっくりと近づきマートの左腕に触れた。泉の精霊(ナイアド)の水色の波を連想させる文様、炎の精霊(サラマンドラ)の赤く燃え盛る炎を連想させる文様、下にニーナの黒い獅子の紋章が並んでいる。その横に、黄色の渦巻く文様が刻まれた。

 

 ・・・・・・(ふらたー)・・・( よんで)

 

 そう伝えて、半透明の少女は一度姿を消した。

 

「フラター」


 再び一陣の風が巻き起こった。そして、再び姿を現した少女は先程より透けてはおらず、普通の人間に似て長く豊かな金髪が腰辺りまで伸びている。

 

「マート、私はフラター、内海の偉大なる老人の指示により、そなたに従う。末永く使ってくれ」


「わかった、フラター。仲良くしよう。最初に願いがある」


「何なりと言うがよい。私はそなたのしもべだ」


「まず、召喚されて姿を現すときは服を着て欲しい。老人のようなもので良いな。それとあと少し待っていてほしい。俺は内海の老人と話がある」


 フラターが手を振ると、内海の老人が着ているのと同じような白いトーガのようなものが現れた。マートは老人に向き直る。

 

「老人よ、提案なのだが、これから船の進水式では、生贄を捧げるのを止め、まず昔のセルキーの話をし、争うのは避けようと話し合い、酒を捧げるということにさせてくれないか。今ですら生贄のほうにのみ注意が払われ、セルキーの話の教訓にはあまり意識されていないようだ」


 内海の老人は頷いた。

 

「島には人間は上陸しないほうがよいのか?それならば、俺から各港に連絡しよう。また、もし嵐などで流れ着く船が居たら、フラターを通じて知らせてほしい。その代り、内海の航路として、この島の沖を使うことを許してほしい。渦巻やウォーターサーパントのような魔獣の脅威があると航路としては使いにくいのだ。最後に今現在セルキーが困っていることで俺が助力できることはないか?」


 ・・・・・・(うむ、あのし)・・・(まはうみの)・・・(ものとせる)・・・(きーたちの)・・・(らくえんと)・・・(してくれる)・・・(のであれば)・・・(りくちにち)・・・(かいばしょ)・・・(は、にんげ)・・・(んたちにこ)・・・(うどうをゆ)・・・(るしてもよ)・・・(いだろう)

 

 内海の老人は島に人間が来ない代わりに内海の沿岸地域を人間たちが自由にすることを了承してくれた。漁をするにしろ、交易をするにしろこの時代、船は陸地が見える範囲ででしか航行しないのが基本だったはずだ。その範囲で渦巻や海の魔獣が現れないのであれば十分だろう。

 

「では、内海の老人よ、今日はフラターと共に帰ることにする。末永く良好な関係が続くことを祈るよ」

 

 内海の老人はそれで納得してくれたようだった。マートは頷くと微笑み、フラターの方に向き直った。

 

「よし、フラター、帰ろうか。あんたの力を教えてくれよ。飛ぶことはできるんだろう?」


 彼女は竜巻の精霊らしく、風の力を使い何かを飛ばしたり、風を飛ばして攻撃したりといったことができるようだった。マートは彼女の力で空を飛んだりして、彼女の力を確かめながら港に向かう。途中、ライトニングが渦に出会ったあたりでマートを待っていた。マートはそこでフラターを往還すると、ライトニングにまたがり港に戻ったのだった。

 


読んで頂いてありがとうございます。


一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。できればよろしくお願いします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 手も足も出ず負けて、少女はすこし頬を赤くして頷いた。って怒ってるんじゃないならM生えてないか。
[良い点] 飛行スキル以外の飛ぶ手段を獲得したっぽい。 マート自身はスキルがあるから必要なさそうだけど、風の精霊に頼んで仲間を浮かせることができるなら助かるだろうな。 あと、ライトニングが無事で安心し…
[良い点] ついに風の精霊とも契約できましたか。 精霊相手に格闘戦を仕掛ける作品は初めて見たと思います。 そしてそれを別の視点で見るとやはり・・・ [一言] <●><●> かわいい少女を組伏せて、末永…
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