267 内海の老人
マートはライトニングを走らせて、水上を一路、内海の老人が住むという島の方角に向かう。途中、ウォーターサーパントが近づいてきたが、ライトニングの速度にはついてこれないようで、マートはすぐに振り切ることができた。
ローレライを出てしばらくたつと、進む先に陸地が見え始めた。島とは思えないほどの大きさである。さらに近づいていくと、海が急にうねり渦を巻き始めた。さすがのライトニングも前に進むことが出来ず姿勢を保つのが精一杯になる。
マートが飛行に切り替えようとしていると、渦の中から何か巨大なものが姿を現した。
トカゲを思わせる巨大な頭、その大きさは頭だけでも3m程はありそうだった。ウロコに覆われた長い首は太さ2m、長さは10m程はあるだろう。そこから続くひれの付いた巨大で流線形の丸い胴体は水中にあって20mは超えそうだ、さらに長い尻尾がついていた。
「なんだ?こいつは。ドラゴンか?いや、魚竜か?」
魚竜はドラゴンに似ているが手足はなく、その代わりにヒレがあって、水中をかなり速い速度で泳ぐことが出来る魔獣だ。マートは実物を見るのは初めてである。以前見た資料によると、皮とその内側の脂肪が分厚くて攻撃がほとんど通らず、氷の息を吐き、顎でかみつき尻尾を振り回して攻撃すると書いていたはずだ。こんなところに居たとはとマートは驚き、どうやって対処すればよいか迷った。見たところあまり知能はなさそうだが、内海の老人の配下ということだろうか。
マートは警戒しながらライトニングに指示をして距離を開けさせようとしたが、魚竜は一気に距離を詰めてきた。大きな波にマートはライトニングごと飲み込まれた。
“ウェイヴィ、頼むっ”
波の勢いは激しくマートは乗っていたライトニングから投げ出された。途中泉の精霊のウェイヴィが水中呼吸をかけてくれたおかげで少しは楽になったものの、水の流れに逆らうことができない。マートは水の中を渦にのって運ばれていった。
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運ばれていった先は、どこか古い遺跡だった。床には水が溜まり、天井はくずれてなくなっている。マートはその入り口あたりに波に運ばれたのだった。彼は到着してすぐ、付近になにかの気配を感じて急いで立ち上がった。
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マートのすぐ前には、白い髪、そして白いひげを長く生やした老人が立っていた。白い裾の長いローブのようなものを身にまとい、手には杖をもっている。
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マートはそう告げて、老人をじっと見た。海の母と会ったときもそうだったが、恐ろしい程の力を感じる。マートはその場に跪きそうになったが、足に力を入れてこらえる。
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老人はそのやり取りで何かを少し感じ取ったのだろう。ゆっくりと微笑んだ。
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内海の老人のいう事は厳しい。だが、それではいつまでたっても人間の生贄を要求されてしまうのだろう。
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なるほど、それだけの実力があるかと問うのか。マートは老人をじっと見つめて頷いた。
老人は杖を持ち上げた。
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一陣の風が吹き老人のすぐ横に全裸の少女が現れた。宙に浮かんでいる。身長はおよそ150㎝ほどだろうか。スレンダーな体形で、皮膚は少し黄色味を帯びて透けていた。長くきれいな金色の髪が風にゆらいでいる。
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ここから遥か南の海で生まれた激しく渦を巻く風……竜巻かそれとも台風の精霊だと思われる彼女はマートをじっと見てにやりと微笑んだ。反対にマートはかわいい少女が相手になると知ると、苦笑を浮かべた。
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