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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第35話 内海航路 ※章ではなく話としました

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267 内海の老人

 

 マートはライトニングを走らせて、水上を一路、内海の老人が住むという島の方角に向かう。途中、ウォーターサーパントが近づいてきたが、ライトニングの速度にはついてこれないようで、マートはすぐに振り切ることができた。


 ローレライを出てしばらくたつと、進む先に陸地が見え始めた。島とは思えないほどの大きさである。さらに近づいていくと、海が急にうねり渦を巻き始めた。さすがのライトニングも前に進むことが出来ず姿勢を保つのが精一杯になる。

 マートが飛行に切り替えようとしていると、渦の中から何か巨大なものが姿を現した。

 

 トカゲを思わせる巨大な頭、その大きさは頭だけでも3m程はありそうだった。ウロコに覆われた長い首は太さ2m、長さは10m程はあるだろう。そこから続くひれの付いた巨大で流線形の丸い胴体は水中にあって20mは超えそうだ、さらに長い尻尾がついていた。

 

「なんだ?こいつは。ドラゴンか?いや、魚竜か?」


 魚竜はドラゴンに似ているが手足はなく、その代わりにヒレがあって、水中をかなり速い速度で泳ぐことが出来る魔獣だ。マートは実物を見るのは初めてである。以前見た資料によると、皮とその内側の脂肪が分厚くて攻撃がほとんど通らず、(アイス)の息(ブレス)を吐き、顎でかみつき尻尾を振り回して攻撃すると書いていたはずだ。こんなところに居たとはとマートは驚き、どうやって対処すればよいか迷った。見たところあまり知能はなさそうだが、内海の老人の配下ということだろうか。

 

 マートは警戒しながらライトニングに指示をして距離を開けさせようとしたが、魚竜は一気に距離を詰めてきた。大きな波にマートはライトニングごと飲み込まれた。

 

“ウェイヴィ、頼むっ”


 波の勢いは激しくマートは乗っていたライトニングから投げ出された。途中泉の精霊(ナイアド)のウェイヴィが水中呼吸ウォーターブレッシングをかけてくれたおかげで少しは楽になったものの、水の流れに逆らうことができない。マートは水の中を渦にのって運ばれていった。

 

----- 

 

 運ばれていった先は、どこか古い遺跡だった。床には水が溜まり、天井はくずれてなくなっている。マートはその入り口あたりに波に運ばれたのだった。彼は到着してすぐ、付近になにかの気配を感じて急いで立ち上がった。

 

 ・・・ ・・・(あれだけの) ・・・(うずにまかれて) ・・・(も ぶじだった) ・・・(とはな)

 

 マートのすぐ前には、白い髪、そして白いひげを長く生やした老人が立っていた。白い裾の長いローブのようなものを身にまとい、手には杖をもっている。

 

 ・・・ ・・・(あんたが) ・・・(ないかいの) ・・・(ろうじんか)

 

 ・・・ ・・・(そなたはうみ) ・・・(のものにの) ・・・(っていたな ) ・・・(なにものだ)

 

 ・・・ ・・・(おれのなは) ・・・(まーと ) ・・・(ろーれらいの) ・・・(りょうしゅ ) ・・・(うみのはは) ・・・(からしもべ) ・・・(をあず) ・・・(かっている)

 

 マートはそう告げて、老人をじっと見た。海の母と会ったときもそうだったが、恐ろしい程の力を感じる。マートはその場に跪きそうになったが、足に力を入れてこらえる。

 

 ・・・ ・・・(なるほど ) ・・・(そなたは) ・・・( せいれいに) ・・・(あいされた) ・・・(ものという) ・・・(わけか)

 

 ・・・ ・・・(しぜんには) ・・・( けいいを) ・・・( はらって) ・・・(いるつもりだ)

 

 老人はそのやり取りで何かを少し感じ取ったのだろう。ゆっくりと微笑んだ。

 

 ・・・ ・・・(にんげんの) ・・・(いけにえには) ・・・(ふふくか ) ・・・(では、かわりに) ・・・(せるきー たち) ・・・(のほごしゃ) ・・・(をつとめるか)

 

 内海の老人のいう事は厳しい。だが、それではいつまでたっても人間の生贄を要求されてしまうのだろう。

 

 ・・・ ・・・(おれのや) ・・・(りかたで) ・・・(やらせて) ・・・(ほしい)

 

 ・・・ ・・・(そなたが) ・・・(それをする) ・・・(だけの) ・・・(ちからが) ・・・(あることを) ・・・(しめせ)

 

 なるほど、それだけの実力があるかと問うのか。マートは老人をじっと見つめて頷いた。

 

 老人は杖を持ち上げた。


 ・・・ ・・・(ここから ) ・・・(はるかみ) ・・・(なみのう) ・・・(みで うま) ・・・(れた はげ) ・・・(しくうず) ・・・(をまくかぜ)


 一陣の風が吹き老人のすぐ横に全裸の少女が現れた。宙に浮かんでいる。身長はおよそ150㎝ほどだろうか。スレンダーな体形で、皮膚は少し黄色味を帯びて透けていた。長くきれいな金色の髪が風にゆらいでいる。

 

 ・・・ ・・・(わたしを) ・・・(よんだか )  ・・・(ないかいの) ・・・(おおいなる) ・・・(ろうじんよ)


 ・・・ ・・・(めのまえの) ・・・(わかものの) ・・・(ちからを) ・・・(ためしてやれ)

 

 ここから遥か南の海で生まれた激しく渦を巻く風……竜巻かそれとも台風の精霊だと思われる彼女はマートをじっと見てにやりと微笑んだ。反対にマートはかわいい少女が相手になると知ると、苦笑を浮かべた。


 ・・・ ・・・(わかった ) ・・・(ゆくぞ ) ・・・(わかものよ)


 


読んで頂いてありがとうございます。


一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。できればよろしくお願いします。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はるか南の海で生まれたってことは海の母の精霊とも知り合いなのかな。精霊って場所に縛られてるイメージが強かったけど風の精霊だからか活動範囲が広いんだね。 [気になる点] ライトニングは無事な…
[良い点] 風系の精霊来たー!試練に選ばれる位だから戦闘得意そうな精霊ですし、気に入られれば契約出来そう(マートの気質的に、風は自由って感じで相性良さげか)
[良い点] 内海の老人の人外感が凄いです。 [気になる点] 今回はマート以外では内海の老人に会うこと自体が難しく、言葉や選択を間違えていたらマート終了のお知らせだったのでしょうか?
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